Middle 1-2 不意の邂逅

「必要なのは速人クンの『証言』です。」


 ボロボロの医務室で速人に向きなおり、炭井は話しを進める。


「キミはボク達の追うに誘拐されて、オーヴァードに覚醒したと考えられます。

 キミが誰に遭ったのか、なぜ巻き込まれたのか、どんな目に遭ったのか、それを聞かせてほしいのです。」

「誘拐…どんな目に…?」


 先刻の恐怖がよみがえり、震えが走る。


「今のボク達にとってはキミが唯一の手掛かりなのです。

 もちろん、身の安全は全力で守りますし、今後のキミの日常もできる限り保証します。

 どうか…お願いできませんか。」


 10歳近く年上の炭井から深々と頭を下げられ、戸惑う速人。


「あの…わかり、ました。僕にできることなら…。」


 何より自分に…わからないままではいたくなかった。

 その返事に炭井はニコリ、と柔らかな笑みを浮かべる。


「どうもありがとう。それでは早速ですが、この支部のメンバーを紹介します。

 立てますか?」


 ―――――


 医務室から速人が案内されたのは、会議室のような部屋だった。


「支部長、おつかれさまです。」

「…え?」


 待っていたのは同い年くらいの少年と少女。

 そのうち長い黒髪の少女に速人は見覚えがあった。


「氷見川君、無事でなによりです。」

「え?えぇと…委員長、ですよね…?」

「その通りです。なぜ急に敬語に?」


 間違いない。愛想はないが無駄もない。同じクラスの“カタブツ委員長”だ。

 最後に学校で苦しめられたと思ったら、最初にこんなところで顔を合わせるとは…。

 いやそれより、にいるということは…。


「もしかして、委員長も…その、能力を?」

「あぁ、泉チャンは時々UGNに力を貸してもらってる協力者イリーガル。今回の捜査メンバーの一人です。」


 なんでも速人がいなくなったことが発覚したのも、彼女の報告がきっかけという。


「支部長、コイツですか。は。」

「―ぅわ⁉」


 突然、視野の外から刺々しい声が聞こえて飛び上がる。

 振り返ると、これまた同い年くらいの少年が速人を睨みつけていた。


「彼は一条響真クン。今回の件の応援のために、UGN日本支部から来てくれました。」


 「秘密組織のエージェント」というからには007ダブルオーセブンみたいな強そうな人が出てくると思っていた。

 まさかクラスメイトのような顔ぶれ(1人は実際にクラスメイトだ)とは夢にも思わない。


「さて…ひとまずこの4人で今回の調査に当たりますが…。まぁ今日のところは顔合わせだけ。本格的な調査は明日から…ということにしましょうか。」

「⁉“マイスター”…!」


 抗議の声を上げる響真をスルーし、炭井は続ける。


「まだ能力を扱えない速人クンの護衛です。泉チャン、響真クン、家まで送って行ってあげてくれませんか?

 若者同士、少しでも打ち解けられた方がいいでしょう。」

「…お言葉ですが、打ち解けるつもりはありません。

 オレの任務は“インジェクター”を探すことです。」


 それだけ言うと、響真は部屋を出ていった。


 ―――――


 速人と泉は特に会話もなく夜道を歩く。

 速人の家が見えてきた辺りで、口を開いたのは泉だった。


「…ひとつ、聞かせてください。

 私達が…人間ではない能力ちからが、恐くはありませんか?」


 速人の答えを恐れているように、弱々しい声で尋ねる泉。

 普段の気丈な様子とはかけ離れた態度に戸惑いながら、速人も医務室を焼き焦がした能力ちからの事を思い返す。


「…まだよくわからない…っていうか…。

 それに今は、僕もなんだよね?」

「そうです、ね…。すみません、意味のない質問でした。」


 ―――――


 事件はまだ始まったばかり 悪意と欲望の主は闇に潜む

 困惑、執念、疑念、不安。

 それぞれの想いは、いかに交わり、どこに行き着くのだろうか。


>>SCENE END



 *****

氷見川速人

 高校生/高校生

 侵蝕率:45%

 PC間ロイス…「怖い目つきの人」一条響真(○好奇心/恥辱)


瞬く間に背後へフラッシュ・バック”一条響真

 暗殺者/UGNチルドレン

 侵蝕率:40%

 PC間ロイス…「任務上の上司」炭井六郎(○有為/悔悟)


“バレルマイスター”炭井六郎

 UGN支部長/探偵事務所所長

 侵蝕率:47%

 PC間ロイス…「支部の協力者」坂木泉(同情/●疎外感)


“シルキィウェブ”坂木泉

 高校生/UGNエージェント見習い

 侵蝕率:48%

 PC間ロイス…「覚醒した同級生」氷見川速人(好意/●疎外感)

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