Middle 2-1 学校にて

 翌日、月曜日。

 学校の玄関で拓海に詰め寄らる速人がいた。


「お前大丈夫だったのか?!あのあと全然連絡つかねぇし…!」

「えっと…実はになってて、さ…カラオケ行けなくてごめんな。」

「…マジかよ…!何ともなかったのか?頭とか骨とか?」


 歯切れの悪い速人を疑う風でもなく、全力で心配している拓海。

 罪悪感を覚えながらも、上手くごまかせて一安心していた。


「なんか調子がおかしかったら無理すんなよ?」

「うん…ありがとう、拓海。」


 友人の言葉が、非日常に乱された心に「日常」を感じさせてくれる。

 そのやさしさ、その騒がしさに救われる…だからこそ、このおおざっぱな親友を巻き込みたくないと思うのだった。


「…あれ、そういえばお前、今日日直じゃなかったか?ほら、飯島ちゃんと一緒の…」


 『ほら』の辺りで走り出したが、時すでに遅し。

 職員室から配布プリントの山を抱えてきた飯島いいじまユキとは、教室の前で鉢合わせた。


「おはよう、氷見川くん。プリントは持ってきたよ。」


 他意なく笑いかけてくるユキ。

 速人は自分の鼓動がさらに早まるのを感じつつ、冷や汗混じりに謝った。


「二階堂君がすごく心配してたけど、大丈夫だった?」

「あぁ…さっき会ったよ。けっこう大げさだったけど、ウン。」


 飯島さんの方は心配してくれてたのかな…などとは流石に訊けない。

 必死に動揺を抑える速人。

 その様子を二階堂拓海は愉快そうに、坂木泉は冷静に見つめていた。


 ―――――


 放課後、速人は裏門で泉を待っていた。

 昨日問題になっていた「攫われている間の事」についてだ。


「この時間、この辺りに近づく人はほとんどいません。

 《ワーディング》を張っておけば、偶然近づいても追い払えます。」

「ワーディン…?」

「オーヴァードのエフェクト…能力のひとつです。

 無関係な人を気絶させたりもできますが、私なら近づく前に追い払うこともできるので。」


 足元を見れば、地面には光る線が張り巡らされている。

 よく見ればそれは、泉の足元を中心にのような形に広がっていた。


「まずはこの写真を見てください。」


 てきぱきと手渡されたのは女性の顔写真。

 瞬間、速人の視線はそのに吸い寄せられた。


「これが私たちが調べている…氷見川君を拉致したと思われる人物です。名前は…」


 泉の声は耳に入ってこない。

 カチン、と鍵が外れるように、あの日の出来事が脳裏に蘇る。



薄暗い、病室のような部屋、白衣の女性の、どこか不安を感じる不気味な笑顔

 

その背後には

鋭い眼光だが その光はどこか濁っている


女性の顔が近づいてくる

期待と好奇心に満ちた それでいて温かみの無い目

生きた人間ではなく新しい玩具を見る子供のような

さえ感じる不気味な眼が速人を射すくめる………



「…ッはぁっ!!」

「氷見川君?大丈夫…」

「この女性ひとだ…。間違いない。この人と…もう一人、男の人もいた。

 そうだ、病室みたいな部屋でなにか刺されて、真っ暗になって。急に意識がはっきりしたらそこから離れたくて…。誰かがいたから怖くて…攻撃、した…!」


 追い立てられるように言葉を吐き出す。

 自分が攻撃したのは、まぎれもなくあの少年…響真だ。


 我を忘れて人に襲い掛かった記憶。

 蘇ったのは。そして響真の反撃で岩肌に叩きつけられた痛み。

 速人はしばらくの間息を荒げ、震えてうずくまることしかできなかった。



 >SCENE WILL CONTINUE…>

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