Opening 3 あるイリーガルの再会

 北海道、札幌近郊「星川ほしかわ市」

 人口約17万人。東西南北と中央、5つの地区に分かれた街である。


 その東区の住宅街。

 高校の放課後、坂木さかきいずみは寮までの帰り道…とはちょっと違う道を歩いていた。


(欠席の生徒にに急ぎのプリント、ですか。

 大して遠回りではありませんが、果たしてこれはクラス委員の仕事なのでしょうか…。)


 心の中でボヤいていると突然、背後から気配を感じる。

 捕らえ、絡めとり、逃がさない、そんな気味の悪い気配。

 明確なを持った誰かがそこにいる。


(そんな、私一人じゃ…誰か…!?)


 必死に冷静さを保とうとしながら、周囲に「

 だが気配はすぐに薄れて、消えていく。


(いなく…なった…?)


 彼女もまた、に生きるオーヴァード

 しかしたった一人でに対峙したことはなく、今突然浴びせられた悪意には、ただただ怯えるばかりであった。


「久しぶりね、坂木さん。」


 息を整える間に背後に立たれ、短い悲鳴が漏れる。

 恐る恐る振り返ると、そこにいたのは泉の知る人物だった。


「風間…先生?」

「どうしたの?恐い顔して。」


 風間かざま芳美よしみ超思考能力者ノイマンの泉に必要な知識を教えた女性だ。

 オーヴァードでこそないが、その博識から多くのエージェントにも信頼されていた。


「いえ…!先生、お久しぶりです!

 …実は何か嫌な気配があったんですが…先生は何か気づかれましたか?」

「ごめんなさいね。私は昔からそういうのは苦手で…。」

「そう…ですよね。」


 ならば油断はできない。

 ここにいるのは戦い慣れないオーヴァードと、非オーヴァードのみ。もし襲われれば…。

 そう思った泉だった、が。


「そんなことより、今日はあなたに会いに来たの。端的に言えばスカウト…私と一緒に来て、研究に協力してほしいの。」


 張り詰める泉に対し、風間はゆるりと話しかけてくる。


「え、と…。それはありがたいですが、まずはこの場を離れて支部に行きませんか?

 この辺りにはまだ何者かが…」

「…貴女の答えは聞いていないの。」


 泉の言葉を遮る風間の口調が冷たく一変する。

 同時に、首筋にが一直線に向かってきた。


「え!?」


 辛うじて気づき、紙一重で躱す。

 一瞬だけ、蛇のようなものが風間の元に戻っていくのが見えた。


「あら、みたいに大人しく捕まってくれるかと思ったけど…仮にもオーヴァード相手じゃ簡単にはいかないものね。」

「捕まえる…?先生、一体…!?」

「えぇ、あなたを探しにこの学校に来たら、思いの外素質のある子がいたから、昨日のうちに確保しておいたのよ。αトランスクスリを打ってもうすぐ12時間。データを見る戦闘型のようだし、あなたの支援とも噛み合いそうでよかった…。」


 一方的にまくし立てる風間は、急に眉を潜める。


「これは…ごめんなさいね、今はの様子の方が気になるから…また迎えに来るわ、“シルキィウェブ”。このFHエージェント“インジェクター”がね。」


 かつての恩師がFHそう名乗ったことがにわかには信じられない。

 その場で動けなくなってしまった泉を残し、風間芳美は歩み去っていった。


「先生は一体…。

 私と比べるような言い方…同年代?の…『昨日の彼』…昨日襲われた…男子…!」


 会話を思い返し、ひとつの可能性に至る。


「もしかして氷見川くんは…。」


 今日突然欠席したクラスメイトの家へ急ぐ。

 彼が昨日から帰っていないことがわかり、泉が支部に報告を入れたのはそれから10分後の事だった。


 >SCENE END


 *****

 私立白矢高校2年・UGN協力者イリーガル

 “シルキィウェブ”坂木泉

 “インジェクター”風間芳美から接触を受ける

 侵蝕率:42%

 シナリオロイス:「恩師」風間芳美(○尊敬/劣等感)

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