Opening 4 ある支部長への指令

 金曜の真夜中、ある建物の一室。

 書類棚にも机にも大小様々のがらくたが置かれ、オフィス用デスクも作業台のような有り様だ。

 鼻唄交じりにガラクタの山を弄り回していた男が、鳴り出した電話機を取る。


「もしもし。星川第二支部の炭井です~。」


 ここはUGN星川第二支部。

 この(ガラクタに侵蝕されつつある)部屋が支部長室。そしてよれたスーツを着たこの男が星川市東区を守る支部長…炭井すみい六郎ろくろうである。


『…炭井支部長?モニターをそちらに向けてもらえますか?』


 慌てて真横を向いていたパソコンのモニターを自分に向けると、映ったのは穏やかに笑う男性。


「どうも失礼しました。霧谷支部長。」

『いえいえ、構いませんよ。今お時間をよろしいですか?』


 その相手は、UGN日本支部を束ねる男、霧谷きりたに雄吾ゆうご

 伝説の海神が万物を呑み込むように、あらゆる事件、案件をたちまち解決してゆく手腕から“リヴァイアサン”の異名をとる、日本UGNの要である。


「もちろんですとも。」


 霧谷からの突然の連絡、それはいつも事件と任務の始まりだ。

 炭井は椅子に座り直して続きを待つ。


『つい先刻、調査中のチルドレンが星見ヶ丘山中で、高校生1名を保護しました。

 それに関連してFHファルスハーツセル“人形軍団ドールズパレード”の調査をお願いしたいのです。』


 UGNと対立するテロ組織「FHファルスハーツ

 その組織は細胞セルと呼ばれる独立した集団が、それぞれの目的で動くことで成り立っている。

 時にはセル同士で対立もするが、行動の自由度が高く、対処の難しい存在だ。


「“ドールズパレード”…あまり聞いたことのない名前ですね?」

『三ヶ月前に初めて確認されたセルです。

 調査に向かったエージェントがいずれも消息を絶ち、実態はほとんど…。

ただ一つ、セルリーダーは“インジェクター”と名乗っている、ということだけが分かっています。』

「“インジェクター”…⁉」


その名は確か…。


「えぇ、先程そちらから報告を受けたコードネームです。

補助人員としてチルドレン1名を派遣しますので、調査をお願いします。』

「わかりました。ウチは少数精鋭ですからね~、情報収集なら任せてください!」


 その一言で霧谷の顔が曇る。


『失礼ですが…現在そちらの支部で動ける人員は、何人ほどになりますか?』

「ボクともう一人、支援担当の協力者イリーガルの子だけですね~。彼女の支援能力は十分高いので、心配は要りませんよ?」


 それは少数精鋭ではなく、人員不足である。

 他支部への増援、療養のため休暇中、などの理由で、現在支部にはほとんどエージェントがいなかった。


『…わかりました。くれぐれも無茶な作戦は慎んでください。よろしくお願いしますね?』


 UGNの戦力はいつだって足りない。今回のように増援が寄越されること自体非常に稀なことだ。

 だから、たとえ人員が少なくても、炭井達星川第二支部に任せる他ないのだ。


「霧谷サンの命令です。必ず来ますとも。」


 通信が切れ、炭井は机上の部品を一つ一つ掴み上げながら思案する。


(泉チャンの報告が大当たりでしたね~。いやはや、忙しいことです。)


 手の中の部品が、いつの間にか一丁の拳銃へと組み換わる。


「おっ、我ながら良い出来ですね~。

 新作として、店に飾っておきますか。」


 ふらりと炭井は部屋を出ていく。

 飄々としながらもその目は既に、目前の任務を見据えていた。


 >SCENE END


 *****

 UGN星川第二支部・支部長

 “バレルマイスター”炭井すみい六郎ろくろう

 “リヴァイアサン”霧谷雄吾の指令を受け、任務開始

 侵蝕率:43%

 シナリオロイス:「調査対象」人形軍団ドールズパレード(感服/●脅威)

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