Opening 2 あるチルドレンの追想

 ある真夜中。廃病院の一角に、痛々しく傷ついた少年少女3人が息を潜めていた。

 3人とも黒ずくめの強化服を身に着け、特殊部隊、あるいは忍者のようだ。

 割れた窓の向こうには建物を取り囲む「怪物」の群れが見える。


「手詰まりか…。奴の手駒を少なく見すぎた、オレの責任だ…!」


 少年の一人が切れ長の目を曇らせ歯噛みする。


「まだ終わってないよ、“フラッシュ・バック”。そうでしょ、“テイルブランド”?」

「その通り。アタシたちで任務は必ず果たす。」


 少年と少女が言葉をかけ、顔を上げさせる。

 独特のコードネームで呼び合う彼らはただの子供ではない。

 秘密組織「UGN」の若き精鋭チルドレン部隊「クロスボウ」のメンバーである。


「ぼくらが注意を引くから、“フラッシュ”が脱出して。ここのデータを持ち帰るんだ。」

「包囲網さえ抜ければ、アンタに追い付けそうな敵はいない。アタシと“ニードル”ならそれができる。」

「それは…!」


 リーダーの少年…コードネーム“フラッシュ・バック”は言葉を失う。

 全員で突破しようとしても、少年“キリングニードル”少女“テイルブランド”の機動力では追いつかれる。

 彼一人だけが離脱する、さもなくば全滅するしか道はないのだ。


「…オレは必ず戻る。それまで…2人とも絶対に死ぬなよ。」


拳を握り、絞り出すようにそう告げた…あの時2人は、真っすぐオレの目を見て言ったんだ。


「「了解、リーダー!」」


なのに…!


 ―――――


 1ヶ月後。

 “フラッシュ・バック”一条いちじょう響真きょうまは、星川市東区・星見ヶ丘、その山中を駆けていた。


(一ヶ月振りに発信されたビーコン発信機の反応。無事だったのか、それとも…。)


 開けた場所に出た瞬間、響真の左右から殺気が放たれる。

 同時に右からムチ状の蛇腹剣が、左から複数の大針が襲い掛かる。


「…ユズル?アイリ?」


 攻撃の主は、響真と同じ戦闘服姿のユズル“ニードル”アイリ“テイル”だった。


「やっときてくれたね、“ふらっしゅ・ばっく”。」

「まってたよ、きょうまくん…いっしょにいこう。」


 思わず言葉を失う響真。

 抑揚なく喋る2人の声は明らかに異常であった。

 殺意を放つ敵生きていた仲間と対峙しながらも心が揺らぐ。


(これはじゃない…。一体何が…?)


 そのとき、視界の端の山肌が弾け飛び、異形の影が瓦礫の中から姿を現した。

 全身黒い炎に包まれた人影。心臓と目にあたる部位は、一際禍々しく燃えている。


Damn itド畜生…!3対1か。)


 新たな敵に身構える響真。しかし…


「…かえるよ。」

「そうだ、とはたたかっちゃいけない。」


 それだけ言うと、2人の仲間は素早く夜の闇に消えていった。


「オイ、待て!」


 響真の叫び声に反応して、異形の怪人は彼に狙いを定める。


(この黒炎は熱量操作系サラマンダー能力エフェクトか…?何か引っかかる、が…!)

「邪魔だァ!」


 怪人の腕の一撃を躱し、一瞬で背後に回って蹴り飛ばす。

 黒炎の怪人は岩壁に叩きつけられ、動かなくなった。


「オマエに用は無い…。」


 2人が去った方向に目を凝らす。

 真夜中の山中、月明かりもなし。光系能力者エンジェルハイロゥの鋭敏な感覚をもってしても、動くものは見つけられなかった。


(やっと見つけたのに…。)


 倒れた怪人に目を戻すと、そこには高校生くらいの少年が倒れていた。

 ブレザーの制服は裂けているがその下に傷はなく、攻撃の反動でボロボロの左腕もみるみる治っていく。


あの2人ユズルとアイリはコイツの事を知っていた。

 コイツがきっと手掛かりになるハズだ…。)


 怪人が出てきた山肌の奥には坑道のような通路が見える。

 奥から嫌な気配を感じながら、響真は怪人だった少年…氷見川速人を担ぎ上げ、そのまま夜の闇に消えていった。


 >SCENE END


 *****

 UGNチルドレン・隠密戦闘部隊「クロスボウ」リーダー

 “瞬く間に背後へフラッシュ・バック一条いちじょう響真きょうま

 星川市東区、星見ヶ丘山中で行方不明の仲間と遭遇

 侵蝕率:37%

 シナリオロイス:「仲間」刺々戸ししどユズル&熱見あつみアイリ


 行方不明の高校生

 氷見川ひみかわ速人はやと

 同山中で保護される

 侵蝕率:38%

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