第39話 彼らの素性
「何だ、改まって。何か新しい情報でも入ったか?」
リシュアはオクトのデスクに座り、その上にあった青いガラス製のペーパーウェイトを弄んでいる。その膝をルゥがぴしゃりと叩き、ペーパーウェイトを取り上げると、デスクの上に戻す。リシュアは渋々デスクから降りて、今度は革製のソファにごろりと横になった。
「少佐に対して失礼よ、リシュア。一応上官なんだから、きちんとしなさいよ」
「一応、は余計なんじゃないのかな」
そんないつものやり取りに微苦笑を浮かべながら、オクトは二人に薄手の資料を手渡した。資料は数枚のコピー紙を綴じたもので、数人の人物の写真とそのプロフィール、そして地図などが印刷されている。
「呼び出してすまない。その通り、新しい情報が入った」
リシュアは資料をめくり、目を通すと片眉を上げた。それを見てオクトがうなずく。
「そうだ。昨日聞き取りをしたあのグループ。彼らがイリーシャの末端のメンバーだとわかったんだ」
「あいつらが、イリーシャ?」
意外な言葉に、リシュアは怪訝そうに眉根を寄せてオクトに向き直った。
「イリーシャって犯罪者でしょ? やった! 私たちお手柄ねっ」
ルゥは目を輝かせて、リシュアの手を握りしめるとぶんぶんと振り回した。彼の眉間の皺がますます深くなるが、振り払うでもなくされるがままにしている。
「残念ながらイリーシャであるから犯罪者だということにはならない。特に末端のメンバーは単なる信者であることの方が多い。とは言え、彼らの動きは注視した方が良いな」
見ているオクトももう動じる様子はない。ルゥは得意げに大きくうなずいて腰に手を当てて胸を張った。
「怪しいと思ってたのよね。絶対にあの中にジョイスがいるに決まってるわ! 特にあの、猫のおじさん! 顔が怪しいもの」
「ルゥ、顔で判断するものじゃないよ」
そうリシュアに言われてもルゥの鼻息は荒い。
「もう一度連れてきて、今度は私たちで話を聞く? それとも泳がせて決定的瞬間を押さえるほうがいい?」
「いや、だから今オクトも言っただろう。犯罪者とは限らないって」
呆れるようにリシュアが答えると、オクトもうなずいて言葉を継いだ。
「彼らがイリーシャだとしても、ジョイス本人とは限らないよ、ユアンジュ君。それにさっきも言ったが彼らは末端のメンバーだ。ジョイスを探しているというのは本当かも知れないが、あの様子だと今のところまだ有力な情報はなさそうだな」
リシュアはソファから身を起こし、立ち上がって伸びをする。
「どうしてあいつらがイリーシャだとわかったんだ?」
「彼らが集会所にしている部屋があるビルが、イリーシャの所有になっていたんでね。念のために調べてみたんだ。交流クラブそのものは無害な団体のようだが、運営はイリーシャによるもので、その内情を隠して信者を増やしているようだ。彼らの常套手段だよ」
「無害、なのかしら。本当に?」
納得がいかない様子でルゥは資料を眺める。リシュアも手元の紙を見返すが、何度見てもそこに並んだ先程の集団の写真は、確かに平凡な一般市民だ。張り切っているルゥには気の毒だが、彼らからこれ以上何かの情報を引き出せるような気はしない。
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