第35話 嵐の金髪娘
「ここに尋ねてくる俺の客なんぞろくな奴じゃない。いちいち対応しなくていいぞ」
リシュアがそう苦々しく言い捨てた時に、ロタの横にひょっこりと、木戸の向こうから顔を出してくる人物がいた。
「失礼ね。大事な相棒がろくでもないなんて。お互い背中を預ける仲じゃないの」
ルゥだった。リシュアは唖然としてその意外な客人を眺めた。同じ木戸の隙間から顔を出しているロタとルゥの距離は近い。ロタは真っ赤になってルゥをちらちらと見上げている。
「案内してくれてありがと! それじゃあ、またね」
ルゥはロタの麦藁帽をぽんぽんと叩いてにっこりと笑う。明るい陽射しの下、こちらへ歩いてくるルゥは、青い瞳と金の髪がきらきらと輝き、万人が見とれるであろう程に愛らしい。ロタは何かもごもごと口の中で呟いた後、また寺院の中庭の方へ戻っていった。
どうやら彼女の見た目にすっかりやられてしまい、言われるがままに裏庭に連れてきたようだ。ルゥが軍の所属とはいえ、セキュリティもプライバシーもあったものではない。リシュアは苦笑する。
「寺院に興味なんかないだろう。一体何の用だ?」
「少佐から言づてよ。何かわかったことがあるらしいから、今日の巡回前に一度寄って欲しいんですって」
「電話で済むだろう。何もわざわざ来なくても……」
するとルゥは裏庭をぐるりと見回し、少し離れたところにいる司祭とイアラに目礼をする。
「だってリシュアがこんなに入り浸ってるから、何がいいのかと思って。何か隠してるんじゃないの?」
リシュアはどきりとする。司祭との仲のことをルゥが知る由もないが、彼女のあの調子で推測でも口にされたら面倒なことになる。
「何もない。ただ仕事だから来ているだけだ」
咄嗟にそう答えて、リシュアは司祭の方を振り返る。司祭は気圧された様子でリシュアとルゥを見つめていた。「ただ仕事だから」というリシュアの言葉は本心なのだろうか、と司祭はリシュアの横顔を見つめた。
その少し後ろでイアラが厳しい顔でルゥを睨みつけていた。その手には焼き上がったばかりの白身魚のパイ包み焼きが。そしてテーブルには先程のサラダや焼き立てのパン、サングリアなどが並んでいる。
「あら、美味しそう! わかった。この食事目当てで通い詰めてるんでしょう。いいなぁ」
その言葉に司祭はやや強張った笑顔で答える。
「あの、宜しければご一緒にどうぞ……」
リシュアが慌ててそれを遮る。
「とんでもない! 司祭様、彼女は今帰りますので! ……ほら、ユアンジュ君。しっかり寝て夜に備えたまえ」
ルゥは口をとがらせる。
「リシュアったら他人行儀に、やぁね。いつもみたいにルゥでいいわよ」
「わかったわかった、ルゥ。……じゃあ今度新都心でランチでもご馳走するから、今日は帰りたまえ」
最後の方は小声で言い聞かせる。
「えっ、ホント? やったぁ。……それじゃ、後で少佐のオフィスでね」
リシュアの二の腕をぽんぽんと叩いてウインクすると、嵐のような金髪娘は去っていった。
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