エピローグ

 翌朝、ハルさんは全ての準備を整えました。相変わらずの早業。時空魔法を見慣れて来た自分がいます。


「フォル、それじゃみんなをよろしく」

「分かっておるわ。ハルよ、儂はこんな事を言う立場ではないが……」

「大丈夫だよ。僕は戦争に関わろうとなんてこれっぽっちも思っていない。そういうのはもう飽き飽きしているんだよ。それに」


「——問題ない。何かあったら私が処理する。万事解決」


 自信満々に胸を張ったのはエルミアです。昨日の内に、ハルさんが辺境都市から連れてきました。

 ……私、目をおかしくしたのかも。何か、尻尾が全力で振られているように見えるんだけど。


「タバサ御嬢様……遂に目までおかしく。お可哀想に」

「……ニーナ、どうして、貴女までここにいるのよ? お留守番、誰もいなくなるじゃない!」

「それがでございますね。あれ程、毎日のように届いていた西都からの荷物が途絶え、また南方から来ていたそれも同じく。溜まった荷物の整理を終えた後は、ずっとお菓子を作っておりました。後でお食べください。自信作になっております」

「やった! ニーナのお菓子は美味し――じゃなくてっ! ……その事、ハルさんには」

「御報告済みです。で、なければ……エルミア様をお連れになる事は」


「——私が一緒に行く以上、ハルは後ろで寝てていい。そして、これからも私を何時も連れて歩くべき!」。


 うわぁ……凄くやる気になってる。よっぽど声をかけてもらったのが嬉しいんだろうなぁ。 

 一緒に暮らしてみて分かったけれど、基本的にエルミアはハルさんの事が大好きなのだ。と言うか、犬っぽい。今度、ハルさんにこの前使ってもらった、獣人化の魔法をかけてもらおっと。


「ハル殿、お待たせした」


 ルビーさんが、大きな荷物を抱えて部屋へ入って来た。様々な武具を買い込んできたらしい。

 その後からガナハルさんも箱を持ってやって来る。あ、ピオさんも一緒だったんだ。いないから、ちょっとだけ心配しちゃった。


「ハル様、こいつを」

「ありがとう。見てもいいかい?」

「無論」


 箱の中には四本の両刃の剣身。

 うわぁ……これ、凄い。魔力を渦を巻いているのがはっきりと見える。

 しかも、一属性じゃない。一本一本毎、四属性以上の『色』が立ち上っている。


「フォル、ガナハル――御見事。これなら八本揃った時、杖に負けないだろう。報酬は」

「まだじゃ。完成した時にそれはもらう」

「そうだ。まだ、完成じゃねぇ。一本一本でも、いい出来だが、こいつらは八本揃った時に真価を発揮する」

「楽しみにしておくよ。タバサ、ニーナ」

「「はい!」」


 ハルさんが、何かを投げて来る。鍵と錠がかかったアイテム袋だ。

 ニーナ、何よ? その得心した表情は。


「フォル達へ、そこに入ってる物なら好きに渡していい」 

「ハル! そ、それは……」

「最高の物を作る為、だよ。ん――来たかな」


 部屋の中に精緻な魔法陣が出現。また、時空魔法だ。

 その中から人が飛び出してくる。

 

「お師匠~連れてきたよ」

「ありがとう、ルナ。ハナ達には」

「抜かりなく~。レベッカちゃん達は競売が佳境。タチアナちゃんに伝えておいた。ハナは……サクラと御仕事してる。ああ、それと、はい~帝国からの報告書。『帝国内に『黒外套』の姿無し』だって」

「ふむ。逃げた近衛騎士団長達は?」

「まだ~見つかってないみたい。……お師匠~私も行った方がいいんじゃない?」

「——不要。むしろ、ルナはあの駄々っ子達を捕捉すべき」

「む~どういう意味?」

「——西都からの荷物が途絶えた。そして『八幡』の大陸出兵の報」

「……またぁ~? こりない子達」

「ふふ、本当は僕もルナが来てくれれば心強いんだけどね。今の良将よしまさじゃ、『八幡』には勝てない。しかも、どうやら率いているのは五男坊のようだ。犬死を教えたつもりもないし。少し厳しめにお説教を頼むよ」

「……はぁ~。了解。それじゃ、お師匠とこの浮かれまくってる姉弟子をお願いね、サシャ」


「が、頑張りますけどぉ……じ、自信はないですよぉ……」


 魔法陣から出てきたのは、小柄な少女。『盟約の桜花』のサシャさんだ。

 明らかに緊張している。うん、分かる。ハルさんとレーベはともかく、エルミアも一緒だもんね。絶対、大事になりそうだし。

 レーベ、どうしたの? 

 ハルさんと手を繋いでいたレーベが、とてとて、と歩き出しサシャさんの前に行く、目を輝かす。 


「え、えとぉ……」

「かみ、きれい! マスター、このまえの」

「ん? ああ、いいよ」


 ハルさんが右手を振ると、サシャさんとレーベの頭から、それぞれ犬耳と猫耳が出現。お尻からは、可愛い尻尾も生えてきました。


「え、えぇ?」

「サシャ、かわいい。ぎゅー」

「あのぉ、そのぉ……ぎゅー?」


 ——和みます。サシャさんは私よりも年上の筈なんですが、とても可愛らしい人みたいです。  

 ニーナ、貴女、その撮影宝珠「私物です」……程々にしときなさいよ。


「——ハル」

「何だい。あ、エルミアにもかけようか? 久方ぶりに」

「——かけたら、全力で撃つ」

「それは怖い」

「——今回、私を呼んだのは、何故?」

「偶にはエルミアと旅へ行くのも悪くないと思ったんだよ」

「——あの脳味噌に筋肉しかない男でもいる? 最後の手紙は何時だったかは覚えてないけれど、確か南方からだった」

「参った、降参だよ。気分屋だからいるかは分からないけれど……いた場合、横から全力で殴り込んでくるのがあの子だ。僕一人で止めるのは少々骨が折れる。ルナには西の子達を任せないといけないし、グレンだと止めるのが二人に増加。ラヴィーナ達はどうやら楽しく遊んでいるみたいだし。そうするとエルミアに頼るしかない」

「——こういう時だけ呼び出すのは、駄目。ジゼルが怒ってた。後で一緒に謝って。だけど」


 エルミアは滅多に見ない満面の笑みを浮かべました。

 不覚にも胸が高鳴ります。普段はあの口調なので、気にしないんですけど、この人、とんでもない美少女なんですよね。100年以上は間違いなく生きてるんでしょうけど。ニーナもそう思う――ああ、分かったわ。撮影の邪魔よね、ごめんなさい。



「——諸々ひいても百点満点。『千射』の名は伊達じゃない。あの姉弟子を敬わない『拳聖』如き、大泣きさせてやるから見てて!」

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