第87話 タバサ―10

 呆気に取られている、ルビーさんに対してハルさんが淡々と続けられます。

 う~……そろそろ、細かい説明を受けないと、話についていけない!


「『四剣四槍』の話は耳にしている。一人で、同時に名剣・名槍を四本ずつを同時かつ自由自在に扱うアレクサンドリアの姫戦士。当然、それら全てが世界に名を知られた物ばかり。だけど、君の話を聞いていると、まるで何本かが喪われたように聞こえる。腑に落ちないな。『国崩し』。極東の地にて、歴史に埋もれし幻の魔銃、その大量生産に成功し、かの『大剣豪』八幡小太郎義光はちまんこたろうよしみつと争った異才。けれど、罠に嵌まったとしても彼女が得物を喪う程の相手だろうか?」

「…………」

「100年以上に渡って『八幡』から討伐対象とされながら生き残り続けた怪物、『万鬼夜行』。何でも不死身らしい。これもまた、恐るべき相手だろう。けれど、逆に言えば『八幡』に追われていた存在でもあり、物量で押す術士とも聞いている」

「…………」

「遠く東の地にて、古来から18年に一度、開催され続けている名も無き最強を決める武祭――それを連続で制した『覇王武祭』。彼率いる傭兵団と言えば、周辺諸国はそれだけで震え上がる。が、格落ちは否めない」

「…………何が言いたいのだ?」


 ハルさんは何時も通りの笑顔で淡々と話されていますが、聞いているルビーさんの顔は強張っています。

 ……それにしても話が難しいです。

 ピオさん? ピオさんなら分かり『この机、頑丈で良いですね』あ、もう、現実逃避されてるみたいです。う……この展開何処かで経験したような……。

 

「――『四剣四槍』殿は、御病気なのかな?」

「貴様っ!!!」

「めっ」

「!?」


 繰り出された剣と槍はレーベが展開した障壁によって消失。

 同時に、私でも理解出来る凄い魔法が十数個展開されて、ルビーさんへ照準。

 それを見ていたハルさんが後ろからレーベを抱きかかえ膝の上に座らせました。


「レーベ、ありがとう。大丈夫だよ。考察を足すと、君が欲しているのは、代替用としてかな。もしくは、君の御姉妹用。つまり次の『四剣四槍』候補の物だろうね。――周囲一帯は結界で封じてある。諜報を気にすることはないよ」

「……次姉用の物だ。どうして、そこまで分かったのだ? 姉上の事は、秘中の秘。国の人間でも知っているのは私達位だと言うのに……」

「ああ、それは」

「ハルさん!」

「何だい、タバサ」

「お話が分かりません! 説明を要求します! ……って、ピオさんも言ってますっ!」

「タ、タバサさん! わ、私は別にそんな事」

「駄目です。逃げちゃ。逃げたら、お料理とお菓子の国行って帰ってこれなくなります。メイドがはまる底なし沼です」

「へっ? お料理とお菓子の国? メイド??」


 ピオさんが目を白黒させています。ふぅ……良かったです。犠牲者を未然に防ぐ事が出来ました。

 黙って聞いていたフォルさんが口を開かれました。


「ハルよ、良い機会じゃ。若い者達に教授してくれ。ガナハル、お前もよく聞いておけ」

「……余り知らなくても良い話だとは思うけど。タバサ、ピオ?」

「私は知りたいです」

「わ、私もです」

「そうか。なら、少し時間をもらおうか――これは所謂『世界最強』のお話だ」


※※※


 この世界にはね、世の理では到底測れないような超人、豪傑、怪物達がかなりの数いる。

 その中でも――今から話すのは『下級神』位なら簡単に討伐する子達。

 前衛五人。後衛五人。合わせて通称『十傑』と呼ばれている存在。

 彼等と相対するならば軍ではなく『国家』を持ち出す必要がある。基本的に戦場で出会ったらならば、即座に逃走することをお勧めするよ。

 ――僕かい? 僕は弱虫だから、逃げるさ。尻尾を巻いてね。

 さて、まずは前衛の五名から話そうか。


 『神剣』。彼については余り話したくはないな。とにかく、やんちゃ坊主だよ。何時まで経っても落ち着かない……困った子さ。

 『天騎士』。タバサは会った事があるよね? グレンだよ。彼は強い。

 『大剣豪』。小太郎とまともに斬り合える人は、世界に十人といない。

 『飛虎将』。叡帝国の勇将だね。噂を聞く限り、彼の地の歴代最強だろう。

 『四剣四槍』。この子の事は、後で、ルビーから聞こうじゃないか。


 この五人が前衛職の頂点だ。彼、彼女級になると、幾ら距離を取ろうとしても、至難だろう。第一、まともに魔法は効かないよ。

 次に後衛の五名だ。


『星落』。ラヴィーナという名だよ。僕が教えたの子になる。

『天魔士』。ルナだね。僕にとっては可愛い娘同然さ。

『国崩し』。彼については、さっき少し説明したね。ただ、色々と聞く限り個の能力は他の四人より幾分劣る、と僕は見ていたんだ。彼の力はむしろ、技術者、指揮官としてのそれだろう。

『万鬼夜行』。彼女についても説明した。僕が知る限り最狂の召喚士、とだけ言えるよ。極東における神具の一つである翠色の宝珠『夜行道程』を未だに保持しているならば……夜間戦闘での勝ち目は非常に薄い。

『光弓』。王国最強後衛にして守護神――と、言われている。現状。大陸で二番目の射手だろうね。


 これら十名の力は強大で、地形をも容易く変え、小国すら単独で陥落させ得る。

 ……そして同時に恐ろしくしぶとい。

 同格同士が争う時、たとえそれが一対複数であっても、早々、決着はつかないんだよ。『八幡』と『万鬼夜行』を思い出しておくれ。彼等は一世紀以上も戦い続けていたんだ。

 

 さぁ――話が戻ってきたよ。

 

 そんな存在の一人である『四剣四槍』の妹がわざわざ遠く離れた鉱山都市へ強力な武具を求めてやって来ている。これはもう……その時点で尋常な事態じゃない。異常なのさ。

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