幕間4
お見舞い
「ママ、お見舞いに行きたい」
「お見舞い?」
「うん。だめ?」
突然、レーベが私にそんな事を言ったのは、皇宮へ私達が乗り込んでから3日が経った後だった。
今、私達はあの後、すぐに皇宮へやって来たヴォルフ家(どうやら、こうなる事を予期していたらしい)に招かれて、そこの屋敷に逗留している。部屋に置かれている調度品のレベルが正直凄い。昔の私だったらいるだけで動揺しただろう。
当然、ハルも一緒。他は……お邪魔虫がいる。とっとと辺境都市へ帰れば二人きりなのに。
「――む、邪気を感じる。レベッカ」
「気のせいじゃない? そうよねー、レーベ」
「…………」
「――ぐっ」
レーベがエルミアの顔を見た途端、私の後ろの隠れる。それを見て、床に手をつく、メイド擬き。
不思議なことに、レーベはエルミアを苦手にしていて、全然懐こうとしない。
……きっと、初めに可愛がり過ぎたのね。
奥の椅子に座り、分厚い書物を読んでいた、ハルが立ち上がる。それを見たレーベが私から離れ駆け寄っていく。
「マスター」
「ん? どうしたんだい。エルミアも――ああ、レーベ」
「やっ!」
「エルミアのことが嫌いなのかい?」
「……ちがう」
「そう、ならいいよ。エルミアはとっても優しくて、レーベを大事に想ってくれているお姉ちゃんだからね? その事は忘れないでおくれ」
「ん」
「いい子だ」
ハルがレーベを優しく撫でる。ああ、いいなぁ……。
エルミアも、ハルの言葉で急回復。まったく、現金過ぎやしない?
「それで、どうしたんだい? レーベの魔力が少しだけ揺らいだみたいだけど」
「マスター、お見舞い」
「お見舞い? カサンドラのかい?」
「ん」
「エルミア、任せておいた事は?」
「――戦後処理と交渉事は、言われた通りグレンとルナを見せ駒に、実務はメルとリル、それと勉強も兼ねてサシャにさせてる。ラヴィーナとナティアは『急いでする事がある』と言って先に帰った。ハナとタチアナには、タバサとニーナ、それとローマンの護衛をさせてる。人数が足らないから、暇なクランメンバーも呼ぶと言ってた。サクラとトマは、クランの仕事が溜まってて缶詰状態。ロスは、王都へ戻らせた。『女神教』の件もあるから」
「ありがとう。珍しいね。ラヴィーナとナティアは何時もなら限界まで居残るのに。あ……ラヴィーナは僕のお説教から逃げたな。悪い子だ。まぁいいや。なら行こうか、お見舞いに」
「!」
レーベが目を輝かせる。
ハルの足に抱き着き、よじ登っていき抱っこの形になり、頭を胸に擦り付ける。
……エルミア、今だけは貴女の気持ち分かるわ。ちょっと複雑よね。
「カサンドラの手当を担当したのは、僕とレーベの他は、ルナとサシャだったね。二人にも声をかけようか」
※※※
「こ、これはハル様!」
「やぁ、テア。大人数で、いきなりの訪問すまないね。この子がカサンドラのお見舞いに行きたいと言ったものだから」
「レーベ様が、ですか」
皇宮奥で、私達を出迎えてくれたのは本物のメイド――テアだった。所詮、何処かのはメイド擬きに過ぎないわね。所作が違うのよ、所作が。
何でも彼女、先代だか先々代だか忘れたけれど皇帝の御落胤の一族出身で、御両親を幼くして亡くし、それ以来カサンドラ様付きのメイドになったらしい。
最初ハルのところに飛んで来た時は本気で取り乱してたし、母親同然なんだろう。
……故郷も、家族も捨てた私には分からない気持ちかな。
「ママ」
「どうしたの?」
「大丈夫。レーベはママと一緒」
「!」
嗚呼、もう! この子は本当にもうっ! 私の天使!!
思わずレーベを抱きしめる。そうよね、私達はずっとずっと一緒だものね。
すると、レーベが私の抱き着きから抜け出し、ハルの手を握る。
「マスター」
「うん?」
「マスターとママとレーベはずっと一緒?」
「そうだねぇ」
「!!」
「――問題発言」
「む~レーベ、私は? ルナお姉ちゃんは一緒じゃないの?」
「私もぉ、ここ3日間頑張ったからぁ、御褒美が欲しいですぅ」
「ふふ……皆様、本当にハル様の事が大好きなんですね」
テアが楽しそうに笑う。
まぁ、そうね。否定する理由はない何処にもないわ。
皆でお喋りをしながら、あの戦いの後、ハルとルナの手で完璧に修復された大理石の廊下を歩き、突き当りにある部屋へ入る。
中には、巨大なベッドが置かれ、老女が横たわり、本を読んでいた。
私達が入ると、慌てて立ち上がろうとする。
ハルの声より早く、レーベが反応しベッド脇へ。
この子、転移魔法を使いこなし始めている。流石は、私の天使!
「起きちゃだめ」
「ですが……」
「カサンドラ、大丈夫だよ。その子が君のお見舞いに行きたい、と言ってね」
「この子が……? ハル様」
「レーベと言うんだ。君の解毒をしてくれたのは、ここにいるルナとサシャ、それにその子だよ」
「これは……」
「だめ。ねててー?」
レーベがカサンドラ様の世話を焼く。か、可愛い……!
ルナが、指を鳴らすとベッド脇に、人数分の椅子が出現した。原理は不明。突っ込んだら負けね。
ハルが腰かけ、その膝上にレーベが座る。
「複合属性の厄介な毒だったね。間に合ったのは、ロートリンゲン家が代々持つ毒耐性スキルが高かった事と、ルナとサシャの手当てが良かったおかげだ」
「ふふふ~これでも『天魔士』だから」
「と、言いながらぁ、ルナは最初ちょー慌てて……むぐっ」
「うふふ~サシャ。ちょっと~向こうでお話しましょうね♪」
サシャが、ルナに首根っこを掴まれて――消えた。
……生きて帰って来れるのかしら。
「……ハル様、申し訳ありませんでした、そして、有難うございました」
「礼なら、この子に言っておくれ。僕は今回、殆ど何もしていない」
「レーベ様」
「レーベ」
「では、レーベ。ありがとう」
「どういたしまして?」
「可愛い子ですね。ハル様とどなたかのお子様ですか?」
「――違う。断じて違う。天地が逆転しても違」
「レーベのママ!」
「あら……随分とお若い方を……」
レーベが嬉しそうに私を指さしてくる。
おやぁ? どうしたの、エルミア? そんな苦渋に満ちた顔をして?
これは、勝負ありかしらぁ?
「カサンドラ、若い子達で遊ばないでおくれ。元気になってくれたのは嬉しいけどね。さて、多少、真面目な話をしようか――皇帝の件、どうするんだい?」
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