第68話 メル―5
聖魔士の黒炎を見た私は、左手の『パラス』を振るい『鋼』属性上級魔法『鋼獅子合成』を発動。
鋼槍に貫かれ、沈黙していた機械兵達が再稼働し、槍と融合。次々と集結――合体。巨大な鋼の獅子となり広場の中央で咆哮をあげました。
「なっ!」
「ちっ……」
聖騎士が呻き、聖魔士は舌打ち。展開していた黒い炎を獅子へ向けて放ってきました。
――甘いですね。
黒炎は直撃する前に、青白い光へと分解、消失していきます。
笑いながら話しかけます。
「その子は魔法障壁持ちです。死ぬ気で挑んでくださらないと。トマ?」
「うむ! 聖騎士殿! 我等は先程の続きをいたそうっ!!」
トマが広場を疾走、一気に距離を詰めていきます。
聖騎士も槍を構え、後方の近衛兵達も援護しようとしているようです。
では、私も援護を――咄嗟に『パラス』で、黒い炎槍を受け止めます。
……獅子の障壁を越え私へ魔法を届かせましたか。侮り過ぎていたようです。
「てめえの相手は俺様だっ! これを使えば、特階位だろうが俺様の敵じゃねぇんだよっっ!!!」
「先程よりは確かにマシです。けれど」
獅子を、聖魔士へ向け前進させます。
数十の黒炎を次々と放ち妨害する聖魔士。
一部が魔法障壁を貫き獅子へ着弾、大きな傷口が形成されます。
しかし、構わず獅子は前進。傷口も即座に回復します。
「!?」
「魔法生物ですよ? 核を潰すか、一気に消滅させるか、私を倒して、魔力の供給を絶たない限り不滅です」
『パラス』を横に振るい数十の『炸裂鋼尖』を構築し、発動させます。
同時に獅子も口を大きく開け、『鋼槍雨』を聖魔士へ放ちました。
無数、と形容していい鋼の破片と槍の雨が降り注ぎ――
「舐めるなぁぁぁぁ!!!!」
黒炎が迎撃、拮抗します。
『黒葬』に似ていますが、非なるものです。
そして魔力に混じる違和感。とても嫌な感じがします。威力自体も、当初のそれと雲泥の差ですし……用心しておきましょう。
『パラス』で『炸裂鋼尖』を乱射しつつ、右手の『アテナ』から構築していた魔法を静音発動。広場一帯へ展開させます。
さて、この判断どうでるでしょうか?
私が考えていると、『鋼槍雨』の発動を終えた獅子に黒炎が殺到。魔法障壁に壁突し、やがて突破。飲み込まれていきます。
この力……呪物に近いですね。
魔力の繋がりを絶ち、双短剣を構えます。
獅子を倒したものの、荒い息をしている聖魔士が血走った目を私へ向けてきました。
「はぁはぁ……次は、てめえ、だ、っ!」
「既にお疲れのようですが?」
「黙れっ!」
黒炎が数十の槍の形となります。意趣返しでしょうか?
次の瞬間、私へそれらが放たれ――戻って来たトマが、全て叩き落しました。
見れば血塗れになりつつも笑っています。全身に治癒魔法を発動させていますが、相変わらずですね。
……この子でも無傷とはいきませんか。
「聖騎士に近衛のような精兵達の適切な援護が付けば、幾ら貴方でもそうなりますね。厄介です」
「うむ。それに姉御、そろそろ増援も来よう」
「ええ、半ばまで突破されたようです。あの薬は気になりますが……先へ進みましょう。あちらも限界が近いようですし」
双短剣を振るい、再び『鋼槍千雨』を構築。
それを見た、肩で息をしていた聖騎士と聖魔士は目を見開き、絶叫。
「アレを撃たせるな!!」
「糞がっ! 糞っ!! 糞っっ!!! これは使いたくなかった――」
無視して発動します。
再び鋼槍が降り注ぎ、見る影もなくなっている大理石を再度破砕、粉塵を巻き起こしました。
「トマ」
「うむ!」
大剣が一閃。視界を開きます。
見えたのは皇宮奥へと続く道の前方に展開された強力な結界の光。それは空まで続き半円状に皇宮を覆っています。
鋼槍はその前方で折れたり、途中から消滅していました。
結界内にいた聖魔士が蒼白の顔になり、地面に片膝をつきながらも私を見て壮絶な笑みを見せます。
「くくく……この、結界はなぁ、75年前の、真龍共による帝都襲撃でも最後まで抜かれなかったっていう、代物だ。ジジイから始動鍵を預かっといてな正解、だった、ぜ……」
どうやら薬? の効果も尽きたようです。戦闘不能のようですが……彼が起きていると、増援部隊を内に招き寄せる可能性があります。
さて――
「うむ! 斬ってみせようっ!!」
裂帛の気合と共に、我が弟弟子は、大剣を大上段に構え、振り下ろしました。
轟音と共に、結界へ直撃!
しかし……何事もなかったかのように健在です。
「まだまだですね」
「むむむ……姉御、もう一度、機会を」
「却下します。私の番です」
既に発動済みですが。
軽く『アテナ』を振ります。
結界内に閃光が走り、極小の鋼の花弁が聖魔士へと超高速で殺到。
反応すらさせず、ズタズタに切り裂き、強制的に意識を刈り取ります。死んではいないでしょう……多分。
次に結界を内からこじ開けにかかります。一点に集中させ、魔法を錐状に。この結界十二層です。
それを見ていたトマも次々と斬撃を放ち遂に穴が――その間、ほんの一瞬でしたが私達は結界内へ侵入を果たしていました。結界は自動で修復され、閉じていきます。増援は入れるのでしょうかね?
眼前では、聖騎士と兵達が絶句中。
「うむむ……姉御、この魔法は……」
「トマ、私の代名詞に何か?」
「……そうか……これがあの……」
立ち尽くす聖騎士が言葉を振り絞りました。
そうですよ。
「うふふ。『鋼』属性特級魔法『閃華』です。以後、お見知りおきを――生きて帰れれば、の話ですけどね」
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