第54話 レベッカ―3

 ロイドさんとカーラと別れ(お土産を頼んだら「昼はまだか? 食え」とロイドさんから色々、渡された。美味しそう)廃教会へ。

 私とタチアナの真ん中を歩き、手を握っているレーベはご機嫌。

 人見知りする子なんだけど、どうやらジゼル、カーラは大丈夫みたい。ロイドさんは……時間がかかりそうだ。

 門をくぐり、敷地内に入る。

 その瞬間、レーベが手を放した。突然駆け出しそのまま中へ。


「レーベ!?」

「レベッカさん、私達も行きましょう」


 驚く私に対して、タチアナは躊躇なく後へ続いた。

 慌てて追いすがる。

 幾つかの部屋を越え――出た先は広大な荒野。

 そこかしこで、土煙があがり、魔法の閃光。そして、轟音が響いている。

 

 この魔力は――ハルだ。誰かとやり合っている?

 

 目を凝らすも、遠すぎる。

 けれど、相手は一人。剣士のようだ。

 ……あいつと真正面からやり合うなんて。何者なの?

 私も強くなったけれど、まだまだ勝てはしない。剣技だけならいい勝負だろうけど、総合的には凄まじい差があるのに。

 まぁいいわ。取りあえず加勢を――場違いな声。


「あら~おかえりなさい。今、いいところだからちょっとこっちで待っててね。手出しは無用にしてあげて」

「……誰よ、あんた」

「あ、貴女は」


 木製の頑丈そうな椅子に座り、足をぶらぶらさせながら、お茶を飲んでいたのは一人の少女だった。目の前に置かれている丸テーブルの上には、お菓子入れ。

 種族はドワーフだろうか? 茶色の髪を一束にして結っている。表情には敵意皆無。問題は、もう一脚の椅子にレーベが魔力で縛られていること。


「レーベ! あ、あんた、私のレーベに何――っ」

「へぇ……『私』の、ね。貴女が噂の『雷姫』ちゃんかな? 一つ訂正しておくけれど」


 表情は先程と全く変わらない。

 が、感じるモノは別物。こ、こいつ……。


「この子は、お師匠の子。貴女のじゃない。甘やかされてるからって、そこを間違えるのは駄目。そうじゃないと――うっかり、殺したくなるから」

「っ!」


 咄嗟に雷魔法を高速展開させ、剣を――タチアナ、その手は何よ?

 こちらにちらりと視線。……そう言うことね。


「ルナさん、お戯れが過ぎます」

「ふふ~もう冗談よぉ。二人ともいい反応。お師匠が気に入るのも分かる気がする。お久しぶりタチアナ。ハナは元気?」

「元気です。もう少し、クランの仕事をしてほしいですが」

「ごめんね~。苦労させるけどよろしくね」

「はい、勿論です。ところでルナさん、この状況はいったい?」


 ルナ? ルナって……なるほど、道理でタチアナが『剣を抜いちゃ駄目です。勝てません……まだ』って合図を送ってくる訳だわ。


「大陸第一位の魔法士にして、数多いる魔法士の頂点『天魔士』。『深淵に立ちし者』『煉獄の魔女』の異名を併せ持つ御方が、どうしてこんな辺鄙な場所にいるのかしら?」

「ふふ~。それは貴女達だって一緒でしょ。『不倒』『雷姫』の武名、盛名は西都にも届いているよ」

「ルナさん、まだ質問の答えを聞いていません」

「も~タチアナは真面目なんだから。私達はお師匠から言われて、帝都でお使いをしてきた帰りだよ。あれはそのお駄賃替わり」

「「お駄賃?」」


 目の前の光景を見る。

 巨大な岩が切り刻まれ、砕かれ、爆散している。

 炎波が一面を焼き尽くし、水槍が全てを貫き、風刃はそれに追い打ちをかけている。地面が針の山へ変わっていき、天から雷が降り注ぐ。

 ……どう考えても、人外、しかもとんでもない同士がやり合ってるようにしか見えない。

 そうこうしている内に、戦闘の音がこちらへ近付いてくる。タチアナが『盾』を展開し、丸テーブル周辺を防御。ルナも人差し指を立て、一瞬で数十の障壁を構築する……化け物ね。

 相対していたのは二人の男――ハルと細身の男。

 楽しそうなハルの笑い声が聞こえる。


「流石だね。腕を上げたかい?」

「師匠こそ。我が剣を『千楯』無しで防がれようとはっ!」

「僕が展開した途端、嬉々として斬るじゃないか。『魔力削りに効果的』と言って。普通は斬れないんだよ、あれ」

「御冗談を。『千射』オリジナルならいざ知れず、師の『千楯』ならば、不出来な弟子でも斬れます。勿論――本気のそれは、骨が折れますが」

「グレン、君が不出来だったら、大陸上の騎士、剣士は全員、失業だよ? 卑下するのは悪い癖だ」

「御忠告、肝に銘じて。では、身体も温まりましたし――本気でやらせていただきます。今日こそその、貰い受けますっ!」

「ふふ、物騒だね」


 首!? 今、首って言ったわよね!?

 やっぱり、あいつ危険人物なんじゃ――レーベ?


「あ~ちょっと……もうっ! お師匠、またとんでもない子を」


 その言葉を聞いた途端だった。

 ルナの魔力で拘束されていた筈のレーベは、それを引き千切り、数十の障壁とタチアナの『盾』にも大穴を開けて、ハルの下へ駆けて行った。

 そして――男の前に両手を広げて立ち塞がる。


「む」

「レーベ?」

「マスターはわたしが守る!」


 そう言うと、七つの魔法を超高速展開。速い! 

 し、しかも、あの魔法は――



「師匠」

「何だい?」

「流石にこれは反則なのでは? 全七属性特級魔法の同時展開、しかも詠唱破棄なぞ……普通に死ねるのですが」

「大丈夫、グレンは誰よりも強い子だ。レーベ――撃っていいよ」

「師匠!?」



 情けない悲鳴を挙げながら光に飲み込まれていったその男こそ、大陸最強の騎士にして剣士の頂点――『天騎士』だという事に気付いたのは、それからすぐだった。

 ……これ、死んだんじゃない? 

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