第53話 レベッカ―2

「はい、これが今回の荷物です。何と極東からですよ! 届くんですねぇ」

「へぇ」

「まぁハルさん宛の物ですから、気にしたら負けだとは思います。私も成長したんですよ? あ、レベッカさんには当然の事でしたね」

「まぁね」

 

 ジゼルから荷物(中身を確認すると、今回は複数の『鍵』で封印されている巻物だった。何かの召喚用? それとも……)を受け取る。

 ええ――分かってるわよ。色々とこれまでの事も話したいし。今度、また食事にでも行きましょう。それと、貴女がどうして髪を伸ばしてるのかも聞きたい……ちっ、逃げ足だけは相変わらず早いわね。

 私が舌打ちをしていると、くすくすと笑う声。

 咳払いをし、取り繕い、タチアナに尋ねる。


「何?」

「いえ。レベッカさんにも、そういう所があるんだな、と。もっと厳しい方なのかと思っていました」

「喧嘩を売ってるのかしら? 何時でも買うわよ?」

「まさか。天下無双の『雷姫』に真正面からは挑めません。それに貴女と喧嘩なんかしたらハルさんに叱られてしまいます。私はまだそういう立場になった事はないんですけど……怖いらしいですよ? ちょっと想像出来ませんけど。万が一、ハルさんからそんな風にされたら……私、多分立ち直れません。レベッカさんはありますか?」

「……私もないわ。あのメイド擬きから、ぼろくそに言われた事はあるけど」

「ふふ、エルミアさんですね。ですけど、あの方、言われた後にフォローしてくださいますよね? ああいうところは、ハルさんそっくりです」

「…………ノーコメント」


 私だってそれは分かっている。けど、現段階で正直に認めるのは釈然としない。

 取りあえず積年の恨みを晴らしてからね。

 静かに意気込んでいると、レーベが袖を引いてきた。


「ママ、タチアナ」

「?」「どうしたの?」

「マスターへお土産」

「ハルに?」「ハルさんに?」


 こくん、と頷くがとんでもなく愛らしい。

 タチアナも微笑ましそうだ。

 だけど、お土産かぁ……いい機会ね。

 こちらを見つめているレーベの視線に合わせ屈み、優しく頭を撫でる。気持ち良いのだろう、目を細めて、くすぐったそうにしている。


「いい考えだわ。レーベは本当にいい子ね。それじゃ、行きましょう」

「タチアナ」

「私も一緒でいいの?」

「一緒」

「では――御一緒させてもらいますけど、よろしいですね?」

「私に許可を取る必要はないわよ。レーベがそう言ってるんだもの」


 良かった。どうやって引き留めようか、さっきからずっと考えていたのだ。

 何しろ彼女をこのまま行かせてしまえば、短い時間とはいえ2人きりにさせてしまう。それは、やっぱり嫌。

 折角、あのメイド擬きやタバサとニーナもいなくて、私が半ば独占出来ていたのに……。

 確かに他の子達と違って共闘は出来る。出来るけれど――あくまでも、恋敵なのは変わらないのだから。

 

 それにしても……この子、どうしてこんなに綺麗なの? 

 

 『盾役』というのは体力勝負な前衛職の中でも、更にその傾向が強い。故に、男女関係なくどちらかと言うと力自慢が多くなる。有り体に言えば、ゴツイ。

 が、目の前でレーベの小さな手を握っている『不倒』様は別。

 とにかく華奢。それでいて出るとこは出ていて、極めて女性らしく、何よりこの美貌! 私が男だったら、惹かれてしまうかもしれない。

 私ももう少し女っぽくした方がいいのかしら……。


「レベッカさん?」

「……何でもないわ、何でも」

「?」

「ママ」


 レーベが空いている手を出してくる。どうやら、私達両方と手を繋いでいたいらしい……別に何も考えていないわ。相手がハルだったら、家族に見えるかな? なんて、そんな大それた事。


「……今度、聞いてみましょうか。ハルさんはお優しいから、きっと……」


 ねぇタチアナ? 聞き捨てならない言葉が漏れた気がするんだけど?



※※※



「変わってない。良かった」


 目の前にあるのは、懐かしき『定食屋カーラ』。2年ぶりだ。

 中からは美味しそうな匂い。

 そうそう、この匂いよ。レーベも興味津々の様子。タチアナは微笑んでいる。

 店の中を覗き込む。

 もう、御昼時じゃないせいもあり客はいないようだ。

 声をかける。


「こんにちは」

「はーい。ごめんなさい、もうお昼は終わって――え?」

「久しぶりね、カーラ」

「レベッカさんっ!」


 店の奥から出て来たカーラが抱き着いてくる。

 む――この子、2年間で随分と。


「ど、どうして此処にいるんですか!? レベッカさんは黒龍を討伐して、特階位になって、『雷姫』様になって、えっと、だから、その、あの……驚きました」

「色々あったのよ。ほんと、色々ね。元気そうで何よりだわ。ロイドさんは?」

「あ、呼んで来ますねっ! きっと、凄い喜びます。この前もハルさんに何度も尋ねてましたから。お父さーん!!」


 そう言うと、カーラは店の奥へ舞い戻って行った。

 ……今、ハルの名前が出たような。

 ちらりとタチアナを見る。困った表情だ。む。


「タチアナ、何か知ってるの?」

「えーっとですね……ハルさんと何度か此処で食事をしたことがあるんですが、毎回『レベッカは大丈夫なんだろうな? 嘘をつきやがったら』と」

「……そう」

「ママ、大丈夫?」


 少し頭痛が……。

 心配してくれるのは嬉しい。勿論、嬉しい。

 だけど



「ふふ、大丈夫に決まっているんですけどね。だって、誰あろうハルさんに見込まれて帝都へ行かれて、ハルさんを想い続けて、頑張られたんですから」



 やっぱりこの子、ちょっと苦手かもしれない。

 取りあえずそんな恥ずかしい台詞は以後、全面禁止にしてっ! 

 ……一言一句、間違ってはいないけどね。

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