会合

 扉を開けて見えたのは、椅子に座りお菓子をつまみながらお茶を飲んでいる、私の親友にして専任メイド、ニーナだった。

 ……先行したと思ったら、この子はぁぁ。

  

「おや? タバサお嬢様、エルミア様。お早いご到着ですね」

「……ニーナ、貴女、満喫し過ぎじゃない?」

「そうでもございません。会場の設営やら、朝から今まで忙しかったのです」

「……会議室よ、ここ」

「はて?」

「もうっ! それと」

「何でございましょう?」

「その手に持っているのは?」

「ハル様、お手製のまどれーぬでございます。紅茶とよく合います。絶品です。作り方をご教授願わなくてはっ」


 この子、順応し過ぎだと思う。

 頭が痛くなってきたわ。今日の集まりは厄介な事になりそうなのに。


「難しい事はタバサお嬢様にお任せいたします。私はまどれーぬに専念を」

「ニーナ!」

「――子ネズミ一号、うるさい。二号、私にも紅茶。クッキーは?」

「そう言われると思いまして、ハル様と今朝がた焼いておきました。お好きなバタークッキーです」

「――ん」


 美味しそう。私も後で――じゃなくてっ!

 もうっ、二人共、落ち着き過ぎ。

 あの迷宮都市での大事件から二週間が経った。

 つい先日、辺境都市へ戻って(ハルさんの転移魔法で、街道沿いの森へ跳んだから帰りは凄く早かった。今日も跳ばしてもらった)少しホッと出来ると思ってたのに……紅茶を一口。

 今、私達がいるのは帝都、『盟約の桜花』クランホーム内の会議室。

 調度品の質は私の実家かそれ以上。椅子も座り心地がいい。

 何より紅茶が凄い。お菓子に合うようメルが気合を入れましたね、これ。


『ハル様のお菓子! た、大変です。帝都最高の紅茶をっ!!』


 ……幻聴が。

 それにしても憂鬱です。ハルさんとお留守番が良かったのに。

 ノックの音。

 入ってきたのは、金髪が美しいハーフエルフの美少女。到着当初、蒼白だった顔は、すっかり元通り――さっき渡したハルさんからのお手紙で過剰回復してるような……。


「お待たせしました。皆が到着しましたよ」

「早いわね。私も、お師匠に送ってもらえば良かった」

「サクラがぁ『後で合流する』なんて言わなければ良かったんですぅ。そういうとこ、何処かの誰かさんとそっくりですぅ」

「サシャ? 誰の事かしら?」

「ハナに似てるなんて言ってませんけどぉ? 嬉しかったんですかぁ?」

「!? ……ち、違うんだからね!」

「サクラは面倒」


「――うるさい。とっとと座る。私は早く帰りたい。ハルとあの小娘が二人きりなのは由々しき事態」


 エルミアの冷たい一言に、皆が沈黙。そして理解。

 席へつきます。


「――ハナ」

「私なの? はぁ、短く済ませるわ。議題は例の黒外套とその他の件よ」

「その前に他の方々はどうされたのですか? 本来ならば強制的に『招集』すべき事案かと」

「はいはい。お師匠の言いつけを守らなかったのはあんたも一緒だからね」

「そ、それは……罰は甘んじて受けますし、もう受けました……私もお会いしたかったっ……。で、ですが、ハル様の為なら私は何度でもっ!」

「……メル。私はまだ許したわけじゃないわよ?」

「脱線している。次へ」

「帝国・王国・自由都市にいる子達には声をかけたわ。けど、西都組は、例の大規模掃討戦が佳境。『本喰い』からは珍しく反応なし。サクラ、あんたのとこは?」

「同じく、大規模任務中よ」

「『天魔士』と『星落』にはぁ?」

「――ハルが直接伝えている」


 凄い名前が飛び交っていますが、動じません。私も成長したのです。

 ニーナ、生暖かい視線を向けながらでまどれーぬを食べるのは止めて。私にもちょうだい。

 その間も議論は継続中。


「――お師匠から言われているのは『各個撃破』を徹底して単独で相手に当たらないこと。『魔神の欠片』を回収すること」

「ならばっ!」

「要はそいつらを斬って、欠片を集まればいいのねっ!」

「落ち着いてくださぃ~。せんせぃは、出来れば、と言われたんですぅ」

「短慮=怒られる。怖い方で」


 『魔神』

 かつて、世界に対して戦いを挑み、敗北した未開の地の神。

 だけど……『女神の涙』を加工した時の事を思い出す。あれはいったい?

 誰か知って


「むぐっ」

「――子ネズミ一号。約束」

「!」


 そ、そうでした。秘密でした。

 あ、危ない……メルと同じ身分に落ちるとこでした。

 ニーナ、何よ?


「シキ家は?」

「お師匠が出張るって――帝都へ」

「「「「!」」」」

「喧嘩したら会わないそうよ? 私達もこの前怒られたけど、ああいう時のお師匠は、本気だから」

「あいつに? 何をしたの?」

「ちょっとね……本題よ。黒外套は見かけたら焼けばいいわ。それよりも」

「あのはぁ強敵ですぅ」

「寵愛の域。嫉妬する」

「……うふ」

「……へぇ」


 あ、あれ? 雰囲気が……ニーナ、どうして私を盾にしようとしているの? 

 貴女、私の護衛も兼ねてるのよね?

 エ、エルミア、何とかして


「――あの小娘とタチアナは知ってる。もう一人?」


 ……そうでした。こういう人でした。

 あ、あれ? もしかしてストッパーになる人がいないんじゃ?


「会って早々、お師匠から絶賛を受けたらしいわ」

「お手製の双剣まで渡したみたいですぅ」

「帰り際に、わざわざクランホームを訪ねて励ましていた」

「……サクラ、その短刀、私にもくれますか?」

「……いいわよ」

「――誰?」


 ハルさん、今すぐ来てください。とても不幸な方が生まれようとしています。

 ただでさえ、タチアナに誤解されているのに。

 自分の預かり知れぬところで仮想敵扱いされるのは……。



「名前は『双襲』のカール。天下一のヘタレ男よ」



 ハナ。流石に酷いと思います。

 ……私も見ててそう感じはしましたけど。何にせよ、神様、彼に愛の手をっ!

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