第35話 タチアナ―3
「あ、貴方があの。お噂はかねがね。お会い出来て大変光栄です」
「実在したんですね……てっきり団長の妄想だと……」
「証拠に映像を……」
「――貴女達――」
「「「!」」」
あっという間にハルさんを囲み、名前を聞き出した三人へ冷たい声が出てしまう。間が悪いにも程があるでしょう?
……折角、二人きりだったのに。
私がもやもやしているとそこに暖かい声。
「タチアナ、彼女達を紹介してくれるかな?」
「は、はいっ! うちの新人達で全員が第3階位です。左の魔法士がマーサ。何を隠そう、ハナの弟子なんですよ?」
「マ、マーサですっ! 団長――じゃなくて、ハナ先生に魔法を教えてもらっています。先生はドワーフ族の中でも凄く有名で、子供の頃から憧れていて、その、あの……これからも、が、頑張りますっ!」
「ふふ、ハナのお弟子さん、ということは僕にとっては孫弟子になるわけだね。よろしく、マーサ」
「その隣の子が、ソニヤ。背負っている弓でお分かりかと思いますが、射手です」
「ソニヤです。まだまだですが、私は必ず『千射』を超えます。長くあのハーフエルフの手にある、世界最高の射手の座は、誇り高きダークエルフの血が流れている私がもらうので、お見知りおきを。ところで、本当に団長のお師匠様なんですか? 全然強そうに見えませんけど」
「凄い目標だね。頑張って。もうハナの方が上だと思うよ?」
「最後にヴィヴィ。槍の腕はクラン随一でしょう」
「ヴィヴィです。当面は『烈槍』を、まぁすぐに追い抜きます。ソニヤの意見に同感です。とてもそういう方に見えません。むしろお弟子さんに見えます。しかもダメダメの」
「ほぉ、君も意欲的だね。う~ん、そうだねぇ……どうしてもそう見られないんだよ。困った困った」
ハルさんは何時もと変わらない優しく穏やかな笑顔。
反面、私は自分の表情が引き攣っているのを自覚。
マーサはいい。おそらく、ハナから色々聞かされているのだろう。明らかに緊張している。当然だ。目の前にいる人と彼が育てた方々の実力を理解していたら、大口なんか叩ける筈もない。
が……残りの二人はまったく分かっていないみたいだ。
『千射』と『烈槍』を超える?
私は二人に会ったこともあるし、その実力の一端を垣間見たけれど……思い出すと未だに気が遠くなる。
ソニア、言っとくけどエルミアさんは前衛職としても大陸有数なのよ? 射手としては単独で真龍数体を討伐している程の方なんだからね?
『千射夜話』で書かれている、『私』が討伐した魔物達はかなり過小に書かれているんだから……。
ヴィヴィ、ファンさんはかの『天騎士』とも渡り合った数少ない前衛。槍一本で地形を簡単に変えるんだけど? ハナですら、真正面からは挑めない方なのよ?
第一ハルさんへそんな不遜な言い方をして!
ハナにバレたら地獄が遊技場に思える訓練が……ああ、避けようはないわね。だって、私が聞いてたし。逃すつもりはないわ。後で、一回死んで、蘇生させて、もう一回死んで、ハルさんの手が私の頭をほんの軽く叩く。
「色々考え過ぎだよ? 若い子達には目標を持たせたほうがいいさ。勿論、君も目一杯高い目標を持つようにね。高過ぎても大変だけど」
「……御助言、ありがとうございます。さぁ貴女達、先にホームへ戻りなさい。私達は冒険者ギルドに用事があるから」
「「「私達も行きますっ!」」」
「……理由は?」
「あの、ハ、ハル様ともう少しお話したい、なって」
「そうですね、もう少し色々知りたいです」
「端的に言うと、実力を知りたい」
「……ねぇ、そんなに私を怒――むぐっ?」
「いいよ、一緒に行こうか」
二人を叩き伏せる前にハルさんの手が私の口を塞いでいた。
ち、近い、近いですっ! 分かりましたっ。分かりましたからっ。
し、心臓がその、保たないので……いやでももっと近くでも……手が離れていく。ああ……。
「さ、それじゃ行こうか。タチアナ」
「……最近分かってきました。ハルさんは、案外と虐めっ子ですね……」
「うん?」
「何でもありませんっ! 貴女達、ついて来るのは構わないけど、迷惑をおかけしたら、分かってるね?」
「「「り、了解!」」」
……本当に分かってるのかしら?
どうやら、私の幸運はもう力を使い果たしたみたいだし、何かしら揉め事が起きそうな予感はするわね。
※※※
「で……案の定と……」
「副長?」
「大丈夫よ……ちょっと、頭が痛くなっただけ。それで私が席を外した、この短時間に、何があったのかしら?」
冒険者ギルドに辿り着いた私達はエルミアさんから転送されてきていた手紙を受け取れなかった。厳密に言うと、私だけ奥の部屋に連れ込まれ、ギルド職員から質問の嵐を受けた。
どうやら手紙に書かれていた帝都の『閃華』と、公式には引退した事になっている『千射』という、大陸有数の冒険者二人の連名に過剰反応したらしい。
ハルさんは目立つ事を好まれないので、エルミアさんが宛名を私にしたようだ。 流石の気遣い。見習わないと。
その後、首尾よく手紙を受け取り戻ってみれば、残っていたのはおたおたしている赤髪ドワーフの少女だけ。
……何となく分かっているわ。
どうせ、あの二人がハルさんを無理矢理連れて行ったのね。しかし、マーサが語った内容は、私の予想をある意味で超えていた。
「ソニアとヴィヴィがハル様の実力を試そうとしていたら、あの二人、『双襲』様と『光刃』が突然やって来て……今、屋上訓練場です。早くしないと始まってしまいますっ! 1対4の変則模擬戦がっ!!」
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