第21話 タバサ―6

 エルミアの発言を聞いたハルは困った表情を浮かべた。


「エルミア、少し話を大きくし過ぎだよ? それに、僕はそんな話を聞いてない」

「――当然。私も具体的な話はまだ。でもハルから注意喚起があって、何も考えない訳がない。準備はしてる筈」

「そんなつもりはなかったんだけどなぁ……」

「――第一、ハルが出て来て色々やったら、あの子が絶対図に乗る。それは何があっても許されないし、避けるのは至上命題にして最優先事項。これは間違いなく皆、賛同する」

「……少し心が狭いと思うよ?」

「――そんな事ない。さっきも言ったけど、そもそも名付け親にさせたのがいけない。猛省必須。思い返すと昔も――」


 何かを思い出したのかエルミアがお説教を始める。

 うーんと……さっきまで深刻な話をしてた筈なんだけど、これってつまり、ハルを巡る何かの争い?

 詳細が全く分からないからなんとも言えないけど、重苦しい雰囲気は霧散。

 お爺様達も突然始まったお説教に唖然とされていたけど――笑い始めた。

 疲れたわ。残りのホットケーキを……ニーナ!! 貴女、私のはどうしたのよ!?


「とても美味しかったです。この生クリームは魔性のお菓子? ですね」

「あ、貴女ねぇ……ようやく喋ったと思ったら……」

「仕方ないじゃないですか。ここで話されている内容は、私の手に余り過ぎます。なら、無鉄砲――ではなく、肝が据わっておられるタバサお嬢様に託すしかありません。信じています」

「そ、そう? そんなに私を信じてくれてたの?」

「当然です……いざとなったら盾にもなりますし」

「ニーナ!」


 もうっ!

 でも……戻ってきてくれたのは嬉しいわ。

 いてくれないとちょっと心細いしね。


「分かった、分かったよ。次は熟慮する。エルミアにも必ず相談するし、忘れず次は名付け親になってもらう」

「――分かればいい」

「……お待たせしたね。結論を言うと、変事があるかもしれないし、ないかもしれない。一応、その為に僕自身は少し準備をしたのさ」


 ハルがエルミアのお説教に屈して話をまとめる。

 ……怒らしたらいけないタイプね、あの人。

 笑っていたお爺さま達が真顔に戻り応じた。


「了解したよ。僕も準備を進めさせよう」

「儂もじゃ」

「私も、注意喚起と情報を集めてみるわ」

「……釈然とはせんが、お前の忠告を無視して碌な事はない。儂も多少は協力が出来よう」

「何かが起こりそうな時は、連絡をするよ。さて今日の本題に入ろうか。ああ、その前に」


 そう言うと私達に視線を向ける。

 ち、違いますよ? ホットケーキのお代わりを要求してた訳じゃありません。

 ……だけど、かなりニーナに食べられたから、もし焼いてくれるなら喜んで!


「君達を帰さないとね。ローマン、良いかい?」

「構わん」

「お嬢さん達、悪いけど今日のお茶会はこれでお開きなんだ。これからは悪い大人達の時間になるから、今日はもうお帰り」

「え……だ、だけど、もう飛空艇が――」

「ああ、それは問題ないよ。帝都のシキ家だろう?」


 そう言うとハルは珈琲を飲み干すと立ち上がった。片手にはあの杖。

 ……持ってなかったわよね? そうよね、ニーナ?

 達観した目をしてないで! 話を――


「「っっ!!」」


 魔法を殆ど使えない私でも分かる程の膨大かつ恐ろしく綺麗な魔力。

 それが私達を中心に渦を巻いている。これって、もしかして転移魔法? 

 無数の魔道具と上位の魔法士を数十人集めないと起動すらしない、あの??

 横にいるニーナの顔は青を通り越して白。私だって信じられない。

 ただ不思議と怖くはない。むしろ、凄く暖かくて心地よい。

 ハルと持っている杖を見る。あ――


「あの!」

「ん? 何だい?」

「今日は有難うございました。ホットケーキとっても美味しかったです。最後に一つだけ聞いてもいいですか」

「勿論」

「その杖に書かれているのって何ですか?」

「ほぉ、これがのかい?」


 魔法の起動がいきなり止まる。

 ……へっ?

 そして、ハルが小首を傾げながら――妙に可愛らしい――聞いてきた。


「お嬢さん、君の名前は何と言うんだっけかな?」

「タバサです。こっちはニーナ」

「では、タバサ――これから、僕達はある勝負をするのだけれど、君も参加するかい? 危ない事はさせないよ。ただ、そうだね3日程度はここで過ごしてもらうけど」


 そんなの決まってる。

 ニーナ、袖を引かないで!  


「参加したいですっ!」

「タバサお嬢様!? 内容も聞かずに――」

「あら? だって凄く面白そうじゃない。お爺様達がわざわざやって来てまでされるのよ? 私、興味があるわ。それにまだ美味しい他のお菓子も食べたい!」

「ふふ、合格だ。と言う訳で、この子達も参加させる。彼女達の分は報酬を増やすよ。構わないよね? ローマンも」

「…………お前の決める事だ」


 ネイさん達はハルに対して、軽く頷き、お爺様は苦虫を噛み潰した表情をなさったけど同意。

 だけど、どうして突然参加を許してくれたんだろう? 


「エルミア」

「――ん」


 そう言うと、エルミアが私達へ小冊子を渡していく。

 中身は――はぁぁぁぁ!?

 な、何なのこの目録は? 

 龍や悪魔の素材、希少な魔石や金属、禁書――これだけあれば下手すると軽く小国を買える位にはなるんじゃ……。


「主だったアイテムは書かれていると思う。この後、実物も見せるけれど、その中から最も貴重だと思う物を各人選び出してほしい。その順位に応じて最初の倉庫の中身を譲ろう。ああ、自分で加工しても構わないよ」

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