第22話 タバサ―7

「ま、待って下さい! 今の説明だけじゃ理解が出来ません。質問をしていいですか?」

「勿論だよ」

「この中から貴重な品を選んで、私とお爺様達との間に順位がつくのは分かります。何を基準に決めるのか、とか色々言いたい事もありますけど……ただ、そこに貴方はどう関わってくるんです?」

「もっともな指摘だね。実はアイテム内に僕の『』があるんだ」

「『本命』……ですか?」


 小冊子に目を落とす。この中に?

 

 ……正直、どれも甲乙つけ難い。

 

 帝都の市場に出れば、どの品も天文学的な値がつくだろう。それ位、とんでもない物しか書かれていないんだけど。

 ニーナ、また現実逃避をしないで。貴女も含まれてるんだからっ! 首を振っても駄目よ。イヤイヤ、じゃないのっ!


「そこに書かれているかもしれないし、ないかもしれない。探す時間も必要になるね。時間はそこまで厳密に定めないけど……ローマン達は多忙。加えて――最初から加工する気前提で来てるからね。その時間も考えると、3日間程度になるのさ」

「……えっ?」


 お爺様達に目を向けると何時の間にか全員、職人が着るようなエプロンを身に付けていた。

 ……懐かしいなぁ。久しぶりにお爺様のこういう姿を見た気がする。


「『本命』が発見されたら僕の負け。その人が優勝。さっき通った倉庫があったろう? その半分と『本命』を譲る。後は順位に応じてだね。勿論、対価は貰うけど。だから、加工しても無駄にはならないし、本命じゃなかったとしてもそれによって同価値の物なら順位は変動する訳さ」

「――安くし過ぎだと思う」

「そんな事はないよ」

 

 ハルの軽い口調に対して、お爺様達は目を逸らされる。

 ……成るほど。そういう事ですか。


「……僕の口からは言えないなぁ」

「……儂の口からも言えん」

「私は言うわよ。ハルちゃん……あれはって言うの」

「帝都や王都、もしくは自由都市に持ち込めば、まずになる……お前が知らん訳はあるまい」

「ふふ、何の事かな? 疑問は氷解したかい?」

「まだです。『本命』を見つけられなかった場合はどうなるんですか?」


 お爺様が目利きなのは知っている。

 多分だけど、ネイさん達も同様だろう。

 ……それでも、この中から一つを選ぶのは困難。

 報酬は凄いけど、代償も大きい筈。

 ――が、ハルの答えはあっさりしていた。


「僕が困った時に助けてもらう。ああ、倉庫の中身は勝っても譲るよ」

「へっ? そ、それだけですか?」

「君のお爺様を考えてごらん? かのローマン・シキに向かって、勝てば僕はこう言えるんだよ。『愚痴りたいからお茶を飲みに来て』とね。これは中々凄い事さ」

「た、確かにそうですけど……」


 お爺様に視線を向けると、ゆっくりと首を振られた。

 他の三人も同様。

 ……つまりこれって。


「――難しく考え過ぎ。要は整理の一環。定期的に出さないと物の数が増えるだけだから。そのついでにハルが遊んでいる。ネイ達にとっては真剣勝負だろうけど」

「僕も真剣だよ? 今回のは自信がある」

「――そう言ってて、前回はローマンに負けた」

「エルミア……僕は過去を振り返らないと随分前に決めたんだ」


 前回はお爺様が勝たれた。あれ、そう言えばうちの在庫に貴重な品物が増えた時期があったような。

 

 ……まさか、ここの?

 

 お父様は知らないわね、きっと。

 お爺様が教えないのは何となく分かる。

 此処に肩書や異名を持ち込むのは余りにも無粋だし、何よりのだ。

 それこそ大陸級でさえ届かないかも。

 『閃華』様や『雷姫』様でようやく、かな?


「そう言えばタバサは宝石類を加工出来るのかい?」

「えっ……」

「出来ぬ。息子は孫達には不要だと言っておった。『宝玉』は儂で終わりよ」

のに活かさないなんて、中々変わった方針だね。まぁそれなら仕方ない。彼女は選んだ物に対しては加工前の価値で判別しよう。初参加だしね」


 ハルがさらりと話を流す。

 ……今、私に才がある、って言ってたわよね?

 一度も宝石類の加工やらせてもらえた事ないんだけどな。

 

「そろそろ良いかな? 何かあったらまた質問しておくれ。エルミア、後はよろしくお願いするよ」

「はい、分かりました」

「――案内する」


 そう言うとエルミアが先導して歩き始める。

 ……ニーナ、貴女も行くのよ? 

 当たり前でしょう、私だって好奇心七割、怖い物見たさ二割、お菓子食べたい一割なんだからねっ!


「うん? ニーナは気が乗らないかい? なら、僕と一緒にお菓子でも作ろうか。覚えたら帝都に帰っても作れるよ」

「是非、お願いいたします!」

「ニ、ニーナ! わ、私を見捨てるのっ!?」

「……タバサお嬢様、これは必要措置です。私がここで作り方を覚えないと、帰った時に文句を言われるのは、誰あろうタバサお嬢様なのですから」

「た、確かに――って納得しないわよ?」

「何より大旦那様達はお一人です。それに対してこちらが二人では不公平ではないでしょうか?」

「……後で覚えておきなさい……」

「二人は仲良しだね。タバサ、大丈夫だよ。危ない事はないから」


 ハルが私達のやり取りを見てくすくす笑う。

 ――何か恥ずかしい。

 不機嫌な振りをして、お爺様達の背中へと歩き出す。


「タバサお嬢様」

「……何よ?」

「美味しいお菓子を作っておきます」

「……生クリームがついてるやつにして」


 べ、別にニーナがいなくても、私は何とかしてみせるけど……これ位の我儘を言っても罰は当たらないと思うわ! 

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