第20話 タバサ―5
「ハル……色々と言いたい事があるんだけど」
「うむ……しかも、話に聞いていた物と違う。儂の心臓を止める気か!」
「ハルちゃん……私達を驚かすのいい加減、止めてくれないかしら?」
「疑問なのだが、当初のそれでも十分だったろうに、どうして改良したのだ?」
お爺様達が、次々と噛みつく。
あれ? さっきまで浮かんでいた杖は?
何時の間にか消えてる……。
そんな事を気にせず、笑みを浮かべながらハルはテーブルの上に運んできたお皿を置いていく。
ふわぁぁぁぁ――。
何? 何? ホットケーキに乗っているこの白いの? これもお菓子?
しかも、それだけじゃなくジャム――野苺かな? まで添えられている。
美味しそう! ううん、絶対に美味しいっ!!
視線を向けると、優しい笑顔で軽く頷いてくれた。この人、最初からそうだけど、本当に暖かい空気を持ってる。不思議な人だ。
「どうぞ召し上がれ。飲み物は珈琲。ミルクと砂糖はお好みで」
「「わーい」」
「君達にも入れてきたよ。飲みながら話そう。エルミアの準備が整うまで少し時間はあるからね」
そう言うと、お爺様達の前にも珈琲カップが出現。
……大丈夫、もう驚かないから。
今は目の前に集中。
はぁ――やっぱり美味しい! ニーナ、口にジャムがついているわよ?
「さて、ネイからかい?」
「まず確認を。先程の杖――七珠七龍が使われているように見受けられたけど、正しいかな?」
「うん、正解」
「世界樹――しかも、上層部の枝を用いているわね?」
「それも正解」
「……生きておるのか?」
「逆にどう思う?」
「老人を困らせるな。冥土へ行けなくなる」
「ふふ、冗談を言えてる内は大丈夫。その件は何れ」
「儂は先程の問いを繰り返そう。何故だ? この性能は明らかに過剰ではないか? まして、お前が使うのだぞ?」
お爺様が厳しい声を出される。
私とニーナも反射的に手を止めてしまう。
辺りにはピリピリした緊迫感――が、ハルは変わらず穏やかな笑み。
「幾つか理由はあるけれど――僕からも質問していいかな? 最近、君達の景気はどうだい?」
「ハル! 今は真面目な話をして――」
「ローマン。……そうだね、僕のところは好調だよ。特に薬品類はかなり出ているね。フォル、君は?」
「儂のところもだな。特に武具が良く売れておる。生産が追いつかん位じゃ。高階位の連中から、名指しでの注文もかなり増えた」
「私も同じね。この1年で作った杖は、今まで一番多かったかもしれないわ」
「ローマン、君は?」
ハルがお爺様へ尋ねる。
それを聞いて――どうしてそんなに険しい顔をされているんですか?
「……魔道具と回復薬が伸びておる。だが、それと貴様の杖にどんな関係があると言うのだ?」
「ふふ、君達なら今の話で何かに気付いたんじゃないかい? それが、杖を少し改良した理由さ。もう一つあるけど、それは私的な理由だね」
「意地悪をしないで教えてほしいわ。何に気付いているの? 心の準備はしておきたいのよ、お願い」
「確証はないよ。2年前、僕は若い悪食の群れに遭遇した。確か、全部で六頭だったかな? その内の半数を行きがかり上、狩ったのだけれど」
ハルが珈琲を一口飲む。何か凄く絵になるわね。
ちょっと見惚れてしまう。
「その後、各地へ念の為、報せておいたんだ。『若い魔物が特異種になる事例と遭遇す。注意を』とね」
「……まさか同様の事例が報告されたのかい?」
ネイさんが深刻そうに尋ねる。
今の話が本当なら、特異種が今までとは比べ物にならない頻度で出現するということだ。
これって一大事なんじゃないかしら……。
だけど、ハルはかぶりを振った。
「いいや。何一つ同様の事例はなかったよ」
「あまり、ヤキモキさせるでない」
「そうよ、なら問題はない――」
「…………そういう事か」
お爺様がぽつりと呟かれる。
その瞳には理解の色。
……今の情報だけで何が分かったんだろう?
取り合えず、ニーナ! 現実逃避は止めてそろそろ戻ってきて!
「若い特異種は見つからなかったのだな?」
「うん、そうだね」
「では、儂らより、否、この大陸内で最も広く、早く、最も深淵に近いだろうお前の情報網はいったい何を掴んだのだ?」
「ふふ、何だろうね。まぁ、僕の勘違いかもしれない。いや、多分そうさ。今の時点でどうこうする話じゃないと思う。ただ」
「ただ?」
ハルの顔に一瞬浮かんだのは――寂しさ?
しかし、それはすぐ消え穏やかな笑みへと戻った。
「……やっぱり止めておくよ。僕にはもう関係ないことだ」
「ハル!」
「ローマン、無駄だよ」
「そうじゃな。何より、ハルに多くを求めるは……我等には許されぬ。たとえ、今の世が忘れていようとな」
「そうね、私達にはその資格がない」
「っ!」
なお、詰め寄ろうとするお爺様を他の三人がたしなめる。
その口調に滲むのは、強い悔い。
……話してる内容はほとんど理解出来なかったけど、何かとんでもない会話を聞いていたのかもしれない。
話が問切れたところで、エルミアが丁度戻って来た。
「――話は終わった? こっちは準備万端」
「ああ、終わったよ。ありがとう」
「――意地悪を言った?」
「いいや」
「――ハルは嘘が下手。この人達の顔を見れば分かる。素直に言えばいい」
そう呟くと、お爺様達へ告げた。
……へっ?
そ、そういう事なの?
「――杖を強化したのは守る為。そこには貴方達も当然含まれてる。その点で、私から一つお願いしとく。ハルの出番を絶対に作らないで。私達も最大限そうする」
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