第9話 レベッカ―7
「――うん、大体分かったよ」
ハルがそう拍手しつつ言ったのは、最後の
小鬼の死体はハルが杖を振るう度に土へ帰ってゆく。どういう原理……。
私が今倒した小鬼も消えた。残ったのは怪物達が体内に蓄えていた魔石だけ。
小さすぎてギルドへ引き取ってもらうのは無理だろう。数も少ないし。
黒灰狼を狙って、辺境都市近くの森林地帯に分け入った私達だったが、未だに遭遇出来ていなかった
これ、本当にいる? 痕跡すらないけど……。
そうこうしている内に、小鬼の群れを発見。
数も10頭足らずだったので装備を馴らす意味もあり奇襲、私一人で殲滅した。
第8階位でもこれ位はやれるのだ。
――使っている剣が恐ろしい切れ味だったのもあるけど。
ゴブリンが装備していた、棍棒、盾、鎧等はまるでバターのようだった。
……これ、魔剣の類なんじゃ?
血を振り払い、剣を鞘に納め、わざと不機嫌そうに尋ねる。
「何が分かったのよ?」
「レベッカは、第1階位になれるってことがさ」
「あ、あんたに認められても、嬉しくないわ」
「ふふ、照れない、照れない」
「照れてなんかないっ!」
睨みつけるが、ハルの笑みは崩れない。
ダメだ――話していると、調子が狂う。
私だけ、むきになってるのが馬鹿みたいだ。
「君の剣技はとっても良いね。今まで努力を積み上げてきたのがよく分かる。僕は大好きだよ」
「…………っ」
どうしよう、こんなの、こんなの反則だ。不意打ち過ぎる。
――心の底から喜びがこみ上げてくる。凄く嬉しい!
この2年間、必死に剣技を磨いてきた。
……そうしなければ、生きていけなかったから。
だけど、その道程は険しくて、何度挫折しそうになったか分からない。
帝国出身ではなかった私には心から頼れる人など誰一人としていなかったし、まして、褒めてくれる人なんて。
――信じれるのは自分自身と磨いた剣技、そして炎魔法のみ。
まぁ、王国に残って人形みたいに生きていくなんて、今考えただけでゾッとするから冒険者になったことを後悔はしてないけど。
……やばい。ちょっと泣きそう……。
「それだけ積み上げてるんだから、魔法剣に手を出す必要はまったくないよ? 君なら時期がくれば必ず使えるようになる。昨日も言ったけど、それより炎魔法以外、出来れば雷魔法を磨いた方がいい」
「……どうして、雷なのよ?」
「一番君に合ってるからさ。炎も悪くないけど……合ってるのは雷だ」
ハルが私の目をまっすぐ見て告げる。
――嘘をついている様子ではない。視線は会った時と同じように優しく暖かい。
自分の中で何かが崩れて、錆びついていた蓋が開く感触……その瞬間、今まで抱えてきた想いを吐き出していた。
「私に雷魔法の才能があるなら、こんなとこにいなかった! 今頃、王国騎士団にでも所属していたわよっ!! 何も……何も知らないくせにっ。勝手なこと言わないでっ!!」
――私が生まれたのは帝国と並ぶ大国である王国だった。
王国貴族の中でも、雷魔法で名を轟かせていた父。
子供達にもそれが発現することを強く期待しているのは幼心にも分かっていた。
そしてそれは大部分において叶うこととなる。兄妹達には、強い雷魔法の才が認められたのだ。
……私にだけ素養がない、との報を受けた時、父が見せた失望の表情は未だに忘れられない。
それでも、私は頑張った、頑張ったのだ。
兄に剣術で勝ち、魔法も唯一素養があると言われた炎魔法を磨き続けた。
だけど――
「父様も母様も兄様も……誰も、私のことを見ようとはしなかった。むしろ、哀れな存在としか……その挙句、14歳で政略結婚って何なんのよ! 兄様や妹達は魔法学校へ通わせて……私は、すぐにでも子供を産め? ふざけんじゃないわよっ!!」
鬱積していた感情の奔流が止まらず、涙が出てきて視界が曇る。
どうしよう……どうしよう、こんな姿を見せたら、幾らこいつだって……。
「レベッカ」
「!」
優しい声が耳を打った。
涙を拭い、恐る恐る目を開く。
――昨日から見せている、優しく穏やかな笑顔。
「今まで大変だったね。でも、大丈夫。これからは良い事ばかりさ」
「……なんで、そんなこと分かるのよ」
「僕と出会ったからね。今までの子達も、誰一人として不幸せにはしてない安心実績だよ!」
「……信じていいか迷うわね」
「ふふ、期待しておくれ。取り合えずはまずこれを渡そうか」
そういうと、ハルが手を出してきた。
――何? 握れって言うわけ?
あ、あんたがどうしてもって言うなら「どうしても」……ま、まぁ握ってあげてもいいけど。
か、勘違いしないでよ? べ、別にあんたに心を開いた訳じゃないんだからねっ!
恐る恐る手を握る。
男の人と手を繋いだのって、何年ぶりだろ――そう思ったのも束の間、ハルから極々微量な魔力を感じる。
こ、これって――
「分かるかい?」
「――ええ」
「これが分かるかぁ。君の潜在的な力は思っている以上に強いね。普通は素養があってもまず感知出来ないよ?」
「……本当?」
「嘘をつく必要がない。だってこの場面でからかったら刺すでしょ?」
「勿論よ」
「ふふ、怖いなぁ」
そう言うと、今度は少し強い魔力反応。
――はっきりと分かる。これは魔法の初期鼓動だ。
ハルがそっと、手を放す。
私の手にはっきりとした感覚。
「どうかな? 魔法のセンスもある君だ。コツはこれで掴めると思うけど」
「……何なのよ、あんたは、一体……」
――あれ程、私を苦しめていた雷魔法、それが手の中に顕在していた。
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