第6話 レベッカ―6

「パ、パーティですか? レベッカさんが?? 男の人とふ、二人で!?」


 冒険者ギルドの担当職員が発した第一声には、強い疑問が含まれていた。

 ……悪い事をしている訳じゃないのに、何故か恥ずかしい。


「私だって、パーティを組む時はあるわよ。今回はこいつが『どうしても組んでほしい』って言うから仕方なく、そう仕方なく組むだけ!」

「は、はぁ。いやでも」

「何よ? 何か文句があるって言うの?」

「冒険者登録がない人とパーティを組むのは、ギルドとしてちょっと……」

「……あんた登録したことないの?」


 私と職員のやり取りを楽しそうに眺めていたハルを睨みつける。

 大口叩いておいて最初から問題発生だなんて、喧嘩を売ってるのかしら。

 ま、まぁ、朝から、あ、あんな事言う奴だし……うぅ……。


「レ、レベッカさん? だ、大丈夫ですか!? 顔が真っ赤ですけど……」

「だ、大丈夫よ! それで、どうするの。何か考えがあるんでしょうね?」

「抜かりなし。はい、えっと」

「ジゼルです。レベッカさんをこの2年間、担当させてもらっています」

「ああ、君があの。よろしく。僕の名前はハル。これを見てくれるかな」

「何ですか? …………う、嘘」


 ハルはそう言って折りたたんだ紙――明らかに高級そう――を渡す。

 訝し気にそれを受け取り、読む。その途端、職員の顔が引き攣った。

 ……多分、常識外れの物ね。

 数秒、沈黙していたが、口を開く。


「…………貴方、何者です?」

「誰だろうね? エルミアに聞けば答えてくれるかもしれないよ。今度尋ねてごらん。さて、僕がレベッカと組むのに何か問題があるかな?」

「……分かりました。パーティ申請を承認します。た・だ・し! レベッカさんに変な事したら」

「したら?」

「許しませんから!」

「君は聞いていた通り、とてもいい子だね」


 ハルが片目をつむりつつ楽しそうに答える。

 どうやら、問題は解決したらしい。

 ……あの紙が何かは知らないでおこう。心臓に悪いだけだし。

 職員が、なおも釈然としてない顔で私に視線を向けてくる。


「レベッカさん、この人、何者なんですか?」

「あんたが噂してた当の本人よ」

「……ほんとに?」

「ええ」

「……先輩の妄言が本当だったなんて」


 愕然としている。

 私だって信じられなかったし。その気持ちは痛い程よく分かるわ。


「それと――その白い軽鎧はどうしたんですか? 剣も違うみたいですけど?」

「へっ? あ、ああ、これは……その……そう! 何時も同じ装備じゃ飽きるでしょ。最近、停滞気味だから、気分転換も兼ねてね」

「……『愛用してる装備じゃないと不安』って事ある毎に言ってましたよね?」

「た、偶には私だって、そうじゃない時もあるわよ!」

「……ふ~ん」

「な、何よ?」

「べっつに~。はい、パーティ登録しました。何の任務を請け負いますか?」


 あ、明らかに、誤解されている。

 このままじゃ、私の名誉が! 

 反論しようと口を開く――前にハルの手で塞がれる。


「むぐっ」

「数をこなせる討伐任務が良いな。装備に早く慣れてほしいし」

「なら、これなんか如何です? 黒灰狼の討伐任務。ここら辺じゃ珍しい怪物ですけど最近、目撃情報が多数寄せられています。低階位――15階位からの推奨ですし、かつ群れで行動する相手ですから、こういう時にはうってつけかと思います。ところで、レベッカさんの装備は貴方が?」

「むぐっっ!」

「丁度良い装備があったから。折角だし、僕と組んでいる間は多少見栄えを気にしてもらおう、とさ。今朝『似合うから』と言ったら真っ赤になっちゃってね。可愛かったよ」

「分かります! よくぞ……よくぞやってくれました!! レベッカさん、こんなに可愛いのに全然、服装とか髪型に気を配ってくれなくて。髪だって、絶対長い方が似合うのに……あ、宝珠で撮っても?」

「勿論。後で僕にもちょうだい」

「むぐっっ~!!」 


 私の抵抗を他所に、職員が宝珠を向けて撮影。

 ……な、何たる辱め。この二人、許すまじ。

 ハルがようやく手を放したので睨みつける。


「……死にたいのかしら?」

「レベッカは本当に可愛いね」

「ですよね!」

「……こ、殺すわよ!」

「はいはい、大丈夫だよ。嘘じゃないから。ジゼルが言う通り、髪も長い方が似合うと思うな」

「ハルさん、分かってらっしゃっる!」

「…………」


 無言で依頼書をひったくる。

 そして、ハルの手を引き戦略的撤退。

 ……顔が真っ赤なのは自覚。


「お気をつけて~。ああ、ハルさんを襲っちゃ駄目ですよ~」

「お、襲わないわよっ!!」

「僕、襲われちゃうのか~。大変だなぁ」

「あ、あんたも! いい加減にしないと怒るからねっ!」

「ふふ、ごめんよ」


 優しく笑うハル。

 何でこいつはこんなに楽しそうなんだろう。

 ……怒ってる私がバカみたいだ。


「そ、それで、どうするの?」

「そうだね、レベッカの実力を見せてもらおうかな。実戦はまた違うと思うし」

「当然よ」

「ちゃんと美味しい昼食も用意してるからね、頑張って」

「……楽しみにしとく」


 今朝の朝食も美味しかったし、きっと昼食も期待を裏切らないだろう。

 昨日までは、凄く悩んでいて食事のことを考えられなかったのに。

 ……出会って2日目なのにもう大分毒された。今日でもっと毒される予感。

 そして、それは決して嫌じゃなくて、むしろ――わ、私、何を考えて!

 振り払うように宣言する。



「私の実力を見て驚くといいわ!」

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