第5話 レベッカ―5
世界樹――それは大陸中央にそびえる巨木である。
全高は不明。
飛翔魔法を使い限界まで昇った魔法士は、上位種(多数の龍含む)が生息していたことを報告している。
そして、頂上はまだ見えなかった、とも。
樹齢は数千年とも数万年とも言わているけど詳しい事は分かっていない。
辺り一帯はエルフ達の神域で当然立ち入るのが難しく、素材を手に入れるのは更に至難。
枝は魔法杖、葉や樹液は回復薬、その他も現在知られている最高峰の素材であり、多くの職人達は『生涯に一度で良いから扱ってみたい』と夢見ている。
今、私の前にあるのはそういう物だ。加えて七つの属性宝珠が付いている。
……こんなの見たら、発狂する職人も出るわね。
「変な顔をしてどうかしたかい? 良く出来たと思ったんだけど」
「……確かに綺麗。だけどその世界樹と宝珠は本物なの?」
「本物だよ。ほら、持ってごらん」
ハルが杖をこちらに渡してくる。
持った瞬間、悟る。ああ、これは本物だ。
自分の中で魔力が活性化するのを自覚。それどころか、今なら普段使えない属性の魔法も使えてしまいそう。
何よ? その楽しそうな顔は。
「一つ目の助言をしようか。炎だけじゃなくて雷をもっと使った方が良いね。どうやら苦手にしているみたいだけど、君の適正は雷寄りだよ」
「…………どうして、私の属性を知ってるの?」
「ほら、僕は育成者だから。見れば分かるのさ」
幾らあのエルミアでも、冒険者にとって命綱の情報を他人に話さないだろう。仮にもギルド職員なのだ。
確かに私は炎魔法を得意にしているし、雷魔法は苦手。
それを何故、知っている? しかも、適性が雷寄り? 俄かには信じられないけど……手品の種自体は
「この杖ね」
「むぅ……正解。それを持つと、魔力が活性化するからね。驚かすには便利なんだ。全部揃ったし、これからもっと活躍してくれるだろう。それにしても、君は本当に賢いね。大体、どんな子もここらへんで剣を抜いたり、魔法を展開したりするんだけど」
「抜いてほしいのかしら?」
「ふふ、褒めてるんだよ」
「からかわないで。そろそろ、お暇するわ」
そう言って、杖を渡し席を立つ。
自分の中にある想い――話を聞いてみようかな、という――を振り払う。
……だって、どう考えても怪しい。怪しすぎる。
先程の倉庫に置かれていた物といい、この杖といい、尋常じゃない。
話せば話す程、常識が音を立てて崩壊していく。
「夕食も食べて行けばいいのに。あいつは何時もたかってくけど」
「結構よ」
「甘い物も勿論ある。ショートケーキ以外が!」
「……け、結構よ」
「そっかぁ、残念。なら、代わりに二つ目の助言。魔法剣を使いたいなら今のままじゃ永久に駄目だよ」
瞬間、抜剣し斬撃。
が――信じられないことに魔力障壁で阻まれる。全く刃が進んでいかない。
動揺を押し殺しながら尋ねる。
「……どうして、その事を知ってるの?」
「さて、どうしてでしょう?」
穏やかな笑みが逆に苛立たしい。
魔法剣とは、武器に属性魔法を付与し、攻撃力を飛躍的に向上させるスキルのことだ。
これを習得すると、普通の武器では攻撃が通らない相手にも対抗することが出来るようになる。
龍や悪魔といった上位種は恒常的に、数十にも渡る障壁を展開しており、普通の攻撃がまず通らず、また仮に障壁を突破しても身体自体が装甲化している。
それらとの長い闘いの果てに人が編み出したものこそ魔法剣であり、上級前衛職が習得する気闘術なのだ。
今はまだ必要ではないかもしれない。けれど、私の目標――第1階位に到達するには必須となるスキルと言える。
第8階位に昇格してから、私は魔法剣を習得しようと努力してきた。
様々な文献を読み、既に習得しかつ信頼出来る熟練冒険者にも教えを乞うた。
しかし、その取っ掛かりすら未だに得られていない。
そして、それが遠因となっているのか、他のスキル等も伸び悩んでいる。
……誰も知らない筈なのに。
「君はちょっと背伸びし過ぎだね。階段を一気に登ろうとすれば転落してしまうかもしれないよ。まして、魔法剣や気闘術は習得に時間がかかるんだ。そのせいで、他のスキルを蔑ろにするなら台無しになる」
「っ……なら、どうすればいいって言うのよ!」
「そのヒントが欲しいから、今日ここに来たんじゃないのかな?」
「…………」
そういう気持ちがなかった、とは言わない。
噂話を信じた訳じゃなかったけど、今はヒントになるなら何にでも縋りたいというのが本音。
けど……本当にそんな人間がいるなんて想像出来る筈がないじゃない!
剣を退き、鞘に戻す。そして問う。
「貴方に聞けば、私は成長出来るって言うの?」
「勿論。そうだね、すぐに第5階位には上がれるんじゃないかな」
「……冗談としては度が過ぎてるわね」
「そう? 努力をすれば何れ君は、第1階位まではいけると思うよ。そこから先は君次第だけどさ」
何のてらいもなくそう話すハル。本気でそう言ってるみたいだ。
……何なのだろう、こいつは。
どうして、会ったばかりの私をここまで評価してくれるのだろう。
両親さえ、私を信じてはくれなかったのに。
「ま、そう深刻に考える事はないよ。取り合えず明日の朝またおいで。僕も杖の調整をしようと思っていたから丁度良い」
「どういう意味?」
そう尋ねると、ハルは優しい笑顔を浮かべこう言った。
「明日から僕とパーティを組もう。その中で、色々話していくよ。朝食はここで食べようね。楽しみにしといて」
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