変化
「ついたね、ここだよね、確か」
目の前には大きな看板。看板には『Love and Peace』と書いてある。ちょっと変わった名前だ。
「変わった名前のカフェだねぇ。小夜ちゃん、どう思う?」
「私も変わった名前だと思うよ。普通カフェっていったら、ソレイユとか、スイートとかそんな名前でしょ」
「これじゃお店の前で失礼だね。入ろ。おいしいものいっぱい食べたいし」
「そうだね」
洒落た木のドアを開ける。紅茶のいい匂いがひろがる。すっきりとした空間だ。机といす、レジが綺麗に並んでいる。奥には厨房もある。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「2人です」
「かしこまりました。お席にご案内します」
金髪のかっこいいさわやかな店員さんが席に案内してくれる。店内はとてもきれいだ。ゴミ一つ落ちていない。他にも何人かお客さんがいる。
「こちらにどうぞ。ご注文が決まりましたらお伺いします」
メニューを手渡され、机に水の入ったコップを置かれる。和歌子は抹茶ロールと苺パフェ、それにハーブティー。私はハニートーストとレモンティーを注文した。
「そういえばさ、今日の英語の渡辺先生。いつもより、元気がなかったよね」
「確かに」
「てか、和歌子。よくそんなに食べられるね。太るよ」
「大丈夫。ちゃんとその分痩せるから」
運ばれてきたスイーツを食べながらたわいもない会話をする。私はこういう話をしている時間が一番好きだ。嫌なことを忘れられる。普通の日常会話が私の中で一番楽しい。
「失礼します。当店の新作メニューの試食です。おひとついかがでしょうか」
「ありがとうございます」
そう言って店員さんの顔を見たらあの時のキミだった。一瞬、時が止まったように感じた。和歌子も気が付いたようだった。思わず私は声を出す。
「あっ」
その声で店員の方も気が付いたようだ。店員さんはすぐ隣のテーブルにうつってしまった。
「小夜ちゃん、今のって……」
「うん、中三の時に引っ越していった。暁海翔だったよね……」
二年たった今でも忘れない、私の初恋の人。今でも好きな人。なんでここにいるんだろう。今までどうしていたんだろう。何をしていたんだろう。どうして急に転校していったんだろう。さまざまな疑問が頭をかけぬける。
私は黙ってうつむいてしまった。意識してしまった瞬間、顔が赤くなる。もう海翔は厨房に入ってしまった。
「ねぇ、小夜ちゃん……、顔が赤いよ」
「大丈夫、気にしないで。なんともないから」
「でも、小夜ちゃん動揺してるでしょ。仲良かったもん。暁君と」
「それは昔の話。今はもう多分違うから」
「ふーん、ならいいんだけれど……」
会話を途中で終わらせ、食べることに集中する。こんなときだけど、このハニートーストはおいしい。はちみつはとろけるように甘いし、そえてあるミントがさわやかだ。見た目もいい。
「ね、和歌子。そろそろ食べ終わったし帰ろ。バイト、今日あったよね」
「そうだね。あー、おいしかった」
「また食べに来よう。ね、小夜ちゃん」
「……気が向いたらね」
そう言って会計を済ませ、家に帰る。和歌子は店を出てから、すぐにバイトに向かった。
帰る途中でいろいろ考える。どうして、あのカフェにいたんだろう、とか今までどこに行ってたんだろう、とか。
「うだうだ考えても仕方ないか……。あぁ、どうしたらいいんだろう。一人でもう一度あのお店に行くのもあれだしなぁ。かといって和歌子と行くのもなぁ。はぁ、どうしよう。でも、しりたいしなぁ」
一人でブツブツ言いながら帰る。はたからみたら、自分は変な人だ。でも、ブツブツ言いながら帰る。さぁ、どうしようか。それだけを考える。
「よしっ、やっぱり明日一人で行ってみよう。」
なんとかこたえは出た。でも、これがベストとはかぎらないし、これで良いともかぎらない。ただ、それが一番簡単なこたえだと小夜は思った。それに、明日は休日だ。一人で行くには結構自然だと思うし、丁度いい。
そんなことを考えていたら、もう家の前。小夜はすっきりとした声で扉をあけながら言う。
「ただいまぁ」
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