5-仲良し殺し
「この前久々に実家に戻ったら妹が町の似顔絵コンテストで入賞したって母さんから聞いたんですよ」
「すごいじゃないか、妹さん絵上手かったからね」
「ええ。妹も町長さんからメダル貰ったってはしゃいでました」
「好きな事で褒められたら嬉しいだろうねえ」
仲良く会話するプライネルとストラーテの2人。
「あの、ロクトさん? 仲悪いとか言ってませんでした?」
「いや、俺も驚いてるんだよ? 騎士団の中ではケンカしてるところしか見た事ないし……」
その隣では、ユキとロクトがヒソヒソと話している。信じられないものを見るように目を丸くするロクトに対して、ユキは逆に目を細めて間違い探しに仏頂面で挑むような顔をする。ロクト的には芸能人の意外な一面を見てしまったような気分だろうが、ユキとしては元々が知らない人なので聞いてた話となんか違う程度のものにしか感じない。
「はいよ! ネリメシ肉肉セット2人分!」
話しているうちにサラマンダーが手の平に皿を乗せて戻ってくる。そう言えば、2人の仲の悪さサラマンダーも知っているだろうに、彼は2人に関して特に驚いた様子はない。
「な、なあマーさん? プライネル隊長とストラーテ隊長って仲悪かったんじゃないの?」
ロクトが小声で尋ねると、サラマンダーは不思議そうな顔をする。
「あ? ああ、そうか、今の一般騎士は知らねえか。コイツ等仕事のやり方は正反対だからケンカばかりしてるが、プライベートは別よ。そりゃあ仲が良いもんで2人に対して言葉で言い表せない気分になった同期が何人いたことか。こう、なんというか……なんでもいいから爆破したくなる気分というか……」
この世界の住人もリア充を見ると爆発させたくなるらしい。
「そりゃないですよマーさん。こっちは普通に過ごしてるだけなんですよ?」
サラマンダーの言葉にプライネルは困ったように笑う。
「そうです。私達はただ普通に接してるだけですよ?それを周りが勝手に持ち上げてるだけです」
ストラーテも同じように困り顔だ。
「そうは言ってもよお、お前ら仕事以外じゃいつも2人一緒じゃねーか。俺がまだ騎士団で隊長やってた頃にゃあ、お前らも隊長でも何でもないただの騎士だった訳だし、そん頃から一緒だったじゃねーか。そりゃ周りだって早く付き合っちまえって思うだろ?」
「そう言われたって僕達はただの幼馴染ですよ?周りの同期はいつになったら結婚するんだ? とか聞いてくるし、幼馴染って関係に夢を見過ぎなんですよ」
「それだけお前さんらが付き合ってないのが不自然に見えてるんだろ、同期連中にはな。まあ、仕事以外だと付き合いの薄い後輩の方には仲の悪さの方ばかり伝わっちまってるみたいだがね」
仲良く話す3人。
「隊長達、幼馴染だったのか……」
ロクトの方を見れば、相変わらず隊長2人の関係に驚いている様子。
ユキとしてはサラマンダーが騎士団にいたという方が驚きである。ロクトはきっと知っていたのだろう。こうしていると、なんだかクラスでグループ分けをした時に1人だけ余って、他のグループに入れられた生徒になった気分だ。経験談ではない。周りが仲良く話している時に1人だけ無言でいる気まずさと場違い感はよく分かるが決して経験談ではない。
「ありがとございました。またのお越しをお待ちしておりいます」
なんやかんや、いろいろ楽しそうに話して帰った2人にいつものように頭を下げた後、ふうとユキは息をつく。
今日はなんだか新情報が多い。初めてこの異世界にやって来た日のような疲れをユキは感じていた。一応はこの王都に住んでいる身だ。異世界の文化以外にも王都の有名人などにも知っておいた方がいいだろう。
異世界の生活にも大分慣れたと思っていたが、まだまだ学ぶべきことは多そうだ。自分はまだ異世界に馴染めていない。この日ユキは自分の立ち位置というものを再確認した。
「……って事があったんだよ」
「ほお、そんなことがあったのか、初耳だな」
翌日、騎士団本部の訓練場でロクトはイーベルに昨日の体験を話していた。壁に寄りかかりながら木で作られた剣を片手に他の騎士達が練習試合をしているのを2人で見ながらである。
「っつーかイーベル、お前プライネル隊だろ? 知らなかったの?」
「プライネル隊長とならプライベートでの付き合いもあるが、ストラーテ隊長とは何の接点もないからな。実際に見た訳ではないから信じられんというのが正直なところだ」
「まあ、信じないだろうなあ。騎士団の中じゃあ2人は仲悪いって認識だもんだなあ、仕事の事だとケンカばっかりしてるし」
「別に隊長達だけのせいという訳でもなかろう。その証拠に……」
イーベルは練習試合中の騎士達を指さす。
そこには、1人の騎士を3人の騎士が取り囲む姿が。だがコレ決してリンチとか騎士団の闇の部分とか薄暗いものではない。
「ひゃーっはァ!群れなきゃ何も出来ねえプライネル隊の貧弱騎士さんよォ! 自由気ままなストラーテ隊の圧倒的パゥワーってヤツを見せてやるよ!」
「何だと! 仲間との連携の強さも分からない脳筋バカなストラーテ隊が!俺達の連携の前には手も足も出ないって事を教えてやる!」
取り囲まれているのはストラーテ隊。取り囲んでいるのはプライネル隊だ。この2つの隊が練習試合をするといつもこのような複数対1人の形となる。個人プレーのストラーテ隊、チームプレーのプライネル隊、仲の悪い2つの隊の主義がぶつかった結果である。
「あんだけ隊員同士で仲悪ければ隊長の仲も悪いと思うだろう。ケンカしても止める気配もないしな。多分この2つの隊は隊長同士がプライベートでは仲が良いなんて言っても絶対に信じないぞ?」
「……それもそうか」
隊長の仲が悪いから隊の仲が悪いのか、隊の仲が悪いから隊長の仲が悪いのか。これではさっぱり分からない。
「そもそも、騎士団の他の隊の人間のプライベートなんて、普通興味は持たん。いくら仲が悪くても、人のプライベートを探って弱味を握ってやろうなんて奴はいないだろうしな」
3対1で互角に戦うストラーテ隊とプライネル隊を見ながら、イーベルは語る。
騎士団では同じ隊の中での関係は深いが、違う隊の人同士の関係はほとんどないに等しい。同期や同じ階級の人間ならば違う隊でも関係を持つだろうが、そうした例外を覗けば隊同士は基本的に無関心だ。そうした無関心さも、ストラーテとプライネルの関係が知られなかった原因だろう。
「だが、それを知ったからといって2つの隊の関係が変わる訳でもなかろう。なら、知ろうが知るまいが同じことだ」
「いやそうなんだけどさ……」
バッサリ言われてしまい、ロクトはため息を吐きながらその場にしゃがみ込む。話のネタとしては面白い部類だとおもったのだが。
ちなみに、さっきからずっとこうして話しているが、この2人、別に練習をサボっている訳ではない。何度も言うように、ストラーテ隊とプライネル隊は非常に仲が悪い。つまり、いくら練習試合といってもやり過ぎてしまう可能性があるのだ。2人はそうなった場合、試合を強制的に止めるストッパーなのだ。
「お前は分かるよ? 『勇者』だし、今年で4年目のベテランだし、魔術も剣術も得意だし。でも何で俺まで止める役なワケ?俺まだ騎士団入って1年とちょっとしか経ってないヒヨッコだよ? だのに騎士団の中でもヤバイ隊2つの相手しろってちょっと無茶じゃない?」
激しい戦いを見つめながらロクトはぼやく。ちなみにロクトはイーベルとは違い、プライネル隊ともストラーテ隊とも違う隊に所属している。同じストラーテ隊やプライネル隊ではストッパーとして機能しない可能性があるからだ。イーベルはプライネル隊所属だが、彼は例外として2つの隊の争いには無関心であるため、こうしてストッパーの役目を務めることが出来る。
「少なくとも、奴隷商を捕まえ、自分の仕事でもないのにテトラフォリア討伐に貢献したお前をヒヨッコだと言う奴はいないだろうよ。まあ、俺がこうして止める役に選ばれたのだから、お前が相棒として選ばれるのも無理からぬ話だ」
「だから俺は相棒になった覚えはねーってば」
「俺ももうお前を相棒とは呼ばん。1人の友人として接しているさ。だが、テトラフォリア討伐の際、お前の援護によって俺が奴にトドメをくれてやれたのも事実。他の騎士達も見ていただろうしな。俺やお前がどう思っていようと、お前は騎士達に勇者の相棒として見られているという訳さ」
「はあ……」
イーベルの言葉にがっくりと頭を下げる。正直に言って荷が重い。騎士団に入ったばかりの練習試合に始まって約1年、周りからも勇者の相棒扱いされまでになってしまった。果たしてこれを成長と呼んでいいのだろうか。
「それにしても、今日は続くなあ。いつもならもうこの辺りで止めに入ってるぞ?」
感心したように呟くイーブルの言葉を聞いて再び顔を上げると、相変わらず3対1で互角の戦いを繰り広げていた。
「死ねえ! この突っ走りのストラーテ隊がア! 大人しく殺されろオ‼」
「お前が死ねや! プライネル隊の弱虫共が!さっさとあの世に行っちまいなア‼」
「……なんか物騒な事言ってるんだけど」
「これくらい日常茶飯事だ」
「あ、そう」
互角ではあるが、練習試合だというのにやけに殺伐としている。だが、イーベルはその事を全く気にしていない。外側からでは分からなかったが、ストラーテ隊とプライネル隊の仲というのは予想以上に危ないらしい。
「あ、イーベルさん。緊急の任務です!」
そろそろ止めないとヤバイのではないかと、動く気配の全くないイーベルの横でロクトがそわそわしていると、突然1人の騎士がやって来てイーベルにそう言った。
「緊急任務?」
「はい! 集合商店で立てこもりです!」
「またか。それで? プライネル隊が呼ばれたということだな?」
イーベルが聞くと、騎士は首を横に振る。
「い、いえ。呼び出されたのはプライネル隊とストラーテ隊です!」
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