第4話ボールは友達じゃない!

スタンドが静まり返っていた。

観客はマリオと思われる男の言葉を聞き逃がすまいとしているからだ。

「ジャネット!アナタガ‥‥」

観客一同が息を飲む。


「チュキダカラ~!」


「セカイヂュウノダレヨリモ~!」


「チュキダカラ~!」


一同がずっこける、それと同時に罵声が飛び交い暴動になりそうな勢いになっていた。

「ジーパン、マリオってあんな人だった?」

ジュリアは隣で涙を流し、感動しているジーパンに問い掛けた。

「ん~、感動した!でも、何かが違う!スーパーじゃないんだよ!」

「スーパー?」

「キノコを食べて大きくなる時の、オーラが!」

マリオと思われる男は走って控え室に戻って行った。それの態度に観客は罵声を浴びせ、物まで投げ始めるのだった。

「ジャネットには連絡つかないし、どうなってるの?」

「やっぱり、何か違うんだよなぁ~」

スタジアムは収集がつかないくらい混乱していた。

その時、一人の選手がグランドの中央へ走って来た。

「ジーパン、あれ見てよ!」

「マリオ!?‥‥、いや違う!高山だ!」

読売アバーラを創立当日から支えて来た、Mr.アバーラこと高山弦が立っていた。しかし、最近はマリオに主役の座を奪われ、補欠どころか試合にも出てなかったのだ。

「素晴らしいサポーターの皆さん、マリオ選手は素晴らしい活躍と共にこの場を去ろうとしています!」

高山はマイクを取り混乱しているスタンドへ叫んだ。

「どうか彼の新しい旅立ちに傷を付けないで下さい!お願いします!」

そう言うと高山は深々と頭を下げた。それを聞いた観客の怒号は静まり、高山へ拍手と激励に変わっていった。

「高山あんなに汗かいて、今日も練習してたのかなぁ~?ここの所、試合にも出てないし。」

ジュリアが何気なく言った言葉にジーパンが突然叫んだ。

「そうだよ、今日のマリオの動きは高山だ!試合に出てたのは高山だよ!なんでみんな気が付かなかったのかな?」

「えっ!?」

ジーパンの発言にジュリアは戸惑ったが、頭の中で歯車が動きだした。

「ヒゲよ!ヒゲを付けていたからみんなわからなかったのよ」


事件の真相が確実に近付いて来ている。

しかし、佐藤警部補にテレビを消されている旅館の一同は、それを知るよしもなかった。

「皆さん、わかりました!」

花上が語り出す。

「謎はすべて謎だ!!」

「あのー、ごもっともなんですが。ひとつ気になる点があるんです。」

と堂本が切り出した。

「私、マリオさんの財布を盗んだのですけど、あれには訳があるんです。」

「ふん!どうせ、コロ助がコロッケをやめられないのと一緒だろ。」

「まあまあ、安西さん。とりあえず聞いてみようではないか。」

「マリオさん、偽名で泊まっていたんです。なんか様子が変だったし、財布に身分証入ってればと思って…そしたらやっぱり偽名で…」

と言いながら堂本は宿帳を開いた。

そこには、宿泊者[折真三]と記入されていた。ブタゴリラ警部補は、首をかしげながらそれを読んだ。


「折真三…、おりしんぞう?」


「いや、これ、真三の所を別な読み方にすると、“まさん”になるから、おりまさん=まりおさん=マリオさんだ!」

と、旅館アルバイトの小杉君が言った。


「おお!ちょっと強引だけど…。まっでも、なぜ偽名を使ったんだ?」


「そこなんです!ブタまんじゅう警部補!」


佐藤ブタ警部補が後ろを振り替えると、そこにはルミコを筆頭に耕助・高山・ジュリア・ジーパンがワンピースのアラバスタ編のラストシーンのように並んで右手を上げ、かっこよく立っていた。

「ちょっとルミコ君、前退いてくれないかな?」

ルミコが一番前に立ち自慢げにほくそ笑んでいる。

「それに一番美味しい所取るし‥‥」

清野がやれやれといった感じで、一同の前に歩いて来る。

「そもそも、マリオさんは何故殺されなければならなかったのか?」

「探偵、それはどういうことなんだ?」

佐藤はルミコと上を警戒しながら、清野に詰め寄った。

「この旅館にマリオさんは呼び出されたんです。高山さんと一緒にね」

「いったい誰に‥‥」

「ねぇ、ジャネットさん」

部屋の隅にいたジャネットの体がビクッと反応した。

「マリオさんは約束の時間より早く来て、貴女を驚かせようとでもしていたんでしょかね?」

清野は一度回りを見てから言った。

「だが、高山さんと貴女が抱き合い仲良く話しているのを目撃してしまった。」

「まさか‥‥」

佐藤はジャネットを見つめるが、彼女は震えたままだった。

「マリオさんがここに呼ばれたのは、婚約破棄です」

「!?」

一同は驚きを隠せなかった。

「どうしてマリオさんを殺さなければいけなかったんですか?」

佐藤がジャネットに歩み寄り優しく問い掛けた。

「違います!」

ジャネットは先程の態度とは別人のように叫んだ。

「そうですよ、ブタまんじゅう。ジャネットさんは犯人ではありません」

一同、清野に視線を送る。

「犯人はこの中にいる!!」

そう言って、清野は誰もいない場所をカッコ付けて指差した。


とその時だ!


部屋が暗闇に包まれた。

「なんだ!突然停電か!」


その瞬間、


ガゴーン!


暗闇の中でも的確に佐藤の頭にタライが落ちて来た。

部屋の明かりはすぐ点いた。ジーパンのジーンズをルミコが履いており、ジーパンは短パンになっていたが、皆その変は、もうどうでもよくなっていた。


そんな短パンが切り出した。

「ここにいる高山選手。マリオさんに変装して試合に出てたんですよ。」

「えっそれじゃ、我々がテレビで見てたのは、やっぱりマリオさんじゃなかったのか!」

「やっぱり言った通りじゃん、パックンフラワーとの激闘の傷が無かったし。」

と得意げに安西は話した。横で花上が何度もうなずく。

「どういう事だ!高山くん!」

とルミコは佐藤のモノマネをしながら話した。

「あなたにはさっき言いましたが…。じゃもう一度。」

一同は固唾を飲んだ。


「ロッカーに手紙とヒゲが入ってまして…。私の代わりに試合に出て、引退も表明してくれと…。私がいなくなれば君にとってもいいだろう的な事が書いてあって…。でもこんな事になってるとは…。今にして思えばあれが本当にマリオさんからの手紙だったのか疑問ですけど…。」


「んー。たしかにその手紙は犯人からの可能性も考えられますな。」


「あれ?その手紙日本語でした?」

と花上は質問した。

「ええそうでした。」


「んー。おかしいなぁ。マリオさんは来日一年目で、日本語すらまだうまくしゃべれないはずです。」


「本当か花上!」

とまたルミコが佐藤のマネをした。

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