第2話これが私のご主人様よ

「なっ、なんだ!タライが!」

佐藤は突然タライが落ちて来たことに動揺し、周囲を見渡した。

しかし誰一人、目を合わせようとしなかった。


「ルミコ君、挨拶はその辺でいいんじゃないかい?」

部屋の隅で足を組み座っていた男がほほ笑みながら、歩いて来た。


「お久し振りですね、警部補。」

「お前までいるのか、清野耕助」


佐藤と清野はなまはげ山荘殺人事件で居合わせていた。

だが自称探偵と言っている清野の推理はまと外れで、簡単な事件を難事件にしてかなり時間がかかったのだ。

本人は至って真面目にやって自信満々なので立ちが悪い。だが、たまに当たる推理は確信を付いていた。


「おい清野、このタライはなんなんだ!」

「警部補には紹介してませんでしたね。あそこにいるのが納谷ルミコ君、僕の助手です。タライは‥‥彼女の挨拶がわりでしょう」

柱の影ではルミコがほくそ笑んでいる。

「いったい何なんだ!これは事件なんだぞ!」

「お前達だって容疑者の一人なんだからな!」

その言葉で一同が静まり返えった。その静寂を書き消すかのように清野が口火を開いた。


「警部補、探偵は絶対!犯人ではありえませんよ。」


「何故なら探偵だから!」


清野の言葉で白けた一同がまた静まり返えった。そんなことにはお構いなしで話を続ける。

「この事件の犯人はもうわかりました。真相を暴いて見せますよ!」


「EXILE(エグザイル)の名にかけて!」


その時だ!


ガゴーン!


佐藤の頭にまたタライが落ちて来たのであった。


柱の影ではルミコが肩を震わせて笑いながら、ガッツポーズしていた。

「あっ!そういえば!」

花上は何かを思い出したかのようにテレビをつけた。


「あっそうか!」

花上に続き安西もテレビにかじりつく。

そこには、読売アバーラ対テキサステリーマンズの試合中継が流れていた。

もちろんこの二人がかじりつくくらいなので、サッカーの試合である。


その頃、佐藤はといえば、タライの件に激怒し逃げるルミコを追いかけ回していた。

その様子はまるでイタズラ大好きねずみとダメダメ猫の追いかけっこのようだ。


「おいおい君達そんなに回って、状況をわきまえたまえ。」


「EXILEじゃあるまいし」


呆れた様子で清野は言葉をかけた。

花上は何も言わずテレビのボリュームをあげた。


ルミコは佐藤の腹に蹴りを入れた!

ルミコのレベルが上がった!


と、その時だ!一同は耳を疑った。


「おーっと!マリオがセンタリングからボレー!」


テレビ中継のアナウンサーがそう叫ぶ。花上がボリュームを上げた事もあり、それは全員の耳に届いた。


そして写し出したのは紛れもなく殺されたマリオの姿だった。

「どうことなんだ!」

佐藤はルミコに蹴りを入れられ、うずくまりながら叫んだ。周りには小銭がばらまかれたが、ルミコはそれを素早く拾い集め柱の影からほくそ笑んでいる。


レベルが上がったことにより、ぬすっと蹴りを覚えた。326円手に入れた。


「これはライブ中継だから、ここに映っているマリオさんは本物。しかし先程殺された人物もマリオさんだとすると‥‥」

清野がそう言うのと同時に花上が叫んだ。

「違う!これはマリオじゃないこの角度が違うんだ!」

安西がそれに続く


「そう、まるでファイャーボールを投げる様な、しなやかさがまるで無いんだ」

「いや~安西さん、やっぱりあんた凄いや」

「いやいや、花上さんだって」

お互いを褒合い二人は笑い始めた。それを見ていた佐藤は顔を真っ赤にして叫んだ。


「お前達いいかげんにしろ!」


その時だ!


ガゴーン!


佐藤の頭に再びタライが落ちて来たのであった。


柱の影ではルミコがまるでスタンハンセンの様に右手を上げ、ウィーと叫びほくそ笑んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る