年老いて生きる事は罪か2

困っている時は手を貸すし

泣いている時は胸を貸すし

怒っている時は一緒に怒るし愚痴も聞くよ

笑っている時は目の前で見ていたい

楽しい時は何度でも話を聞くよ

心配なら何度でも「大丈夫」だと言うから


何度も何度も何度も何度も

同じことの繰り返し

治らない、治らない、不治の病

どこで間違えたのか分からない

まかせっきりだったからか?

気づかなかったからか?

もっと話を聞くべきだったのか?

もっと、もっと、もっと

気にかけるべきだったんだ

「任せていい」なんて信頼という割れ物を

押し付けただけの愚か者だったのだ


俺は


彼女がやっている事に対して

もっと真摯に、丁寧に、注意深く

しかし不機嫌にさせず

会話をして、話して、話して、話して

日々の機微を確かめるべきだったんだ


おかしいと思えなかった

なぜなら「――――はテレビが見たいから居間でご飯食べてるの」

「――――は困っているのだからいいじゃない、返してもらえるわ」

「親の務めよ。貴方は頑張って働いてくれてる。あの子たちも知っているし」

「大丈夫よ」「気にしないで」「関わらないで」「私にやらせて手を出さないで」


反芻して呼吸をすると気が遠くなりそうだ

よく笑っていた孫娘の表情がなくなった

何時の間にやら笑いもしなくなった怒りもしなくなった泣きもしなくなった

「衣食住とお金を使ってもらったっていう情のためだけにしているの。もしあの人たちが云々いってきたら嫌だし。家族のためじゃない。私は家族なんかじゃない。もうばあちゃんがああなった事が誰のせいだとか意味ないでしょ。孫なのに、なんの権利もないのに……あんなに、あんなに言ったのに」

口に出すのは疲労と悲嘆の言葉のみで、本当は捨てたいと口にしたそうだった

やっと、この現状と身体の弱さに気づいた。やっとそこまでの思考に至るまで何十年かかった

近くに警告を発していた孫がいたのに「まだいいだろう」などで片付けて、

無理矢理、病院に行かせようとするのを「大丈夫だって」と突き放して、


心底、疲れた

自分のことだけ考えれば


孫はそう言った。無表情というよりは同情に近い顔で、人形のように。ぽつりと。

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