年老いて生きる事は罪か
志高く『出来る事』であると思っていた。
最悪を考えず、全ての『優しさ』は回帰すると信じている。
今や盲信となったそれに、泥のように腐り果てたそれに、
私は信じられず呆けてしまった。
裏切られたと思ってはいけない。道化にされたと思ってはいけない。
『私は母親であっても都合のいい存在』であったと思い至ってはいけない!
全ては大切なものへ
全ては大事にしてきたものへ
必ずや報われると信じ、悪には天罰を。
『悪いことをしたら
何度、伝え、困ると、やめてと、私とは何なのか。
お前たちの何なのだ!
ああ、夫が私を信じてくれている。
夫が『家庭』を任せてくれている。
私の存在意義。私がしっかり子供たちを『管理』して、
私の母さんのように、たまに会いに来て、世話をして、お金をくれて、孫の顔を見せてくれる、年末には家に集まり楽しく遊ぶ。
決して、決して金の無心などしない。これは必要最低限の援助であって夫に相談することもないのだから私の独断で決めていいのにどんどん貯金が減っていく。なんで何度も家に来てはお金を要求するの私は渡すしかできないのに。だって可愛い子供たちですもの。
『いいこと』をしていれば報われると信じていた。
母がそうだったのだし。そう母は大勢の人に感謝をされて葬儀を行った。
皆が皆、口々にお礼を述べて。いや述べたのは近所の他人だ。
兄弟は? 兄弟は……姉が意地悪だった。弟は優しかった。姉は意地悪だった。
そういえば、私は実家を捨てた。母には世話になったし面倒も見たから『いいこと』をした。
私は報われるべきだ!
そう、その『幸せ』は私が育てた子供たちが支払うべきなのだ!
巡り巡って私は幸せに、幸せになるはずなのに。
物忘れが酷くなった。
掃除が出来なくなった。
この食器はどこに置くの。
キッチンは私だけのものだから誰も入らないで。
子供の名前を忘れた。
孫の名前を忘れた。何人いたっけ?
洗濯の洗剤は入れたっけ? もう少しいれよう。
布団はどちらだ?
お風呂は? トイレは?
この酷いことを言う人は誰?
認知症に、私は馬鹿になっていない! なるはずがない! 私は善行を積んできた!
……ご飯ってなんだっけ?
目の前の人が用意してくれる。
「私がばあちゃんのために買ってきたから、一緒に食べよう?」
そんなに食べたくない。キッチンに立たないで。その鍋の中身は何?
「味噌汁。お豆腐と葱。夜に食べれる?」
「うん、食べる」
帰っていく人、あれは誰だっけ?
…………
次の日、鍋の中身は昨日見た時と同じ水量だった。
しょうがないと溜息をついた。
昔よりはマシだ。祖母は孫の私を『――』家の家族として受け入れなかった。
大切な娘の出来婚で『無理矢理』できてしまったイラナイモノ
一応、優しくしとけばいいと思っていたらしい。お金だけはくれた。
だが四席のダイニングキッチンで、私は食事を摂ったことがない。
いつもテレビある居間で小さな机の上に、無造作に並べられた食事を食べていた。
事あるごとに『私は堕胎を進めていた』と言う。
『お前の母親は最悪だ』と言う。
いとこへもそうだった『お前の母親は私の大切な息子を奪った悪い人だ』
『掃除をしているのか? サボっているのだろう。お前の母親はそういう嫌な人間だ』
『私は姑なのだから家に行ってもいいだろう? なんで邪険にするんだ、頭の可笑しい奴目』
祖母は可哀想な人だった。こちらに引っ越してしまい友人となかなか会えず、友にも恵まれず趣味も見つけられなかった。
そして何より子離れができなかった。依存していた。
何が悪いのか、それを思うならば祖母は『家族』に夢を見すぎていたのだ。
祖父は『全て子供たちのせいだ』と言うけれども。
祖母は、私に暴言を吐き続けていたし、熱湯をかけたし、包丁をちらつかせた。
自分の想定した未来と違う結末を受け入れられず壊れた、なるべくしてなった人だ。
もちろん母も伯父たちも悪い。甘え依存し利用して壊した。自分の母親を。
私は……自業自得としか思えない。
なるべくしてなった祖母の姿を見ながら『失敗』した末路に反面教師とし生きるだけ。
ああ、早く死なないかな。でないと祖父も壊れそうだ。
早く施設に入れて精神の安寧を手に入れるべきなのだ。
祖父は頑なに、いや疲れてきているから、あと一押しだろう。
壊れた人間は同じことしか繰り返さない。壊れた人間は『人間』じゃない。
いや、ハハ、祖母は壊れるのが決まっていた。
だって『自分の幸せしか考えていなかったのだから』
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