第119話
「はい、昼飯できたよ」
ソウタが作ったのはチャーハンと中華風スープ。朝のあまりにパックのご飯を足して、具とチャーハンの元を混ぜて炒めたもの。スープも卵以外はインスタントだった。
「たまにはこういうのも悪く無いわね……」
ソウタの手料理は、エリからはまあまあという評価を得た。
「じゃあ夕食は私が作るわね。久しぶりだから無難にカレーにするわ」
エリが手料理を作るのは日本を出て以来。元々料理上手だったので、久しぶりでも心配は要らないだろう。
「ところでソウタ、私が裸エプロンで料理してたら、つまみ食いしちゃう?」
それを聞いて思い切り噴出してしまうソウタ。
「その時になってみないとわからないぞ……」
結局エリはこの時は特異な格好をせずに料理した。言葉通りの姿になって料理を行い、その最中にソウタにつまみ食いされたのは翌月の出来事だった。
ともあれ三人の休暇はこの三日間、ソウタの自宅から買出し以外で外出せず、夫婦の営みも封印し、外からの情報も入れず、ただぼんやりと体と心を休めていた。
「それじゃあソウタくん、買い物に行って来るから!」
ヒトミはエリを連れて買い物に出かける。エリをソウタと二人きりにさせると、暴走するのを警戒していたのだ。
ソウタはその間、ファルルに来てもらって施術してもらっていた。
「すまないファルル……」
「いえ、旦那様が快復されるのが最優先です!」
施術が終わったところでヒトミとエリが帰宅したので、今度はエリへの施術を依頼する。女王への施術に緊張するファルルだが、いつもどおりにすればよいとヒトミに助言されて、エリの身体に挑む。
「ああ……。いいわぁ……」
昼寝するソウタを横目に甘い声を漏らしてしまうエリ。
「タツノ家で独占なんて羨ましい限りだわ。今度から私のところにも来てもらおうかしら……」
「こ、光栄です陛下!」
あまりに気持ちが良かったので、エリはファルルにそのまま夕食まで残るように指示する。恐縮するファルルだったが、エリが食事の支度をしている間、ヒトミにも施術させた。
「久しぶりにしては上々かしら」
迎えた夕食。エリの手によるカレーは上々の味だった。
「へ、陛下のお手料理なんて……」
恐縮して食が進まないファルルに食べさせつつ、皆も料理を心から楽しむ。
「こうやって自炊するのも贅沢よね……」
「ああ。全くだ……」
カ・ナンでの立場故に、三人とも料理は苦手ではないが、料理をすること自体が困難だった。
「この二日間はただゴロゴロしてるだけだったけど、今までで一番贅沢だったわ……」
しみじみと呟くエリ。ソウタもヒトミも心から同意する。
「毎月一回は何もしないでゴロゴロする日を作った方がいいわね……」
「そうだな……。いや、本当にそれがいいな……」
こうして三人で料理当番を交代しながら、買い物以外に外出せず、ソウタの家でゴロゴロ本当に何もしないで四日間の休みを取った。
「さすがに四日も休んだら調子戻ったな」
五日目の朝。ソウタは床で大きく伸びをする。
「みたいね……」
その様子を見て微笑むエリ。視線はソウタの顔から股間の屹立に向かっていた。
「ねえ、今からする?!」
嬉々としてソウタを見つめるヒトミ。まるで初めて雪を見た子犬のようにはしゃいでいた。
「いや、今日はまず外に出よう。今までの鬱憤をどうにかするのは……、夜からだな」
ガッツポーズをとるエリとヒトミ。ソウタは二人が喜ぶ様子を見て安堵していた。
まず三人は街に移動してウインドウショッピングを楽しむ。映画を観た後は夕食を摂ってから郊外に夜のドライブ。市街地が一望できるあの展望台に登った。
「ここの景色も久しぶりよね……」
夜景を眺めながら、三人は小学生の頃を思い出していた。
小学六年生の夏休み。唐突に割と近所の坑道の一番奥まで見たいとエリが言い出し、三人で最深部に向かった。そこで落盤が起きて閉じ込められたが、何とか脱出して事なきを得たのだ。
「落盤起きたとき、ソウタが咄嗟に私たちを庇って被さってくれて……」
「俺はヘルメットに石が当たって気絶したんだよな」
「私はビックリして気を失ったんだよ……」
「そうね、意識がちゃんとあったの、私だけだったもんね」
一歩間違えていたら、その時点で三人とも死んでいたかもしれなかったのだ。
「今だから言うけど、あの時ソウタの顔が本当にギリギリ傍にあったから、思わずキスしちゃったのよね~。私のファーストキス、ちょっと土っぽかったけど……、まあ悪くは無かったわよ」
「あの時かよ?!俺の初物って俺の意識が無いときに奪われてばっかりじゃないか……」
「キスぐらい別にいいじゃない!ヒトミみたいにアンタの操を奪ったわけじゃないんだから!」
「ま、まあ確かに……」
などと懐かしい思い出話に興じながら夜景を楽しむ三人。
三人の左手の薬指には同じ指輪が嵌められていた。生まれ育った地球で普及しているように、夫婦で結婚指輪を作ったのだが、その際にヒトミの強い要望で三人揃った指輪を作ったのだ。
「私もエリちゃんもソウタくんの奥さんで、ソウタくんは私とエリちゃんの旦那さん。そして私とエリちゃんもパートナーだもん」
ヒトミは三人で一緒なのだと言い、ソウタもエリもそれに心から同意した。この指輪はその証なのだ。
「日本じゃ重婚できないけど、カ・ナンでは問題無し。お陰で私もソウタとヒトミと結婚できた……」
心からの笑顔を見せるエリ。
「あとはソウタの子供を授かったら言う事なしよね……」
「O.K.わかった」
ソウタがヒトミの方を見ると、彼女も強く頷いた。
「もちろん私も欲しいよ!」
「俺もだ」
しばらく笑いあう三人。
「……。再確認するけど、もう大丈夫なの?」
「ああ。心配要らないよ」
この四日間、ひたすら安静にして回復に専念していたので調子は戻っていた。
ソウタは自宅ではなく山に車を向ける。目的地は少々入ったところにある古めかしい洋式のお城の形をしたホテルだった。
「ここ、まだあったんだ!」
エリが懐かしそうに声を挙げた。
「ガキの頃、何も知らずに一度、ここに忍び込もうとしたよな」
「そ、そうだったよね……」
小学生の中ほどの頃、この建物が気になって三人で忍び込もうとして、結局エリが中の様子を見たところで、よくわからないまま撤収して冒険が終わったのだ。
「あの時、部屋の中見たの私だけだったよね」
「ああ。ヒトミは木に登れず、俺は敷地の中でお前の踏み台になったから見てないぞ」
「あの時は中で何してるのかあんまり分からなくて。部屋の中で男の人と女の人たちが、裸で汲み体操しているようにしか見えなかったのよね……」
「で、それから興味持ったのか」
「そうそう。お母さんが買ってた女性週刊誌をこっそり読んだりして勉強したのよ」
などと思い出話をしながら三人で一部屋に入る。場所は奇しくもあの時、エリが覗き込んでいた部屋だった。
「ふふっ。もしかしたら、あの時の私がそこの窓から覗き込んでるかも」
三人でしばらく笑いあった。
鍵を受け取り入室すると、三人揃ってベッドに腰掛けた。
「了解。それじゃあ早速」
「思いっきりいくわよ!」
「うん!」
こうして三人はそろって泥のように溶け合って一夜を過ごした。
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