第62話
『ええっ?!』
にわかに信じがたい話だが、父親やリュウジ伯父から聞かされていたゲンイチ伯父の性格や、日本での武勇伝を聞くと、それが嘘ではないと直感的に信じられた。
世界帝国ゴ・ズマのゲンブ大帝は自ら御忍びで腕時計の電池を求めて、このセキトに出向いてきたのだ。
「だったらゲンイチ伯父さん、いや、ゲンブ大帝陛下!この侵攻を止めてください!!」
「そいつは無理だ、ソウタ」
即座に拒絶する大帝。
「!!」
「俺は決めちまったんだ。この世界を俺の手で統一するってな」
無邪気な子供のような笑顔を浮かべる大帝。
「お前たちの国が、こっちに歯向かわなかったら笑って許してやったんだがなぁ。だがこの間こっちに歯向かって、あまつさえ撃退されちまったからな」
黒茶を口に含むゲンイチ。
「俺は今まで歯向かってきた相手は国ごと全滅するまで攻撃してきたんだ。例え相手がお前たちだからって、このまま素通しするわけにはいかないんだよ」
その言葉に嘘がないのは二人とも即座に理解できた。
「いいかソウタ、ヒトミ。二人とも、このまま俺について来い」
「え?!」
「可愛い甥っ子夫婦を成敗するには忍びないからな。ああ、ユーゴとマナの娘もそうだ。命まで奪おうと思わん。その代わり……」
「他は皆殺しにする。見せしめのためにな」
ゲンブ大帝は、身内であるソウタと、かつての仲間の娘であるヒトミとエリは生かすが、他は皆殺しにすると通告したのだ。
「だったらお断りだ!」
「そうか……」
ゲンイチは腕を組んで天井を少し眺めた。そしてゆっくりと口を開いた。
「よし、こうしよう。お前ら、がんばって俺をあきらめさせてみせろ。そうしたらお前らの国を認めてやろう。まあ、できなくてもお前たち三人と、その子供ができていたら、その子供も殺しはしない。他は皆殺しだがな」
ドス聞いた声が二人の肝を貫く。
「考える時間はゆっくりやる。しっかり考えて決断しろ。ああ、それと……」
「それと?」
「こいつの電池交換、頼むな。あとはリュウジによろしく伝えておいてくれ」
呆然とする二人を尻目に、実に陽気にゲンイチは店を出て行った。
しばらく続いた動転を抑えて、ようやく二人は階段を下りる。メリーベルたちは無事だったようだ。
「一体何者だったんだい?!アタシら以外の客、全員あのオッサンの護衛だったよ」
「うん、誰もスキが無くて迂闊に動けなかったよ。あんなにゾワゾワしたのは初めてだった」
「あの人は……」
「すまない、国に戻ってから話す」
数日後、カ・ナンに戻ってすぐにエリと三人で話をした。
「冗談でしょ?!ゴ・ズマの皇帝が、ソウタの伯父さん!?」
流石のエリも、これには驚きを隠せなかった。
「間違いないよ。ゲンイチ伯父さんは、私やエリちゃんのご両親のことも知ってたの!」!」
「お父さんもお母さんも、ソウタたちの家族がこっちに関係してるなんて、一言も言って無かったのに……」
「なあヒトミ、エリ。二人とも、万一のときの合図とか数字とか、両親から聞かされてなかったか?」
「私はソウタくん家の番号知ってたから電話したけど、それ以外は……」
「確かお守り袋に、何かあったらこれを見なさいって託されてたけど」
エリの開いたお守り袋の中には、百円玉が3枚と、ステンレス製のプレートに四種類の数字の羅列が刻まれていた。
そしてヒトミの方にも同じプレートが入っていたが、こちらに刻まれていたのは二種類。
「これって……」
「郵便番号と電話番号?電話のほうは固定電話の番号みたいだけど」
「どっちにも共通しているのは上に書かれている方だね」
二人に共通していたのは、上に刻まれていた二種類。その番号を見て、ソウタは口を開いた。
「間違いない……」
「知っているの?」
「この番号、リュウジ伯父さんの会社の電話番号だぞ!」
『ええっ?!』
「私たちがカ・ナンに居られなくなるような事が起きたら、ソウタの家かソウタの伯父さんのところを頼りなさいってことだったのね……」
恐らくヒトミがソウタに助けを求めてきた時のように、日本に逃げてきた時は、公衆電話からリュウジに助けを求めろ、という事だったのだろう。
「だったら、ソウタの伯父さんもソウタのご両親も、こちらの事を知っていたって事になるわね……」
二人の両親が、事情を知らない相手を頼れと書き残す訳が無いのだ。
ソウタの両親はすでにこの世にいないが、リュウジ伯父は健在である。
「ああ。リュウジ伯父さんに話を聞きに行こう」
「ソウタ、私も今回ばかりは一緒に行かせてもらうわ」
「そうだな。三人で聞きに行こう」
こうして三人は、日本に戻り、リュウジに直接問い質す事を決めた。
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