確認事項

第46話

 ソウタが宰相に就任してから半年が過ぎようとしていた。リンがソウタが就任してからの状況を報告書にまとめていたので、エリは目を通す。


「こうして見ると、やっぱり凄いわね……」


 エリはページをめくりながら、終始笑顔を絶やさなかった。


 まず戦力について。


 兵員は当初の見込みよりはるかに増加していた。徴兵して掻き集めた者たちだけでなく、国内からの志願者や、国外に傭兵で出ていた者や労働者として出稼ぎに出ていた者たちが志願兵として、まとまった人数が入隊してくれたのだ。


 さらに放浪していたエ・マーヌ兵や、噂を聞いた一部の海賊たちも合流。さらに辺境で修行していた魔術師たちも十名ほどだが加わってくれた。


 そしてクブルからの資金援助が得られた事で、大規模に傭兵を雇う事もできるようになった。とはいえ彼らの頭数ばかり揃えても統制が利かなくなってカ・ナン国内で暴れられては叶わないので、量よりも質を優先して吟味する事に。


 その結果選定されたのは、この地域の西の果て、海峡を隔てた島国で勇名を馳せている長弓兵たちを雇う事だった。


 ゴ・ズマとの戦いは主にカ・ナン国内での防衛戦になるので、射撃力の強化が最優先されたからだ。その上彼らは見合う給与が出るなら略奪に走らないという品の良さでも知られていたので、雇うなら彼らとなるのも当然だった。


 現在交渉中だが、通常の傭兵の三倍近い給与と、装備の供給を条件に話が進められている。


 装備については以前述べたように、徴兵たちへの制服の支給と、長槍、手斧、短剣、軍用スコップの全員への支給が完了。さらにマスケット銃を全員に支給するのを目指して、全力で製造が行われていた。

 

 さらに小銃にはさらなる改良が施されていた。ソウタが日本から調達してきた発電機によって、工作機械を安定的に動かせるようになったので、機械を用いて短時間でライフリングを刻みこむ事が可能になったのだ。


「今のカ・ナンで確実に行える銃の劇的な改良は、ライフル化なんだ」


 マスケット銃と丸い弾丸は、実のところ有効射程は長弓と同程度かそれ以下で、連射性は遥かに長弓に劣っている上に、発射の際の煙で視界を不良にしてしまう欠点もあった。


 長弓を確実に上回る利点は、弓に比べれば銃は習熟に必要な期間がはるかに短いので、兵と銃の数が揃えば短期間で戦力にできる事だ。


 無論、これは十分な利点だが、マスケット銃を装備しただけで、数に勝る敵を圧倒できるわけではない。一人を倒しても背後の兵の盾になるので、次から次に押し寄せられれば、いずれ押し切られてしまうのだ。


 ならばどう対処すればよいのか?


 接近される前に圧倒すればよいのだから、銃の有効射程を延ばして、少しでも遠くから敵を倒し続ければ良いのだ。そしてその為の技術はすでに確立しており、かつこの世界の技術でも可能なものだ。


 ソウタは製造されたマスケット銃にライフリングを刻み込ませてライフル銃化させていた。


 マスケット銃の底を塞ぐのはネジを用いるわけだが、銃身を削る技術があるなら、底だけでなく筒全体にライフリングを刻むのも時間は掛かるが可能である。


 そこに日本から工作機械を導入したので、短時間で加工が可能になったので、製造した小銃全てをライフル化する目処が立ったのだ。


 合わせて、弾丸も鉛の丸い弾丸を溶かし直して、椎の実型のミニエー弾に作り直させていた。


 ライフル銃とミニエー弾の組み合わせは、マスケット銃と丸い弾丸の組み合わせの3~6倍の有効射程を持つ事になる上に、命中精度も3倍以上に達する。


 ライフル化する事で、長弓を圧倒する長距離から相手の殺傷が可能になり、距離が取れる分、相手が接近する前に、大きく戦力を削ぐ事が可能になる。


 どれだけ増強できたとしても、ゴ・ズマはカ・ナンの10倍以上に達する事を考えると、ライフル銃の配備は撃退への絶対条件と言えた。


 全ての銃をライフル化するには当然時間が必要だが、電動の工作機械が導入できてからは、完成したマスケット銃は順次ライフル銃に改造されていた。


 さらにソウタは参考資料として、日本で入手したので発砲不能の処理がされていた村田銃や三八式歩兵銃などの後装式ライフル銃や、リボルバー式拳銃の実銃、そしてその他の銃の実包も持ち込んでいた。


「大量生産までは望まないけど、速射できて敵将を長距離から狙撃できる銃が欲しい。これを参考にして何とか作れないかな。あと拳銃もあると助かる」


 ソウタは後装式の銃が製造できないか模索していたのだ。


「今までの銃より仕組みは複雑ですが、作れない事はありません」


 工匠は後装式ライフル銃については、銃そのものの製造は可能だと断言した。


「ただしお察しの通り、この特殊な火薬は我々では作れません」


 後装式の銃は、小銃や拳銃を問わず、弾丸と火薬を一体に収めた薬莢を使うのが前提である。


 そのためには火縄や火打石などで外から着火するのでなく、叩いた衝撃で発火させる火薬の一種、銃用雷管が必要になる。そしてそれを製造するためには化学の知識と相応の設備が必要になるのだ。


 雷管の製造のためにカ・ナンや周辺国から訪れていた錬金術師を集めて、雷管の製造に着手していた。


 ソウタは化学の専門家ではないので、錬金術師たちに製法を伝え、必要な実験機材を日本から持ち込んで開発を進めさせていたが、実験室での製造には成功していたが、大量生産には程遠い状況だった。


「要人用や狙撃銃用には日本で売っているモデルガン用のキャップ火薬を流用すればいいけど、全体に配布するだけの量を確保するのは無理みたいだな……」


 大量生産が可能であればライフル銃を火縄や火打石式から雷管式に改造し、天候に左右されずに使用可能にしたいところだったが、この分ではゴ・ズマの侵攻に間に合わないと判断し、研究と蓄積を行う事にした。


 しかし大軍を少数で相手するなら連射可能な機関銃はどうしても必要だった。


 そこで、魔術師の力を借りて火薬を使わずに弾丸を連続発射できる機関銃の開発も進めていた。


 魔術師は一撃で大規模な爆発を起こす魔法は多大に魔力を消耗してしまうので多用できないというが、空気を圧縮して爆竹程度の威力を出すのであれば、あまり消耗せずに連続使用が可能だという。


 そこで魔術と簡単な機械を組み合わせて作ったのが、空気式機関銃だった。


 この銃は日本から持ち込んだパチンコ玉を0.5秒に1発ほどの発射速度で撃ち出すもの。それでありながら機構は極めて単純な上に、黒色火薬を使用した際に発生する煙やチリが発生しないので都度チリを掻き出す必要がなく、銃身が殆ど加熱しないので、魔術師の魔力とパチンコ玉が続く限り連射が可能。


 有効射程はライフル銃には多少及ばないが、敵の部隊を文字通りに薙ぎ払う事が可能なので、防衛の要所に設置されることになった。

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