雨の夜の訪問者
第2話
『助けて!!』
耳を劈くその叫びに驚いて、青年は思わず目を覚ます。青年はソファでもたれ掛かってうたた寝していたところだった。
スーパーマーケットのタイムセール30%オフの弁当を夕食にして、食後にテレビのニュース番組をBGM代わりにスマホで動画サイトを見ていたのだが、そのまま寝落ちしていたのだ。
「しかし何でまたアイツの……」
その声の主は彼には聞き覚えのある女性のものだった。それも助けを求める切迫した声で。
突然、自宅の固定電話の電子音がけたたましく鳴り出した。先ほどの夢の声、そしてこんな時間に滅多に鳴らない固定電話が鳴るなんて何事かと、青年は慌てて電話を取る。
「もしもし?!」
「……くん!その声、そうだよね!?よかった!いま家にいるんだ!!」
聞こえてきたのは、先ほど彼を夢から目覚めさせてくれた幼馴染の声だった。それも二年ぶりの連絡。だが、様子が明らかにおかしい。
「どうしたんだ!何があったんだ?!」
電話の向こうから雨音が聞こえているので、屋外から掛けているのは間違いない。
「お願い!助けて!!」
「助けてって……。今雨降ってるだろ!場所はどこだ?!すぐ迎えに行く!」
場所を聞き出したところで電話が途切れた。
話によれば幼馴染が電話を掛けてきたのは、自宅から数キロ離れた大きな公園。着信表示を見るに、今日数少ない電話ボックスから掛けてきたようだった。電話が途中で切れてしまったのは、小銭が切れてしまったからだろう。
「あいつ、携帯はどうしたんだよ……」
迎えに行くため玄関の傘立てから傘を2本掴んで外に出る。外は雨が叩きつけるように降りしきっている。春も半ばとはいえ、長時間雨に打たれ続けていれば、身体が芯まで冷え切ってしまうだろう。
車庫に停めている軽自動車に乗りこむと、場所を告げられた公園まで走らせる。夜間で降雨中の運転はできれば避けたいが、致し方ないので慌てず急いで慎重に車を走らせる。
公園は駐車場もあるほど大きい。だが夜なので他に車は皆無だ。
駐車場に車を停めると、傘を持って電話ボックスの設置場所に急いで向かう。
たどり着いてみれば、明かりが点灯している電話ボックスの中で、幼馴染の女友達が立ち尽くしていた。ほどなく向こうもこちらに気付いて電話ボックスから飛び出してきた。
「おい!大丈夫なのか?!」
「ソウタくん!本当に……来てくれたんだ!」
「O.K.わかったわかった。大丈夫なんだな?とりあえず、これ」
ソウタと呼ばれた青年は、嬉し泣きしている幼馴染に、落ち着いた様子で片手に持っていた予備の傘を差し出す。
「あ、ありがとう!」
「早く車に乗るんだ。このまま濡れてたら風邪引くぞ!」
「う、うん!」
傘を差した青年と女騎士は、足早に車に向かっていった。
車に到着するとの後部座席の戸を開け乗るように誘導する。だが、彼女は車に乗るのにも手間取って、あたふたしていた。
「落ち着けヒトミ!まずその……“兜”を脱ぐんだ。“鎧”はともかく」
「ふぁ、ふぁい!」
ヒトミと呼ばれた女性が身にまとっていたのは、胸・肩から太ももまでを封筒ほどの大きさの板金を何枚も組み合わせて覆う、古代ローマと中世欧州を足して適当な比率で割ったようなデザインの金属製の鎧だった。
兜は古代ローマの軍団長が被っていたというインペリアル型に近いデザインで、頬当てなどに見事な細工が施されており、頭頂部にはべっ甲のような材料で作られた花々を模したものが飾られていた。
その兜を何とか脱ぐと、ソウタが見慣れた栗色の髪が露になる。最後に会った時は肩まで伸ばしていたのだが、今は兜を被る為か、ショートになっていた。
「うん。ショートも似合ってるな」
「こ、こんな時におだてなくても……」
思わぬタイミングで褒められて、照れを隠せないヒトミ。
「よし、大丈夫だな」
彼女が乗ったのを確認すると、ソウタは車を走らせた。
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