第112話 魔王と勇者は、日本で初の販売をしたかも?(14)
だから儂は、隣の御主人に「ええ……」と、答えた。
「まあ、初めてなら仕方がないの。分からない事も沢山あってイライラする事もあるとは思うが。売り場に立てば、お客さん相手に不機嫌な顔をするのはよくないの~。特に上島の母ちゃんは、べっぴんさんなんじゃから。二人揃って笑みを浮かべているだけでいい~。何も解らんでも~。母ちゃん達二人が笑顔だけ振り撒いていたら。それだけでお客さんが酔ってくるけぇ~」
と、苛立つ顔を前面に出して、魔法弾を解き放つ寸前だった儂に、隣の御主人が諫めの言葉を告げてきたのだ。
儂とエヴァの二人に、いつも殿の横で笑みを浮かべて立つだけでいいのだと。
でッ、解らぬ事があれば、笑って誤魔化すだけでいいと。
それが女の愛嬌だとも言いたい素振りであった。
それと隣の御主人は人の年齢で九十歳を過ぎた御長命の老人なのに未だ元気に商いができる精霊並みの人物なのだと、我が家の殿が申していたぐらいだから。
もしかすると? 儂とエヴァの正体の方も分かっているのかも知れぬと、儂は思ったのだが。
まあ、これは余談になるのだが。我が家の殿に、「隣の御主人は、自宅に帰られても、あんなに元気が良いのか?」と、訊ねたら。
「えっ? ああ~、ちくわのオジサンは、家に帰ったら、ほとんど動かずに寝ているらしいよ? 俺が以前訊ねた時に。そう言っていたと思うよ?」と。
我が家の殿は少しばかり悩んだ顔をしながら儂に教えてくれた。
まあ、少し話しが飛んだので、元に戻すが。
隣の御主人から、いつも笑顔でいるようにと注意を受けた儂とエヴァの二人は、その後……。
まあ、特にエヴァなのだが。勇者の上、いつも戦場の陣頭指揮を執る時でさえ、ムスっと、自身の口『への字』にしていた筈のエヴァ……。
儂は敵方で、アヤツの様子を多々見てきたのだが。
奴があんなにもお客様に対して笑みを浮かべ愛想笑いができるとは、儂自身も思いもしなかったから、本当に驚愕をしているのだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます