第92話 五味の市で魔王と勇者さま、販売するかも? (11)

「へぇ~、そうなのですか~? 旦那さま?」


 相変わらず可愛いアニメ声で、エヴァは俺に言葉を返してくれる。


 まさにエルフ萌えの如く。


 だから俺は「うん、そうだよ。エヴァ~。とにかく、興味が湧いたお菓子や珍味、ドライフルーツなどは直ぐに試食をしていいから。好きなだけお食べ、エヴァ~」と、俺は優しい声色で、エルフな奥さまへと告げた。


「えぇ~、でも? そんなことをしたら旦那さま~。試食……。いや、我が家の商品自体が全部なくなってしまうのでは~?」


「うん、そうじゃ~。エヴァの申している通りじゃ~。殿~。そんなことをしたら我が家の販売する商品は少なからずなくなってしまうではないか~? 特にこんな珍しいお菓子は、こちらの世界でも大変に高価な物ではないのか?」


「ええ、レヴィアタンの申す通りです、旦那さま~。先程の黒いお菓子も大変に高価な物ではないのですか? 旦那さまがエヴァの手のひらに、次から次へと乗せてきたので。エヴァは沢山食べてしまいましたが。本当に食べてよかったのですか? 旦那さま~?」


 俺に試食を好きなだけしても良い告げられたエヴァなのだが。そんなことをすれば我が家の今日の売り上げや利益──。


 今後の我が家の貯蓄にも影響がでるのでは? と告げてきた。


 するとエヴァの言葉に続くように、こんどはレヴィアも本当に大丈夫なのか? と、不安を隠しきれない声色で訊ねてきた。


 だから俺は、二人の奥さまに。


「大丈夫だよ。二人とも。心配しないで……。二人が試食をしたぐらいでは、我が家の商品は減ることもない……。それに家は、お客さまに試食をしてもらって、気に入ってもらったら商品を購入してもらう販売法だから。いくら試食を出してもいいよ。なくなれば次から次へと袋を開けていくからね。心配しなくてもいい。それと二人も、ここに並べてある全商品の試食をして味を覚える方がいい……。でないと? お客さまに、『これはどんな味なの?』と、訊ねられた時に、直ぐに回答ができないだろうから。暇な時とか? 口が寂しい時などは? できるだけ商品の試食をして、味を覚える方が俺はいいと思う」


 まあ、俺はこんな感じで優しく、奥さま二人へと、気にしないで試食をするようにと説明をしたのだ。


「はい~、上島さんと奥さん達、飲み物の差し入れ~」


 俺が試食の件で奥さま達二人に説明をしている最中──。丁度タイミングよく赤穂のお兄さんが、俺達家族の売り場へときたのだよ。


 それもさ、いつもというか?


 毎週なのだが、いつも五味の市の開店前の朝に、熱い缶コーヒーの差し入れを持ってきてくれる。


 だから本当に悪くてね。俺は自身の頭を軽く下げながら。


「いつも、いつも、すいません」


 と、お礼を告げる。


 でッ、その後は、奥さま達二人に、「はい~! 熱い缶コーヒー! 赤穂のお兄さんからの差し入れ~」と告げながら。俺の手に持たれた缶コーヒーを二人に手渡ししたのだ。


「あっ? あれ?」


「あ、温かい……」


 赤穂のお兄さんからの差し入れである、缶コーヒーを二人の妻に、俺が手渡すと直ぐにこんな驚嘆を漏らし。俺の方へと二人は視線を変えてきたのだよ。


 多分、俺の奥さま達二人は、魔法も使用していないのに、缶コーヒーが温かいので、驚愕したのだろうと思われる。


 だからこれって大丈夫なのか? と、俺に訊ねたかったのだろうと思うのだが。


 赤穂のお兄さんがわざわざ、俺達家族の為にとジュースの自動販売機で購入をしてくれた物だから。大変に失礼になる言葉を俺に訊ねるわけにもいかないから。


 奥さま達二人は揃って俺の顔を凝視してきたのだろうと思われる?


 だから俺は二人に渾身の笑みを浮かべながら。


「熱い缶コーヒーを頂いた赤穂のお兄さんにお礼を……」


 とだけ、言葉を漏らした。


 すると俺の奥さま達二人は、赤穂のお兄さんへとお礼の言葉を告げる。こんな感じでね。


「あ、ありがとうございます……」


「本当にすいません……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る