第27話 俺と魔王さんと勇者さん (12)

 上村レヴィアタンさんは、こんな突拍子もないことを俺と勇者さんに告げてくる。


「うそぉおおおっ! 本当に──⁉」


 だから俺達二人は仲良く驚愕──。


 そして声も揃えて大にして叫ぶ──。


 傍から見れば本当に仲のよい二人に見えると思うぐらい。


 でッ、その後二人は……。


 と、いうよりも勇者さんなのだが。彼女は慌てふためきながら。


「ま、魔王……。私達二人は自分達の住んでいた世界に帰れるのですよね?」


 と、上村レヴィアタンさんに訊ねたのだよ。


「ん? まあ、帰れないことはないとは思うのだが? 今の今は無理だ。魔力も足りないし。先程殿に車で跳ね飛ばされた時に頭を強く打ったようだから。儂は異世界ゲートを開く呪文を忘れてしまったよ。だから儂の記憶が戻る迄待っていてくれ勇者……」


 でもね、上村レヴィアタンさんは、勇者さんの質問に対して、俺に車で轢かれた時に頭を強く打ったみたいで、異世界ゲートを開く呪文を忘れたと言っているのだ。


「えぇえええっ! うそぉおおおっ!」


「嘘ではない。本当だ」


「じゃ、私達二人は永遠に、この世界で暮らさないといけない訳ですか」


「まあ、そういう事になるかの~?」


 上村レヴィアタンさんの説明を聞いた勇者さんは落胆──。


 その場にへたり込んでしまったのだよ。その姿がね、俺が傍から見ても痛々しいというか。本当に可哀想だと思う。


 思うから俺は彼女を抱き締め慰め。『俺がいるから大丈夫だよ』と、告げたいのだが。俺には彼女を労ってよい立場の者ではない。


 ましてや若い彼女──。自身の住んで居た世界には、許嫁、彼氏。彼女のとって大事な男性ひとがいるかも知れないのでお節介できない。


 と、いうことはないか。先程俺は勇者さんにも慰謝料を払うと告げたのだから。上村レヴィアタンさんが異世界ゲートを開く呪文を思い出すまで、俺が彼女のことを養い。外敵から守ればいいだけだから。


 俺は脳裏でこんなことを思案し決意を決めると。


「大丈夫ですよ。勇者さん。上村レヴィアタンさんが異世界ゲートを開く呪文を思い出すまで、俺が貴女を養い。外敵から守りますから心配しないで……」


 俺は、気落ち落胆して、その場にへたり込むエルフの少女に手を差し伸べながら、自分なりの男らしい台詞を彼女に告げた。


「わ、私、エルフなのですが。それでもよろしいのですか? 旦那さま?」


 哀愁を帯びた様子でへたり込んでいた勇者さんなのだが。彼女へと手を差し伸べる俺の話しを聞いて、恐る恐るではあるのだが。自分はエルフなのに、それでもよろしいのですか? と、再度俺に訊ねてきた。


「ええ、大丈夫ですよ。エルフの貴女に魅入られ見惚れていた俺だから心配しないで。君のことは俺が必ず守るから」


 だから俺も、先程勇者さんに告げた台詞と良く似てはいるが。俺自身の決意を再度告げて彼女を安堵させた。


 するとエルフの少女は、俺が差し伸べている手を掴んできた。


 それも力強く。


 そしてへたり込んでいる自身の身体を起こして立ち上がる。


 立ち上がるとそのまま俺の胸に、何故だかわからぬが、飛び込んできた。


「旦那さま~」と、声を漏らしながら。


 それも彼女は笑みを浮かべ安堵した表情でね。


 だから俺は、美しいエルフの少女の大胆な行動に慌てふためいた。



 ◇◇◇◇◇

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