第24話 追え!!……な猫(後編)
王都へと続く街道を行く道すがら、村や街でちょっと聞けばすぐに怪しい馬車の隊列が通り過ぎた話しは聞けるが、なかなか追いつけそうで追いつけない。
この辺りには、いわゆる裏街道の類いもなく、王都へ行くならこの道を通るしかない。
交代で休みながら六人は馬車を走らせ、私はトレーサーの反応を追い続けた。何もする事のない細目だが、無駄に御者台に立って格好だけは付けていた……いいから、寝ろ!!
「よし、引っかかった!!」
追跡を開始して三日後、私が最大範囲で広げていた探査魔法にトレーサーの反応があった。一キロ圏内って……もう王都じゃないの!?
気が付けば、もうかなり近くに王城とその城下街を囲む高い壁が見えていた。
「ギリギリだな。王都の審査はいつも行列だ。問題ない」
長剣兄ぃがつぶやいたのもつかの間、反応は止まることなく王都に吸い込まれていった。最悪な事に、一団は分裂を始め、トレーサーの反応が凄まじい勢いで増えていった
「王都に入っちゃったわよ。しかも、連中は細かく分離して市内を移動中の模様!!」
「……しまった、優先通行パスか。軍に手引きする者がいれば可能だ!!」
長剣兄ぃが焦りの声を上げた。
「急ぐぞ!!」
馬車の速度を上げ、長剣兄ぃは審査待ちの行列の脇を駆け抜け、最優先審査門へと突撃していった、
すぐに前方の役人から制止の合図が出るが、長剣兄ぃはさらに馬車を加速させた。
役人が横っ飛びに避けて、非常を知らせる笛を鳴らす中、私たちは王都内へと姿をくらましたのだった。
「さて、どうしたものかしら……」
ここからトレーサに反応があるだけでも、二二カ所に爆薬がある。王都の広さを考えたら目も当てられない。連中は、王都をこの世から消滅させる気だろうか?
「千九百七十年祭で国王が国民の前に登場するのは明日の一回だけだ。まずは、王都内の爆薬を回収するしかないだろう。俺のツテで、全警備隊にも参加させよう。トレーサーが検知出来なくても、怪しい場世を虱潰しに探す。目立つが仕方ない。どのみち本丸は王城の爆弾だ」
長剣兄ぃの言葉に、異を唱える者はいなかった。こうして、長い一日は始まりを告げたのだった。
警備隊員が総出で捜索する中、私は杖姐に抱きかかえれて王都上空を旋回飛行していた。
王城に巨大な反応があるが、今はそれを無視して王都内の細かい反応を拾っていく。上空からの支援と同時に、自らも可能な限り解除していく。起爆装置自体は、素人の私ですら簡単に解除できるほどチャチなものだったが数が多い。なに考えているんだ、全く……。
昼過ぎから始めた作業は世を越え、明け方を少し越えた辺りで全て完了した。
全部で一四四カ所。やってくれたものだ。一個でも爆発していたら、王都の半分は吹き飛んでいただろう。やれやれ……。
「これで、あとは王城の爆薬だけね。急ぎましょう!!」
言った瞬間だった。強烈な目眩に襲われ倒れそうになった所を、細目が支えてくれた。
こんな時に……魔力切れ。
「少し休もう。これでは、満足に働けない」
杖姐がさらっと言い、結局私たちは小休止を取る事になったのだった。
「ごめん。まさか、寝ちゃうとは……」
痛恨のミス。やってしまった!!
ここにくるまでにもずっと『探索』の魔法を使い続けた事もあって、極限まで魔力を使っていた私は……泥のように寝てじまったのだ。
誰か起こせよもう!! 昼近くまで寝かせてどうするんだよぅ!!
というわけで、身を寄せていた小屋から王城まで猛ダッシュしていた。どの宿も祭りで満室だったのである。間が悪いことこの上なかった。
「間もなく国王のお目見えだ。急がないとまずい!!」
長剣兄ぃが叫ぶが、すでに全力疾走だ。
私たちが王城になだれ込んだ時、すでに国王様とチョビ髭ことポルン大佐が壇上で対峙していた。壇の背後には、国の紋章を象った巨大なモニュメントがある。
「なんだね、君は?」
「いえいえ、国王様。名乗るほどの者ではありません……死にゆく者には」
モニュメントの一部かカシャっと開き、「00:00:10」というタイマーが表示現れた。同時に、ポルン大佐が結界の幕に包まれた。
……あっ、そうきたか!!
要するに、あのモニュメントが丸ごと爆弾なのだ。念のためトレーサーを追ってみたが、間違いない。あれだ。
「狸、アレ!!」
細目に言われるまでもない、私は素早く呪文を唱えた。
「止まれぇ!!」
タイマーの表示が0になったが、爆発は起きなかった。
しかし、この広間はかなり広い。そこに詰まった人間が事情を察したようで、半ばパニックで逃げ出し始めていた。これでは……。
「お任せ下さい」
普段は喋らないエルフ兄が、弓に矢をつがえて涼しい声で言った。
そして、山なりの軌道を描いて放たれた矢は、見事にタイマーをぶち抜き、派手に火花を散らした。
こんな事をしたら、普通なら爆発しているが、今なら爆発しない。なかなか荒っぽい手段である。
「ええーっ!?」
驚きの声と共にポルン大佐が結界を解いた瞬間、国王の衛兵が寄ってたかってボコボコにして捕らえた。
かくて、一つの事件はようやく終結をみたのだった。
一応、事件解決の立役者ではあったが、脅されていたとはいえ、爆薬を作ったのは私だ。
なんとなく居住まいが悪く、私は細目を連れて「街」まで徒歩で帰る事にした。
最初の宿場町で適当に宿を取り(無論、別部屋)、近くの定食屋で細目とご飯を食べていた。
「しかし、なんか今回は無駄に疲れたというか、ホントお疲れさんだねぇ」
すっかり、いつもののんびりした様子に戻った細目が、焼き魚を適当に突いている。
こうしてみると、どこにでもいる平凡な猫のくせに、いざとなると頼りになるから困る。
今まで記していない事件を含めて考えても、コイツがいなかったら私はとっくに死んでいるし……どうすっかな。私もいい歳だし言ってみるか。
「ねぇ、細目。真面目に聞いて欲しいんだけど……」
「なんだい、急に改まって?」
ベリベリと魚の中骨を剥がしながら、幸せそうな表情をする細目。お前はメシか!!
「……一番目が誰だか知らないけど、二番目でいいよ。真面目に付き合わない?」
告白は女の子から。これは、猫の常識である。
よし、言っちまった。あとは知らね!!
「……マジ?」
細目が滅多になく目を見開いて聞いた。
「嫌なら忘れてちょうだい。さて、メシメシ!!」
私は、目の前の焼き魚に取りかかったのだった。
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