第19話 仕事上がりの一服的な猫

 薬師は、薬なくりゃただの猫……。

 悲しいが、それが実態だった。

 嬉しかったのは、魔除けの香油がなくても、魔物との戦闘を避ける方法を考案してくれたこと。それは……。

「ほぅ、これはいいわい。乗り心地も悪くない」

 はしゃぐ医師をぶん殴ってやりたいが、今は魔法の制御中である。

 そう、私たちは例のボールの中に乗って移動中だ。このボール自体に推進力はないのだが、杖姐が魔法で加速させてくれているため、結構な速度でボヨンボヨンしているが、今のところ問題はない。

「この調子で行けるところまで行く。気合い入れろ」

「あいよ!!」

 杖姐と私のコンビネーションはバッチリだった。

「前方に村。回避!!」

「うむ、間に合わん」

 グシャバリバリバリ……!!

 ……コホン。バッチリのコンビネーションにより街道を進む私たちは、一気に「街」までの距離を半分まで詰めた。頑張れば頑張れたが、これ以上無理をしても意味がないと、野営になったのだ。

「魔物避けの香油ないから気を付けてね!!」

 私は地面に座って声を掛けた。さすがに、魔力消費が激しい。

「おう、疲れたな」

 杖姐が隣に座って声を掛けてきた。

「今日は哨戒任務から外してもらおう。明日もあるしな」

 言うが早く杖姐は何と私をそっと抱き上げた。

「えっ?」

 そして、そのままテントの一つに潜り込むと……杖姐は速攻寝た。

 お前も寝ろという意思表示だったのか、単に一人で寝るのが寂しかったのか、理由は分からないが巻き添えを食らった以上、私も無理に起きている理由はない。

「……サービスしますか」

 果たして、それがサービスかどうか知らんが、私は杖姐のお腹にそっと背中を押し付け、そのままそっと目を閉じた。

 まあ、たまにはこういうノリもいいものである。


「ふう、帰ってきたか」

 懐かしさすら覚える「街」の門を見た時、私は思い切り深くため息をついてしまった。

「フフ、お疲れさまでした。カレン」

 セリカが労ってくれた、本当に疲れた。

「術解除。停止!!」

 ボールと結界をタイミングよく消して地面に「軟着陸」すると、陽気な衛兵が声を掛けてきた。

「よう、アレでご帰還とはまた派手だな」

「ああ、火を噴いてたぜ。狸の凱旋だな」

 うるさい!!

 私は無視を決め込み、六人の騎士団に向きなおった。

「まっ、楽しかったわよ。また、なにかあったら寄ってちょうだい」

 ガイアの塔の調査探査は終わった。罠の位置や正しい転送陣が分かった程度ではあるが、今後の追調査の際に貴重な情報となるはずだ。

「それにしても、まさか……えっと名前は言えないとカレンがくっついて寝るなんて。絶対他人を寄せ付けないのに……」

 セリカが小さく笑った。瞬間、杖姐の顔が青くなった。

「見たのか!?」

「はい。普段は結界まで張って避けるのに、昨日は結界を張っていなかったので……」

「迂闊。かくなる上は、抹消するのみ……」

 杖姐は杖をセリカに向けた。わー!!

「ちょ、待ったぁ!!」

 ここにきて殺人事件は困る!!

「ドラグ・ハーフ。実は、知っていました」

 セリカの言に、杖姐はさらに顔を青くしてその場に崩れ落ちてしまった。

 な、なんだとぉ!?

 一回体を診ておきながら、気が付かないとは私は薬師失格である。

 ドラグ・ハーフとは、なんとあのドラゴンと他種族の混血という希少な種族で、なんていうかとても奇異な目で見られる上に怖がられる。以上。

 強力な魔力の源泉はそれか……・。

「あっ、うっかり流していたけど、医者にも診せなかったのに、ストラトスにだけは普通に診せていたよね」

「ええええええ!?」

 セリカは声を上げた。他の面子のも驚きの表情と視線を私に向けている。いや、そういわれてもな……。

「……私にも分からん。なぜか、その猫に対してだけは警戒心が起きない。さっと触られるくらいなら誰でも平気なんだがな……」

 杖姐は立ち上がると、私を一直線に見た」

「あ、あはは、猫だからじゃないの?」

「いや、隣の猫はダメだ」

 杖姐が言った瞬間、医師はショックで倒れた。あーあ……。

「……全く不思議なヤツだ。寂しくなったら、また来よう」

 どうやら好かれたらしい。嫌われるよりはいい。

「いつでもどうぞ。さてと、後片付けしないとね。薬草とか馬車も調達しないとだし」

 さて、これからが忙しい。早いところ、営業状態に戻さないといけない。

「ああ、忘れるところだった、これが後金だ」

 長剣兄ぃから渡された手形の金額は……私の予想より二桁多かったとだけ言っておく。

 しかし、全て揃え直しでほぼ全部飛ぶ。割に合わないとはこの事だ、

「やれやれ……」

 私は誰ともなくつぶやいたのだった。

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