第18話 死のアトラクション的猫
ガイアの塔 ??階層(数えるのやめた)
いけどもいけども同じような光景の中、私たちは辛抱強く歩みを進めていた。
「おっ、転送陣」
目の前の床には、緑色に光る転送陣があった。さて……。
「先生、どうします?」
私は罠姉さんに声を掛けた。
しばらく真剣な顔で考えている様子だったが、やがて結論が出たらしくうなずいた。
「……このフロアにはこれしかなかった。罠の可能性は低いし、なによりもうここ以外進む場所がない。行くしかないと思う」
「……危険な考えね。進むしかないっていうのが一番罠っぽい」
罠を作る側に立てば分かりやすい。相手を進むしかない状況に追い込んで、ポンと設置してやればいいあとは勝手に引っかかるだけだ。
「それは私も考えた。だけど、最終的にそういう結論。判断は任せるよ」
罠姉さんは小さく笑みを作って見せた。
私はそっと目を閉じた。今回はあくまでも調査探査。無理する事はない。手札は二枚。進むか戻るかだ。戻る方が分がいい掛けではあるが……。
「……私は罠については専門家に任せるって言った。その専門家が進むって言っているんだから、私はその意見を全面的に支持する。異存は?」
無論、仲良しごっこで言っているわけではない。いまだ承服はしていないとはいえ、このパーティーのリーダーという立場で話しをした。満場一致でなければ、即刻引き返すつもりであったが……反対意見は出なかった。
「本当にいいのね?」
一応、念押ししておくと、長剣兄ぃが口を開いた。
「俺たちは、あなたをリーダーと認めました。迷惑でしょうが、俺たちはそう見ています。そのあなたが考え抜いた上で行くと判断したなら進みます。なにがあっても、あなたを責めたりはしません」
私は一つうなずいた。
「分かった。じゃあ、行くわよ!!」
私は転送陣に向けてゆっくり馬車を進めた。いつもの陣形で進む私たちは、転送陣に乗り……一気に視界が暗転した。
ガイアの塔 ??
視界が開けた瞬間、いきなり吹っ飛ばされそうな猛烈な風に襲われた。そして、暗闇に馴れすぎた目にはキツい強烈な日の光。ここは……外だ。
ようやく明順応が終わった時、ここがなにかテラスのような場所である事が分かった。
私と医師は馬車から降りた。風で積んであった薬草類が全部飛んでしまい、さほど馬車は重要なものではなくなってしまったという事あるが、まずはここがどこなのか調べておく必用があった。
「みんな、陣形を維持して端まで移動して!!」
私は声を張り上げた。こうしないと、風で全く聞こえないのだ。
罠に注意しながら、ちょっとした広場はあろうかという広大なテラスの端にある策まで移動し……卒倒しそうになった。
はるか眼下に見えるのは雲、その合間からチラチラ見えるのは……地上だった。何メートルっすか。ここ?
そう、私たちはガイアの塔最上階の最上階。屋上に転送されたのだ。
「全く、猫は高い所に登るのが好きだけど、これはヘヴィね」
……そして、降りるのが下手なのだ。致命的に。
「取りあえず、杖姐~!!」
「なんだ!!」
「結界でもなんでも、風をしのげるやつ。これじゃ、体力が持たないわよ!!」
「分かった!!」
数秒後、ドーム状の結界が私たちを覆った。
「はぁ、死ぬかと……」
肩で息をする私だったが、皆も似たようなものだった。
「……私のせいだ。これ、どう考えても罠……ぎゃあ!!」
「バカモーン!!」
私は反射的に罠姉さんの顔面を引っ掻いていた。唖然とする皆。あわわ、やっちまった。
「コホン……。まだ、罠と決まったわけじゃないでしょ。仮にそうだったとしても、グチグチ言ってても始まらない。分かった? わからないなら、今度は横向きに引っ掻く!!」
「りょ、了解であります!!」
右頬からダラダラ血を流しながら、罠姉さんはバシッと敬礼してみせた。
ちなみに、猫爪は突き刺さって引き裂くように切れるので、痕がなかなか消えません。女の子の顔面にやっちまったよ。あはは……。
「ワイルドなカレンもいいですね」
ああもう、あんたは黙ってろセリカ!!
「やれやれ、なんも考えんと……治療するから、こっちに来なさい」
医師が罠姉さんの治療をしている間に、私は次の方策を考える。さて、どうしたものか……。
「とりあえず、小休止にしたらどうだろう。疲れた頭ではなにも考えられん」
長剣兄ぃの提案を受け、私たちは休憩となったのだった。
「さて、いよいよ詰まったわね……」
屋上の隅から隅まで見て回ったが、帰るための仕掛けは一切見つからなかった。
「モノは考えようね。ガイアの塔制覇よ。あとは帰るだけ。簡単なものよ」
私はあえてお気楽にそう言った。
「さてと、さすがに『飛行』」の魔法じゃ難しいわよね?」
杖姐が黙ってうなずいた。
「それじゃ、『転送』の魔法で一階層降りて……」
「ここには転送陣で来たから座標が特定できない。やってみてもいいが、どこに出るか分からない」
……最悪、空中に放り出されかねない。没。
だから言ったでしょ、猫は降りるのが下手だって。
いや、、まあ、一個だけあるにはあるんだけど、かなりの確率で死ぬ……。
「……ねぇ、みんな。私に命を預ける気はある?」
「お前、まさかアレを!?」
医師が声を上げた。分かってるよ、無謀な事は。
「なんだ、いい案でもあるのか?」
杖姐に聞かれ、私は半分だけうなずいた。
「はっきりって、九割くらいは死ぬアトラクションよ。やめた方がいいのは分かっているけど、他に思いつかない……」
……なんて作戦だ。全く。
「このままここにいたら、いずれ十割死ぬ。どうせ死んだ身なら、やってみてもいいんじゃないか?」
斧兄ぃがニコニコ笑顔で言う。エルフ兄さんはいつも通りなにも言わない。
「俺も構いません。そういう死地は何度も潜ってきました」
長剣兄ぃの言葉に、セリカと罠姉さんはうなずき、医師はため息をついた。
これで決まりか。
「よっしゃ、準備するから待って!!」
私はポケットからチョークを全部引っこ抜き、屋上全隊に巨大な魔法陣を描いた。
そして、その中央に立って全員を手招きで呼び寄せた。
「杖姐、全員を結界で包んでちょうだい!!」
「分かった!!」
虹色の膜が私たちを包む見込むのと同時に、私は呪文を唱えた。
すると巨大な透明の膜が結界を包んでいった。
「言っておくけど、完成したら即行くよ。この風じゃ、完成までブレーキを掛けるのでやっとだから」
巨大な膜は急速に広がり、やがて直径数十メートルはあろうかという、巨大なボールになった。そして、一気に屋上から地上に向かって転がり出す。私たちを包んだ結界ボールを中心にして。
「うぉぉぉぉ!!」
強烈な落下感のの中、私は巨大ボールをコントロールして、なんとか塔の壁面を這わせて減速をかけるが、それでも凄まじいスピードである。私たちを包んだ結界とボールの間には僅かに隙間を空けてあるので、一緒になって猛回転する事はない。
そう、これが私が唯一可能だった作戦だ。ボールの中に入って転がり落ちる。ただ、それだけだ。
遠かった地表が見る間に接近してきた。ダメだ、速すぎる。ボールは平気でも中身がもたない!!
「面白い。ブースト……逆噴射!!」
ボールの前面に魔法陣が現れ、もの凄い火柱が噴射された。ボールの速度は目に見えて減じたが、それでも……」
「ごふっ!!」
なかなかの衝撃が全身を駆け抜け、塔入り口の罠ゾーンにあった爆発系を根こそぎ起爆させてさらにボヨンボヨン跳ねまくったボールは、最終的には塔に入る前に張ったベースキャンプまで転がってきてしまった。
「ね、ねぇ、みんな生きてる?」
術を解除してボールが消え、結界も消えると……私の意識は綺麗にぶっ飛んだのだった。
目を覚ますと、私はセリカの膝の上で伸びていた。あら、お恥ずかしい。
「あっ、おきましたね。楽しかったですよ」
……楽しんでいただけてよかったです。
「他のみんなは?」
あれだけの衝撃だ。やはり心配になってしまったのだが……。
「ああ、みんな元気ですよ。あっちで魔法の研究していたり反省会してたり」
「お、お元気なことで……」
全く、どこまで頑丈なんだか……。
「さて、これで私の仕事はおわりね。経費が高く付いちゃったから赤字かもね」
馬車に積んでいた薬に薬草、馬車そのもの……営業再開までの日数もあったわね。頭が痛い。
「それは大丈夫だと思います。団長が掛け合っていますので。さて、ご飯行きましょう!!」
「よく入るわね。無理……」
今は寝かせろ。あとの話しは「街」に着いてからだ。
私は再びまどろみ始めたのだった。
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