第4話 「剣の名は」

「起きてくださーい、朝ですよー あののの!起きてくださーいお願いしますー」


何者かに揺すられる感覚でレイキは目を覚ます。

目の前には小さなお下げの金髪の女の子がいた。


「あっ!やっとおきたんですかー? 遅いですよレイキさん あののの!朝ですよ朝!」


最初のゆっくりめな優しい声から次第にテンションのあがった彼女はレイキを強く揺する。


「起きてる!起きてる!起きてるから ちょ、まって首痛い、あっ、いって!お、おれるおれる」


朝の無抵抗なレイキを子供の無邪気さで揺する女の子は「ハッ!」

と口に手を当てて自分の失態に気づき顔を赤くする。


「あっ!あののの!今のことはおねーちゃんには言わないでもらえますか? レイキさんおねぇちゃんに気に入られてる人だから…」


「言わねーよ別に、ん?まてよ おねぇーちゃんってことは君もしかしてルフレの妹か?」


「はい!そーです ルフレおねぇちゃんの妹のヒダリです。アーノルド・ヒダリと申します!」


ヒダリは腰に手を当てて決めポーズを決めると、チラチラこちらをみてくる 反応が気になるのか?


「ごめん ヒダリちゃん お兄ちゃんちょっと朝に弱いんだ。いい反応するのも一苦労なんだよ だからもう決めポーズ一旦やめよ」


レイキがそう指摘すると、またしてもヒダリは顔を赤らめ、顔を両手で覆いその指の隙間からこちらを見てくる。


「あっ!あののの すいませんでした!では!失礼したのです。以上ヒダリでした。」


ヒダリは難癖の謝りかたでそそくさと去っていく。全く、敬語や何やらがしっちゃかめっちゃかだ。


レイキはヒダリの出ていった布家の入り口をポカンと口を開け見つめ、しばらくしてからレイキはベッドから出る。

いつもと景色が違う朝にレイキは困惑するも、仕方なく靴を履いて

ボサボサになった髪型を整える。流石に異世界にも鏡やヘアブラシなどは存在し現在世界との共通点が割とある。


髪型を整え終えるとレイキは布家から出る。

そこには最早ギルスとルフレが待っていた。レイキはそれを見て軽くダッシュし 二人に駆け寄る。

二人の所に到着するとギルスはレイキの肩を叩き


「あんちゃん遅かったな!一番最後だぜ!ルフレさんより寝起きが悪いとか中々だぞ!」


と、言う。すかさずルフレが反論をかます。


「うっせーよ!ギルス アタシはもう朝には強くなったんだよ!れーやんが朝に弱すぎるだけだろ!」


何故にどいつもこいつもテンションが高いのだろう。

レイキは昔から朝に弱い。二度寝は当たり前で、そのせいでほぼ毎朝学校には遅刻しかけている。それくらいレイキにとって朝は強敵で強者である。

レイキは込み上げてきた欠伸を遠慮せずにして。眠さ全快をアピールした。しかし、二人は気にせず話を続ける。


「んで、今日は確かあんちゃんの武器を作るとか言ったな なんだっけ?カタナだったか?」


そう、レイキの得意武器は剣の部類でも刀である。

異世界でサムライは少し観点がずれてるが、それはこの際どうでもいい


「そう、それだ さっさといこーぜ!」


真剣が握れるとなるとレイキも黙ってはいられない。早くつくってもらいたいものだ。


「れーやん、そう、急ぐなって!アタシについきてよ!ほら!」


レイキとギルスはルフレに促され着いていく。


しばらくするとレイキ一同は鍛冶屋らしき店に着いた。


「バラリータ?いるか?アタシだルフレ!」


しばらく、シーンした鍛冶屋の店の中。

またしばらくして、静かな誰もいないような鍛冶屋の中の奥から一人の大男が出てくる。


「んだよ、こんな朝早くから、てっ お?ルフレか!久しぶりだな!ギルスも、、、、そっちの若い輩は誰だ?」


「俺はレイキだ よろしく」


「レイキ?聞かねー名だが、新入りか?ルフレ?」


その男はボサボサの頭を掻きながらルフレに問う。

ルフレは首をふって「違うよ」といい、男の方に指を指し、レイキの方を見て


「こいつはバラリータだ!中々の腕利きなのはアタシも認める鍛冶職人だよ!」


「なんかまぁ、色々 買い被られてるような気がするけど俺はバラリータだよろしく。」


「おぅ バラリータさん」


二人が握手を交わすとバラリータの後ろからドタドタドタと小さな男の子が駆け寄ってくる。


「なんだ?客か?って げぇねーちゃん」


「げぇ とは なんだ?ミーギ?アタシにイジメられたいのかな!?」


「うわっ こえーこえー まぁゆっくりしろよ」


「ねぇーちゃんに向かってその態度はなんだ?!」


ルフレは小さな男の子、ミーギ?を両手をグーで中指だけを少し突きだした拳でミーギのこめかみをグリグリする。


「いてぇ、痛い!ねーちゃん ごめんごめん冗談だって!」


まさに、昭和にありそうな姉弟像である。これだけを見るとサ○エさんのあの言わずと知れた兄妹のようである。性別が逆だが。

どうやらルフレ、ヒダリ、ミーギの3人兄弟ならしい。ならなぜルフレはマンナカーとかチュウオウーとかじゃないのかとレイキは疑問に思う。


「しかし、ヒダリとミーギってネーミングセンスエグいな親。」


レイキがボソッとそう呟くとそれを聞いたルフレが軽く睨みを効かし


「あっ、れーやんなんかいったか?」


と、レイキの発言を牽制してきた。レイキは何も言ってないと顔で主張し、首を左右に振った。

レイキは焦るように話を変える。


「そ、それよりバラリータさん 俺が欲しい武器つくってくれるか?」


「えぇー だってなぁー うーんまぁいいんじゃない」


まるで他人事みたいに突き放した口調で言うバラリータに対しレイキは少し不安になる。

(ホントーに大丈夫か?これ?)

込み上げる不安を押し隠すレイキをルフレが見て色々と察したのか


「心配すんな れーやん!やる気なさそーだけど、ちゃんとやるから」


と、説明を果たす。

その説明を受け取ったバラリータがやる気0%で 紙と万年筆っぽい物をテーブルの上にだし 「いいか?」と言い万年筆でコンコン紙を叩きながら


「俺は想像した通りに武器を造る職人でな、アンタのイメージ通りの物を作ってやるよ」


そう胸を張って言う。ならばと思いレイキは紙と万年筆を奪い自分のイメージを書いていく


自分の中で想像した憧れの名刀ムラマサっぽい刀を書き出す。

わりと絵心のある。レイキなのでそれっぽくイメージした刀を書き上げた。


「ったくいきなり奪うとか 借りますとか言えよって おぉ?割と絵上手いなアンタ」


バラリータがそういうとルフレとギルスとミーギが近寄って見てくる。


「これが あんちゃんが昨日言ってたカタナか。結構カッコいいな。」


「れーやん!こんなもの使うのか!?中々の奴だなやっぱ!アタシのお気に入りだけあるよ!」


「えぇ?!レイキ ルフレねぇーちゃんのお気に入り!!?あーあ大変だな」


ミーギが一人だけ 別の話題へ行くのは一同無視し、絵を見たバラリータは顎を逆撫でする。


「みたことねぇ 剣だな 俺も初めてだよ、普通じゃ剣は両方切れるようになってんだがなぁ」


そーいってバラリータは初めて仕事にやる気を出した様な顔をして気合いを出す。


「んじゃ、これ忠実につくるからまっとけ、久し振りに骨がなるぜ、材料は俺がいいもん出してやるよなんか良い感じに作れそうだしな。」


そう言ってバラリータはさっそく道具を取りに行く。それにミーギもついていく工場にレイキとギルスとルフレが取り残される。


「後は任せるか 多分できるのは明日だろーし、れーやんには盗賊の基本を教えなきゃな!」


「お、おぅそうだなそれなら出るか?」


その言葉を皮切りに一同は鍛冶屋をでた。






新しい武器ができるまでの2日間、レイキにはあまりにも満足な2日を過ごした。

その大半は盗人の基本技術の習得の練習である。

練習内容としては財布、この世界で言う金貨入れのスリ その他様々な物を盗む練習ばかりだった盗みはあまり誇れるものではないが僅か1日で慣れてしまった。いかん、このままではもし現実世界に戻るとコンビニでやりかねない。

しかし、今は盗賊なのでレイキはやるしかなかった。まぁ実を言うと結構これが楽しいのだ。


それに、この2日間で唯一 気になったことが村の端にある井戸だ。

ギルスが言うには「精霊の井戸」らしく、そこから「神秘の水」が出るとか、、、少し胡散臭い様な気がするが落ちたものは帰ってこないらしい。更にそこからはただならぬ気配を帯びていた。


井戸の説明はそれまでとし、いよいよ2日後の受けとる日が訪れる。





「あぁ武器なら出来たぜほら!受けとれよ」


バラリータは刀を投げる。

それを受けとるとレイキは刀を見つめる。まさにレイキがイメージした通りの刀だった。

実を言うと細かい部分の注文はレイキはしていたのだ。

なるべく鉄に近い素材にしてもらい、柄の部分のデザイン、鞘もデザインと素材を、その他色々と細かく注文した。

注文した通り、レイキの刀は眩い輝きを放つ刃と漆黒だが存在感を放つ鞘など素晴らしい業物だった。


「よく、できてんな 俺のイメージに忠実に再現されてるよ」


「あたりめーだよ!後それから その剣には名前を着けた方がいい。きっとそいつも名前を欲しがってる」


バラリータには剣の気持ちでも分かるのか?と、レイキは思いつつ名前を考える。

レイキは妖刀ムラマサをイメージして作ってもらったのだが流石にムラマサだとパクりっぽくなってしまうならば何にしようか悩みに悩んだ結果、レイキが導き出した名前は


「サキガケ、こいつの名前はサキガケにするよ」


「え?咲きかけ?花か?」


「ちげーよ サキガケ だ!」


「あの秋にとれる美味しいキノコか?」


「それは松茸!ってか 松茸あんのか?この世界にも?!」


変な所でテンションがあがってしまった。レイキにバラリータは「まぁ落ち着けよ」といって、


「俺が作った武器には命がある。しっかり会話をして心を繋げよ」


そう、レイキに忠告した。レイキはそれを心にしかと受け止め 鍛冶屋を出た。


その晩 村では盗賊達の飲み会的なものが行われていたが、レイキは参加せず昼にバラリータに言われた通りサキガケとの会話を村の端で試みていた。しかし、全く繋がらない、会話ってどうやんさ?流石に異世界でもできないものもあるのか、と思ったレイキだが諦めず会話に挑戦しているとギルスがこちらにフラフラ寄ってくる。


「よぉーーーあんちゃん?こんなーーとこでなにしてんだ?」


そう問うギルスだが、いつもより様子が変だ、よく見ると頬が少し赤い。それに、足取りも千鳥足だ。


「おま!もしかしてベロッベロに酔っぱらってるだろ?」


「えぇ?別によってねぇーーーよ」


そうふらつきながら答えるギルスはサラリーマンが夜酔っぱらって家に帰ってくる感じだ。物凄くだらしない。


それは、別にいいのだがレイキは心に浮かんだ疑問を口にした。


「ギルス、、、、お前何歳だよ?」


「俺ぇか?俺は確か、、、、18だったかな?」


「おいおい、未成年じゃねぇかよ」


これなら納得がいく。未成年では酒に対応しきれるまい。そもそも未成年で酒を飲むのはいけない。 No more 未成年飲酒である。


「そんなちまちましたことはいいんだよ。あんちゃん明日戦いだろ?だからけいき付けでのめのめ!ほら、あっちだぜ、おらぁしばらく酔いざましする。」


ギルスはそう言い残すと妙な嗚咽感に見舞われたのかそそくさと草むらへ入っていくのだった。





ギルスの言う通りパーティー会場へ行くと、そこには10人程度の盗賊達とルフレとヒダリとミーギもいた。

ヒダリはレイキを発見するなり、こちらに近づいて


「あっ!おにーさん あののの!明日の戦い前に飲んではいかがですか?」


と、言う。流石にレイキら未成年なのであまり飲みたくない。


「えぇ?あのー俺は一応未成年だから。酒は飲めないよヒダリちゃん」


「えぇー!おにぃさんそんなこと言わないで飲んでってくださいますよ」


「ヒダリちゃん、、、、ちゃんと敬語のお勉強しよっか?」


「えぇぇ! ヒ、ヒダリは結構なのです!あののの!話そらさないで下さい!ほら、どーぞお酒でございました。」


ヒダリと話すとレイキは自分のペースに会話を持っていけない

まぁ子供なのだからしょうがないのだが。敬語のお勉強はマジでさせたいものなのだが、

ヒダリの純情な感情の籠る目にレイキは逆らうことが出来なかった。






「ひっく、おりゃー!酒持ってこいやこらぁ!」


「おいおい 若者 飲みすぎだろ」


気がついたらレイキはアホみたいに酒を飲んでいた。

さっきまでNo more 飲酒 といっていたのにも関わらず自分の考えたキャッチコピーを僅か一時間で破った。

レイキは先程のギルスのように寄っていて足元がふらつく


実を言うとパーティーはもう終わり みんなほぼ帰っていっていた。半ばレイキが酒をガブ飲みして暴れたせいかもしれない。

レイキは千鳥足でふらつきながら自分の布家を探し村を徘徊した。


すると村の外れの井戸の前に着いていた。


「あれ?ここって確か、、、、なーなんだっけ?」


ろれつがうまく回りづらく少し噛み砕いた言葉になりながら独り言を言うとレイキは千鳥足で井戸に近づく。


「なか除いたるわ えーどれどれー?」


レイキは身をのりだし 井戸のなかを見ようとする、、、、

次の瞬間レイキは後ろに何か気配を感じて振り向こうとするが、その前に井戸に突き落とされる。


「だれ、ふざけんなーーーーー!」


レイキの視界がコンマ何秒で闇に包まれる。そのまま勢いよく水の中に頭から入る。まずい、このままだと窒息死する。


レイキは必死の抵抗をするも全くして無意味と言わせられるかのように何もできずただ沈んでいく。


「クハァァ!ゴボボボ!」


(死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ)


レイキの頭の中にその言葉がリピートされる。

次の瞬間、レイキは意識を失った。


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