『雪』


 雪の音と香りがして、窓があるであろう方角を見上げた。

 聴覚が拾う、しんしんとした音。冷たく鼻腔に刺す水の香りと、山の緑を含んだ土の香りが混じり合う。

 それは新年を開けて一月も経ってから降った雪だった。

「嫌じゃねぇ…。積もるんやろうか…。」

 雪が積もってしまうと、雪掻きをしなければならない。戸が開かなければ、外に出ることもできない。

 身動きができなくなるのは、自分だけじゃない。来客も、来なくなってしまうだろう。

 いつも風に乗ってやってくる、金木犀の香りの殿方。温もりを内に閉じ込め朽ちた枯れ木の様なあの方は、明日は来ないかもしれない。

 そう思うと、とたんに切なくなってくる。胸の奥に刺さり、締め付ける冬の音。

「止まねぇかよぅ…?」

 戸を叩く風の音に、吹雪いてきたことを知る。手探りで戸に手をかけて、慌てて閉めた。

「火鉢の温度じゃぁ、…雪は解かせねぇのか…。」

 寒くて、寒くて、死んじまう。 

 あなたの腕がなけりゃぁ、死んでしまうよ。



(20150124)

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