『匂』


 枕に頭を埋めて、居心地のいい場所を探した。

 後頭部の収まりが少し悪くて、横向きになり頬を埋める。

 そうすると今度は香りが強くて、眉を顰めた。

 叶わぬ恋だと知りながら、一度だけ抱き締めて貰った。

 スーツ越しの力強い腕の固さと、甘い香りを覚えている。

 他の男性ではダメだった。

 あの腕の暖かさも硬さも何かが違う

 これを求めることは出来ないと解った

 でも 

    同じ香水なら

           もしかしたら  

 市販の香水を探し当てるまでは出来たものの、自分でつけても仕方がなく

          ベットに向けて一度振るい、シーツの縫目に染みついた頃を見計らって、寝転んだ。


 目を閉じて  隣にあの人が 寝ている感覚

 けれどあの甘さじゃない  体温に溶けた

 根を張る様な深い花の甘さは、これではなかった


 虚しくて泣いた


 この香りは、私を慰めてはくれない


(20150502)

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