第4話 同族との出会い
3話 同族との出会い
安い、早い、美味いが売りの"エルフの碧風亭"はハンターに人気の料理店である。
ハンターギルドから近いという点もあり、腹を空かせたハンター達は挙ってそこに集まる。
偶偶、その辺りを通りかかったという理由で、アリシアは「取り敢えず、腹が満たされればいい」と何となしに立ち寄った。
白いレンガ造りの外壁が何処かモダンな印象を受け、街のカラフルな建物の丁度中間にある為、太陽の光を存分に受けたそこは一際目立って見えた。
店の入口までは3、4段の段差があり、そこを登ると
「ようこそ、エルフの碧風亭へ」と書かれた看板が木のドアに打たれていた。
アリシアは徐にそのドアを開け、店の中へと入った。
「エルフの碧亭にいらっしゃいませニャ!魔族のお客様かニャ?
奥側の席が空いているから、そこに座るといいニャよ!」
独特な喋り方と陽気な笑顔でアリシアをもてなしたのは、頭の天辺に生えた猫耳が特徴の亜人のキャットシーの女の子だった。
この店の制服なのか、他の客とはかなり異なった服装をしていたので、アリシアはすぐに彼女がここの店員と分かり、彼女に進められまま左奥で空いていた丸いテーブル席に腰掛けた。
胴体が長いぶん、身体を伸ばすわけにもいかなかったので、机の下のスペースになんとか尻尾を押し込めた。
「お客様、注文はどうするかニャ?」
さっきの女の子がアリシアの隣にちょこちょこと寄ってくる。
そんな彼女と店内の雰囲気にアリシアは言い難い違和感を覚えながら、適当に「この店で一番量の多い料理をちょうだい」とだけ伝えた。
すると、「承りましたニャ!」と溌剌な声で返事をして、彼女は向かい奥にある厨房へと軽快な歩調で去っていった。
その後ろ姿が、アリシアにとっては何処か浮かれているのではないか?と思えた。
暫く何処か落ち着かずに待っていると、先程のキャットシーの女の子がお盆の上に自分の顔よりも大きい骨付き肉を載せて、「お待たせしましたニャ~」
と可愛げにアリシアの元へと其れを持ってやって来た。
「当店自慢の活力料理!!
グリフォンの骨付きもも肉の香草焼きニャ!
冷めないうちに召し上がれニャ。」
見るからに重そうなどっしりとした肉塊を彼女は、清々しい顔でアリシアの手元のテーブルに置くと、「それではごゆっくりニャー」と言い残して、また他の客のもとへと注文を受けに向かった。
テーブルを3分の1は占めている肉のあまりの大きさにアリシアは絶句し、あまりの驚きにここに来てずっと感じていた違和感さえも一気に払拭されてしまった。
元々、とんでも無い大食女であった為、常人の食事のペースを逸した速さでものの数分でグリフォンの肉を全て平らげてしまった。
そんな異様な光景を傍から見ていた他の客たちは、「開いた口が塞がらない」そんな驚きの表情に満ちていた。
食事をすることを忘れて、客達は一応に1人の魔族の女の子に注目していた。
だが、そんな事を全く気づいていないアリシアは、早々に会計を済ませようと、店員を呼ぼうとした。
ーーその時だった……
「さっきから横で見ていたんだけど、凄い食べっぷりだね。
驚いちゃったよ。」
そう言って、横の席からアリシアの元にやって来た男が一人と、彼に続くようにして2人の男女が歩み寄ってきた。
「えっと、貴方達は?」
突然、見知らぬ人に話しかけられたアリシアは少し困惑した。
「あぁ、ごめん自己紹介がまだだったね
僕はインキュバス族のベータ。
それで、僕の後ろにいる女の子がパーピィ族のルーシー、男の方がオーガ族のゴンゾー。
みんな君と同じ魔族だよ。」
ベータと名乗った男は精悍な顔立ちをしていて、透き通るような真っ白な肌と温厚そうな外見もあってか、爽やかな好青年然として見えた。
だが、彼も魔族である。
その証拠に頭には羊のように湾曲した角、先端が鏃のような形をした尻尾がお尻から突き出るように伸びていたり、また、背中からは蝙蝠にも似た禍々しくも見える黒い羽が生えていた。
彼だけではなく、他の子も人間や亜人とはかけ離れた姿をしていて、どれも単一の型にはまるような者達ではなかった。
「私はアリシア・エレオノーラよ、宜しくね。
足下を見ればわかると思うけど、私はラミア族よ。
堅苦しのは嫌いだから、呼ぶ時はアリシアでいいわよ。」
初対面にも関わらず、意外と気さくに話してくれたアリシアに、ベータは機嫌良さ気にやや上ずった声で「こちらこそよろしく!」と挨拶を返した。
「立ち話もなんだし、良ければ君の席を少し借りてもらってもいいかな?」
にこやかな表情でそう言うベータに対してアリシアは、「えぇ、好きにしていいわよ」と快く受け入れた。
彼らと出会ってどれくらい経っただろうか、アリシアは時間すら忘れてどっぷり彼らとの談笑に浸かっていた。
だが、お陰で彼らとはかなり仲良くなれそうだ。
アリシアは心の中でそう実感した。
それは同じ魔族だから、という訳ではなく彼らもまた、自分と同じようにこのメルト市で洗礼を受けたものだったからだ。
「5年前、僕もここに来た時はアリシアのようにかなり苦労したよ。
あの時はハンターにさえなれなかったから、とある店の皿洗いから通行人の靴磨きなんていう事も、毎日のようにやっていたね。
ただ、今となってはこれがあるから、だいぶ生活はラクになったよ。」
そう言ってベータは濃紺色のズボンのポケットから1枚のハンターライセンスを取り出した。
それを見たアリシアはぎょっとする程驚いた。
「え!?
これって銀のライセンスじゃない!」
「うん。
僕だけじゃなくて、他のみんなも銀ライセンスを持っているよ。」
「ーーで、でも制度改正でハンターになれたばかりなのに、どうしてそんなに早く昇格出来たの?」
驚くことばかりで、アリシアは只只動揺させられた。
とはいえ、それも妥当なことなのかもしれない。
つい先程、魔族のハンター昇格は難しいと言われたばかりの彼女にそれは望外の喜びと言えるだろう。
こう思うのも、彼女にとっては忍びない事ではあったが、制度化されてまだ一年と立たないうちに、魔族が銀のライセンスまで昇格させるなんて、疑わしく思えるほど奇跡的な事だ。
そもそもライセンスとは木→鉄→銅→銀→玉鋼→金→白金etc.
と上がっていく。
つまり、銀を持つということは、魔族の限界級である銅を越さなければならないので、それは考えなくても不可能に近いことが分かる。
だから、如何してもアリシアは知りたかった。
如何にして彼らが短期でライセンスを昇格させることが出来たのかを……
それをアリシアは伝えると、彼らは光を穏やかに反射させていた双眸をギラりと変え、饒舌な口振りで語り始めた。
アリシアは、それが不幸を招く最初の架け橋になろうとは思いもしなかったのであった。
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