第1話 リメイク2

 静かな風の音が聞こえる。森の中、大きな石の上に一人座っている。周りは木の人形や割れた石が散らばっていた。森の茂みから男が一人歩いてきた。


 「またここにいたのですか」

 ため息まじりそう言ってくる男

 「いや、待ってる時間がもどかしくてさ」

 大きな石の上に座っている少年は笑って後ろの男に返す。


 ほんの少し前この世界は終わりを告げようとした時、忽然と現れた少年はこの世界を救い英雄と崇められた。今、世界は平和になり人々は平穏な日々を過ごし英雄は一生分の富と名誉を貰って暮らしていた。


 「貴方は英雄なのにまだ足りないのですか」

 そう言った男の名はハル。少年の補佐をするように国から言われたお目付役だ。真っ白な白髪に眼鏡をかけていて知的キャラ扱いをされている。

 「別にそんなものが欲しくて世界を救ったつもりは無いさ。異世界何て聞いたら冒険したいと思うのが子ども心ってものさ」

 男に返す少年の名は橋下夕輝。世界を救った英雄だ。中学生か高校生くらいの背丈に童顔で英雄の気品さもない。

 「冒険はあの時したでしょうに」

 ハルは疲れたような顔をしながら夕輝に言う。

 「もっと大きな冒険だよ!」

 夕輝は石から飛び降りてハルに近づく

 「だってこの世界地図見ろよ」

 夕輝はハルに大きな紙を一枚見せた。

 真ん中に大きな島があり周りは海に囲まれている。この大陸で発行されてる世界地図だ

 「これが何だと言うのですか」

 ハルは地図を持つだけで見ようとはしなかった。子どもの頃から知っているからである。

 「海の向こうに絶対見たことのない大陸があるはずだって!」夕輝は顔を近づけ大きな声でハルに言う。

 「だから早く準備終わらないかな」

 夕輝はまた石の上に戻っていく。 

 「人手が足りないのですからもう少しかかるそうですよ。夕輝さま」

 優しく気品のある声が森の奥から聞こえてくる。

 「おぉ、何しに来たんだよ。セシア」

 夕輝は声のする方向に顔を向ける。森から出てきたのは女性だ。彼女の名はセシル=クロス。この国のお姫様だ。スラッとした背丈に金色に輝くような綺麗な髪。誰もが美人と呼ぶであろうその顔は姫の気品さを感じられる。

 「夕輝さまが森に居るとお父様がおっしゃったのでお弁当を作って参りました。」

 セシルはニコっと笑いながら片手に持つお弁当箱を見せる。笑うと子どもみたいに見える。

 「おぉ!さっすがちょうどお腹が空いてたんだよ。ありがとうなセシル」

 「そんなお礼を言われることなんてしてませんよ。夕輝さまには世界を救った大きな借りがあるんですもの。こんなことでは足りませんよ」

 夕輝がお弁当を食べる姿を見ながらセシルは言う。端から見れば子どもを見る姉の姿なのだろうがその頬はうっすらと赤く染まっている。

 「お口にあいましたでしょうか?」

 「ああ、スゴく美味しいよ。セシルは良いお嫁になるな」

 「そんな、お嫁だなんて私にはまだ早いですよ」

 興をつかれたのかセシルの顔が一気に赤く染まり慌てふためいている。

 夕輝は食べるのに夢中なのか気づいていない。

 「お戯れを夕輝、ウチの国の姫様がパニクっています。」

 ハルがゆっくり近づいてきた。その声でセシルは元の表情に戻った。 

 「え?何の話をしてるんだよ。ハルは」

 ため息をつきながらハルも一緒に座る。

 「早く食べて王宮に戻りますよ」

 「えー、食べ終わったらハルに練習付き合ってもらうとしたんだけどな」

 「そんなことしていたら日が暮れます。姫も居るんですから戻りますよ。王が心配されますから」

 「そんな、私のことは気にしないで下さい。勝手に来ただけですから」

 「そうだな、戻るか」

 セシルが不安な顔をして夕輝を見る

 「セシルのせいじゃないよ。俺が戻るって言ってるんだから気にする必要なんか無いって」

 夕輝はセシルの頭をかるく撫でながら言う。心なしかセシルの顔がだんだん明るくなっていく。

 それを端から見る眼鏡。(こいつはアニメのハーレム主人公かよ。今日は姫一人だから良いけどあいつら居てたら修羅場だな)

 「それと準備ならもうすぐ終わって明日出発できるそうですよ」

 「そうなのですか?」

 セシルは驚いた顔をした。

 「ほんとに!マジでやった何で早く言わないんだよ」

 夕輝は目を輝かせて無邪気な笑顔をまき散らす。

 「それを言いに来たのに呑気にご飯など食べて」

 ハルは嫌な顔をしながら言う。

 「ごめんなさい」

 「ハハハ……」

 片方は落ち込み、片方は苦笑いをした。

 「だから、戻りますよ」

 次の瞬間、夕輝は笑顔で二つ返事をしてハルの後をついて行く。セシルも夕輝の後ろを歩いていく。



 ー次の日ー

 朝は港にたくさんの人集りが出来ていた。

 それもそのはず、今日は出航の日だからだろう。

 夕輝は船の下で町の人にお別れの挨拶をしている。その横で待つハル。

 元気で行ってこいよ、風邪引かないようにね、お兄ちゃんこれあげる。色んな人が夕輝にお別れと手荷物を渡す。

 「もう、船に乗らないといけないですよ」

 ハルが夕輝に耳打ちをして船に戻る。

 「じゃあ、皆行ってくるよ!」

 水平線の上に太陽が上がり、船の大きな音とともに鐘の音が町に響き渡る。

 夕輝は大きく手を振り町を離れた。

 「じゃあ、冒険に出発だ!」

 夕輝の大きな声が船に響きわたる。

 「楽しみですね。何が待っているのか」

 セシルが船から身を乗りだし国の方を見ながら呟く。

 「しかし、本当に来てよかったのですか?」

 ハルは最後の確認を聞く。

 「ええ、お父様が許可してくれたわ。」

 「そうですか、でも十分に気をつけて下さいね。何が待っているのか分かりませんから」

 「あら、私の力は知っているでしょう?」

 セシルは自信満々な笑みでハルに言う。

 「今からは一国の姫では無く一緒に世界を救った仲間と思いなさい。ハル」

 「そうですね。分かりました」

 ハルはそういうと奥の方に行ってしまった。

 

 英雄の物語はまだ終わらない。いやもしかしたらこれからが本当の物語の始まりかもしれない。


 「あいつらは乗らなかったのか。」

 ハルが小さく呟いた。


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