風の花 琴美編 (風の花 しばし相見る 神の木を 番外編)

shiba

第1話 琴美 机の上に立つ

そういや、あいつから連絡がない。


私は、スマホを見ながら学校に向かう。

あいつと付き合ってから、もう半年ぐらい。

高校入って、バイトをはじめて、声かけられて、遊びにいって、付き合って・・・


で、連絡ないねん!


どうゆうことやねんと、私は腹が立っていた。



「あいつ、まさか遊びやったんとちゃうやろな!」

教室で、ひとりつぶやく。

その声に、返事が返ってきた。


「あのな、篠山(しのやま)!」

私は上を向いて、声がした方向を向いた。


「オレの授業中に、なんべんスマホ見るな言うたら分かんねん!」

安部(あべ)が、私の前に立っていた。


私の名前は、『篠山(しのやま) 琴美(ことみ)』

静山丘(しずやまがおか)高校の1年生。



「いや、ほんま、ごめんって」

私は、安部先生に両手で謝った。

「これで、何回目やと思てんねん。今日という今日はお前のスマホ、壊したるからな」


めっちゃ安部ブチ切れやん。

こっちも、ほんまムカついてんやけど。


しかし、私の怒りは、無視されて、安部に私の命とも言えるスマホを人質に取られ

生徒指導室に来るように言われてしまった。


「ほんま、スマホが無いと生きていかれへんわ」

私は、友人の美希(みき)に話しかけた。

「うーん。でもさ、テスト中に、スマホはあかんと思うわ」

あきれた顔で、美希は私に答えた。

「いや、分かってるけどさ。新型のスマホががないと、戦況を挽回でけへんねんって」

「・・・なんなん?戦況って?だれと戦ってるん?」

まあ、「美希」にも、昔からの幼なじみの「ふう」にも何も言ってへんかったからなぁって思いながら、私は腕を組んだ。


私の怒りは収まらず、テストはばっちりやったけど、テストの後、生徒指導室に行くことにした。


「すみません。携帯返してもらいにきました」

がらっと戸を開けると、安部の姿はいなかった。

「まだ出勤時間のはずやのに、机が一個あるだけやん。人影ないなぁ・・・あった。私のスマホやわ!」


机の上に置かれている真っ白いスマホを見つけた。

私は、机の上に近づいてスマホを持った時に、下にあった「V(ブイ)」と書かれたバインダーに目がいった。


「極秘資料?・・・こ、これは、テストの答案用紙」

つい、私は見てしまった。テストの答案用紙を。

「えっと、ふうの答えは・・・空が青いから・・・!? すごい、ふうがテスト中にずっと空見てる訳やわ」


ふうは、なんとかなるみたいなこと言うてたけど、これ絶対、補習やんっ!!

ってか、バカにしてるとしか思われへん回答やねんけど・・・


そうはいっても、やっぱりかわいいふうの為、私は回答を書きなおそうとした。


「こいつ、書けないぞ」

私は近くにある安部のものだと思うボールペンが、少しのインクすら出ないことに焦りを感じていた。

「同じだ、こいつもか!」

他のボールペンを使っても、やっぱり出ない。

「すごい、私の5倍以上のボールペンがある」

私は、机の上に置かれたボールペンの山を見て、気合を入れた。「やってみるさ」と。


「これだけか?」私は、インクの出ない20本目のボールペンを机に置いた。

すると、机の端にもボールペンが2本だけまだあることに気付いた。

「こいつだ!間に合うか?左と、右か」


すると、正面から声がした。

「篠山(しのやま)、何してるんや?」

「し、正面だ」

私はとっさにバインダーを元の位置に戻して、なぜか机の上に立った。


「おおっ、立った」

安部は、机の上に立つ私を見上げながら呆気にとられた。


その瞬間、私は安部の横をジャンプしてすり抜けた。

「スマホ、返してもらいましたからねっ!」

スマホを見せながら、私は教室を出ようと走った。ふいを突かれた安部がつぶやいた。

「・・・あれが、スマホ中毒女子高生の威力なのか?」


「捕まるものか。ぶ、武器はないのか?武器は?」

私は心の中で言いながら、扉に向かって走っていた。

「ど、どうする?安部だけをこの部屋に残せるのか? 今度、安部に捕まったら、私も補習になっちゃう」


しかし、安部は私を追いかけることもなくただ呆然と立ちつくしているだけだった。

私は部屋から脱出することが出来た。


「認めたくないものだな。自分自身の、老いゆえの過ちというものを」

一人、生徒指導室に残された安部は、窓から見える枯れ木を凝視して、つぶやいた。



次回予告


生徒指導室を脱出する琴美を待ち受けていた安部は、ついに無駄な努力の本領を発揮して琴美のスマホに迫る。

それは、安部にとっても琴美にとっても、初めて体験する意味のない戦いであった。


風の花 琴美編。次回、『恋愛破壊命令』。

君は、人生を無駄にすることができるか?

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風の花 琴美編 (風の花 しばし相見る 神の木を 番外編) shiba @fu_shiba

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