第27話 出陣式とアベタカの暴走




 17日目 7:30 温泉エリア 朝食前



「腰をまわせ~♪世界の真ん中で~♫」

 アベタカがご機嫌で変な歌を歌っている。


「最高の部下を手に入れたんだZE」

 劉備と共にもう一人、ガチムチマッチョの少年を引き連れてきた。

 角刈りだ。角刈りにふんどし姿。

 残念臭がハンパないが、人物鑑定はしておくか。



 名前 サブ・ハンター

 年齢 14 

 職業 臣下・兄貴


 武力 56前後 知力 50前後

 魔力 67前後 政治 42前後

 交渉 40前後  運  66以下


 スキル さぶみっしょん Lv5

     呪術      Lv7

     陽門陣     LvMax




 ん?見た目は武闘派なんだが、魔法への適性の方が高い。

 Eランク?Dランク?のエインヘリアル。

「陽門陣のレベルが最高値」

「はわわわわ、名将、陳永福……恐ろしい。恐ろしい人なのです」

 孔明が知っているようだ。かなり恐れているが、そんなに能力値は高くないぞ。陳永福という名に心当たりも無いし、やっぱ陽門陣が怖いスキルなのか?

「陽門陣ってどんなスキルだ?」

「はわわわわ、セクハラなのです」

 顔を真っ赤にして逃げて行ってしまった。

 意味わからんし、それに、おまえがそのセリフ使うなよ。


 とりあえず孔明は教えてくれそうもないので、馬謖くんに聞いてみた。

 馬謖くんは一瞬嫌な顔をして、

「私は無理ですからね。絶対しませんよ」

 えらく警戒された。

「させるも何も、何なのかわかんから教えてくれ」

「そういうことでしたら。まず100人以上の若い僧侶を集めまして……」

 何故に若い僧侶?

 なんか嫌な予感がしてきた。


 先是,流寇圍汴梁,城中固守,力攻三次,俱不能克。賊計窮,搜婦人數百,悉露下體,倒植於地,向城嫚罵,號曰「陰門陣」,城上炮皆不能發。陳將軍永福急取僧人,數略相當,令赤身立垛口對之,謂之「陽門陣」,賊炮亦退後不發。詳見李光壂『汴圍日錄』


 明の末といえば国が乱れ四百四州が地獄のような有様になった時代だな。

 十三家七十二営、その一営だけで二、三万の兵力を持った賊軍が各地で暴れていた。そのうちの一団が河南の開封(汴梁)を包囲して攻め立てた。三回にわたって猛襲したが、“守りには強い”兵がよく耐えて城は落ちない。そこで賊軍の首領は呪法を試みる。さらってきた婦女たち数百人を先頭に立て、一人残らず下半身を裸出させた。逆立ちさせて城に向かっておもいきり罵らせた。これを陰門陣という。「これにより城壁の上の大砲はことごとく発火しなくなる」という面妖な呪法だ。

 これに対し城将・陳永福も、よしその儀ならばと敵方とほぼ同数の僧を集め、彼らの裸身にして城壁に並べた。これを陽門陣という。するとあらあら不思議や不思議、敵方の銃器・砲火もことごとく沈黙し、賊軍は後退せざるを得なくなってしまったのだ。(李光璧『汴圍日録』)


 馬鹿馬鹿しい話だが洋の東西を問わず、火砲除けに裸女を兵の先頭に立てたというのは近代までよくあった話だ。確かアヘン戦争のとき、射程の長いイギリス軍の大砲に向かって、女性用のオマルを投げつけたとかいう話も、この手の呪術だかに起因していたハズだ。

 迷信の類だろうけれども、ファンタジーな世界だからな。スキルは発動するのかも知れない。

 空戦で成す術もない我が国としては敵の砲撃を無効化できれるのならば有難い。

 有り難いが……僧侶100人のフルモンティーなんて見たかねえぞ。


「さっそく僧侶を100人揃えるZE」

「揃えんでいいわ!」


 陳永福のことに気をとられて、アベタカが昨夜、神様からどんなアドバイスをしてもらったのか聞くのを忘れていた。

 もし聞いていれば、アベタカの暴走は止められたのかも知れない。

 その時の俺は、まさかあんなことになるなんて夢にも思っていなかったんだ。




  17日  8:30 温泉エリア 朝食後


「それならば、零番隊隊長というのではいかがなのです?」

 と孔明が提案した。九時の出陣を控え、続々と冒険者や外に置いていた部隊が集まってきている。

 首脳陣の役職や部隊の呼称についての最終確認をしていた。

「ボクシングのチャンピオンは世界ランク一位の上に君臨するというのです。それと同じく、一番隊の上に君臨する部隊、KDAさんには零番隊隊長こそが相応しいのです」

 能力の高さから部隊を割り振っていくと一番隊が周倉くん、二番隊が鬼武蔵くん、三番隊がKDA様ということになる。これから国の顔になってもらうKDA様が三番隊隊長というのはいかがなものかという問題がでた。ならばと一番隊に据えると、毎度一番隊長がキラキラとカッ飛ばされるところから戦闘が始まるのは、些か外聞が悪い。俺のようなKDA様ファンなら負け姿にこそ清々しさを感じるのだろうが、特に今回のように外からの参加者がいる場合はどうなのよという話になった。

 零番隊隊長か、うん、それでいいよね。

 孔明の提案を受け入れた。



総大将   アンダくん

軍師    孔明

参謀    杉原 田原 野口

驃騎ひょうき将軍 関羽 

右驃騎将軍 張飛 

零番隊隊長 KDA様

一番隊隊長 周倉くん

二番隊隊長 鬼武蔵くん

遊撃隊   氏真×4


 

 アンダくんが総大将なのは杉原たちからの俺への配慮だ。これまでにスライム1匹しか倒したことの無い俺は今回の遠征には参加しない。俺の名代としてアンダくんを大将に置き、お飾りにしてくれるのだろう。そのまま後ろに下げておいてもらいたい。

 軍師の孔明は順当な役職。事実上、杉原たち参謀の3人が軍を動かす。

 左右の驃騎将軍が冒険者たちとアベタカの手勢あわせて21PTを指揮する。

 Sランク4PT、Aランク3PT、Bランク5PT、Cランク5PT、Dランク3PT、Fランク1PTの内訳だ。

 本来、地竜討伐にはDランク以下のPTが参加することはない。じっくり時間をかけて編成をして、SランクAランクの冒険者を集め、Bランクを中心にCランクで数を揃える。今回のように急ごしらえの連合に間に合わせで参加した冒険者や、元からアベタカのところにいた兵の質が悪いのは仕方のないことだろう。

 ただしFランクの6名はかなりの逸材だ。冒険者になったばかりの12歳13歳の少年少女たちだが、リーダーは武力、副リーダーは魔力の能力値が80前後の天才で、今後スキルを鍛えれば化物に近くなる。他のメンバーも能力値70中盤から後半、スキル次第で天才の域に足を踏み入れるだろう。年齢が低いので才能の7、8割くらいしか力を発揮できないのだろうが、生きていればここ数年で頭角を現し、いずれAランク、そしてSランクへと昇っていく集団だ。

 野心に燃えた少年たち。今回のような討伐隊なら或いは地竜討伐に参加を許されるのではと手を挙げてきたのだ。くれぐれも無謀なことはさせないように杉原たちに頼んでおいた。それと駆け出しの冒険者ゆえに装備が貧相だったので、予備の装備から適当なのを見繕みつくろい、孔明に届けさせた。


 零番隊から遊撃隊までの四部隊で我が国の兵と傭兵団21PTを指揮する。

 Aランク1PT、Bランク13PT、Cランク7PTの内訳。

 290名の兵と雑用のミー子とハー子、総勢292名。

 今回は大量の宝石を育て、育てた宝石は運の石以外は外に流さない。だから均等分配にすると確実に破産するので、参加するPTのランクに応じて上限金を設けてある。その上限金も、通常の地竜討伐隊の分配金よりは上に設定してあるので不満は出ていない。

 10Fまでは輸送船を乗り継いで牛王からの討伐となる。

 中層、下層の調査も含め1泊2日の日程だ。

 誰一人欠けることなく無事に帰ってきてほしい。

 アンダくんのことをくれぐれも頼むと杉原に念を押しておいた。




  17日目 9:00 ダンジョン前 出陣式



 目の前に290名の屈強な兵たちが整列をしている。

 ゲームで1人の将軍に数千から数万の兵を与え、総勢数十万で戦争をするなんてことをやてきたのだから、数百人の兵などというのは物の数ではないのだが、こうやって実際に目の前に武装した兵が並ぶと、たかだか290名でさえ迫力がある。

 兵たちの息遣いに武者震いするほどの感動をおぼえた。


「それではこれより、国王様からのお言葉を賜りますのです」

 はあ?聞いてねえよ、そんなの。

 挨拶があるなら挨拶があるで前もって言っておいてくれよ。馬謖くんにでも原稿を用意させたんだからと杉原たちの方を見ると、目が笑っていた。

 謀られた。

 

 孔明に招かれ壇上へと昇る。

 見知った顔がほとんどとは言っても、改めて人前に立つと緊張する。

 俺、交渉30なんだけど、


「あ~、みな怪我には気を付けて無理はしないように」

「奮闘努力せよと王はおっしゃっているのです」

 隣で孔明がまくし立てる。いや、そんな事言ってねえだろ。


「あ~、安全第一で無事に帰ってくるように」

「ただ蹂躙じゅうりんせよと王はおっしゃっているのです」

 いや、もうおまえが全部喋れよ、孔明。


「あ~……」

 変な間が空いた。もう言葉が思いつかねえ。

「以上」

「出陣!」

 孔明がふさふさの羽扇を前に突き出す。

「「「応」」」

 周倉くんを先頭に、兵たちがダンジョンに進軍を開始した。

 壇上から後姿を眺めながら、無事に帰ってきてくれと祈った。





 17日目 9:30 朝の会議


「DOUSHIが吝嗇けちなのは性分だろうが、鉱山くらいは気温をあげてもらいたいZE。寒い所で土を掘るのは泣けてくるZE」

 寒いならちゃんと服を着ろよ。無駄に胸をはだけさせて言うセリフじゃないぞ。

「主様が節約されているのは分かります。が、作業効率を上げるためにも農地エリアと鉱山エリアの気温の見直しは必要でしょうね」

 馬謖くんが同意する。

 現在、温泉エリアの平均気温は0℃。これは露天風呂には雪景色という俺のこだわりで、不満の声はあがっていない。簡易式の住居とはいっても、温水を循環させるタイプの暖房設備をとりつけているので、室内にいるかぎりは快適に過ごせるからだ。

 問題は他のエリア。平均気温を5℃に設定いているため、初冬くらいの寒さである。魔素の消費を抑えるための措置ではあるが、作業をする者のことを考えるべきなのだろう。今のところ魔素の残量よりも瘴気の残量の方が心許ない状況だ。現場の声に耳を傾けることにした。

 


  現状の確認


 17日目


 人口 タナカ王国 249(184)        

    アベタカ王国101(93)              

    冒険者(私兵)27 

    冒険者(一般)69


 魔素残量 約2.3M(-62K)           

 瘴気残量 約0.9M(-318K)

 残金    約  62Mゴルド   

 借金       200Mゴルド

 ガンシップ  5機(修理中2機)

 兵力 転生者      5 

    エインヘリアル 26

    タナカ王国   79(31)   

    アベタカ王国  35

    赤薔薇傭兵団  64(62) 

    冒険者(私兵) 27     

    冒険者(一般) 69 


 昨日はダンジョンにアンダくんを投入したからな。瘴気の消費量がとんでもない事になった。

 次のログインまでのタイムリミットが迫っている。兵の補充が必要なのが、頭の痛いところだ。今日明日は頼りになる武将が全て出払っているため、そちらには手が出せない。サーニアに会うために人口を一人以上は増やす必要があるが、どの部署にわりふるかだな。


 今日から温泉エリア以外の設定温度を上げるため魔素の消費も多くなる。瘴気の減り具合に比べこちらはまだまだ余裕があるので、民が快適に作業できるようには改善できる。最低限のエリアしか開放していない状況だが、魔素の管理は順調にいっていると思う。




 本日の予定


 (俺班)……人材の確保(1人以上)と商会の視察。リカリスで買い物


 (馬謖班)…温泉エリアの開発と住居エリアの設計


 (シオン班)…チョコレートの製造


 (アベタカ領民)…農地エリアの開発


 (アベタカ班)…自領民を何人か使って鉱山エリアの採掘作業。魔道具の製造と開発 


 シオンちゃんからの報告。

 昨日補充した25名の配置や作業の説明は一応済んだとのこと。二千匹以上の処理に成功。更なる増産が見込めるが、作業場が足りていない。馬謖くんにそちら優先でなんとかしてもらうことにした。




 17日目 13:00 リカリス 奴隷商街


 今一番欲しいのは兵、けれど護衛をつれていない状態では怖くて買えない。

 次に必要なのは、農業や鍛冶や建築などのスキルを持った職人。

 レベル1から3くらいまでなら戦争奴隷の中にも見かけるが、高レベルの者はまだ見たことが無い。どの国でも高い技術を持った者は貴重なのだろう、徴兵をまぬがれるようだ。

 だから必要を感じる人材に今は手がだせない。

 さて、サーニアに会うため1人をどこに雇い入れるかだ。

 内政部、生産部、開発部、いずれも人員は増やしたばかりで補充の必要は感じない。

 ならば今日は趣向を変えて、俺の好みに合った者を増やそうと思った。

 やはりアンダくんのように真面目な努力家がいい。

 能力値は低くても、彼は猟師としての技を磨き、ゴブリン相手なら誰よりも結果を出してくれるのだ。

 真面目な子を雇い入れ、何年、何十年先を見て何かの職業スキルを学ばせてみよう。いや、今日雇い入れる子だけでなく、今まで雇い入れた子供たちの中からも、興味のある分野を学びたいと意欲を持つ者はじっくりと育てていくのもいい。

 ここまでは必要に迫られて、足りないところ、足りないところに継ぎ接ぎのような雇用をしてきたのだ。違うアプローチの仕方をとりいれてみるか。

 奴隷商を何軒か周り、真面目そうな子を5人雇い入れた。

 とりあえず馬謖くんに預けておく。

 残金46Mゴルド。



 17日目 15:00 リカリス 修理工場


 午後に商会に顔を出し売上金の中から200Mゴルドを政務費に加えた。

 残金246Mゴルド。

 整備に出しているガンシップ2機の進捗状況の確認に修理工場に立ち寄る。

 あと3,4日で修理が終わるとのこと。

 予定より1,2日早くなる計算だ。


 中古の型落ちのガンシップなら2機増やすことができる。

 ショップの中を周りながら購入を検討する。

 対空火力を上げて不安を少しでも軽くしたいところ。何もしないでいるのは論外だ。ただ十機、二十機と数を揃えるには資金が圧倒的に足りない。

 なにも急いで購入しなくてもと、今回は見送ることにした。

 みなに相談してからでいい。




 十七日目 17:00 温泉エリア



 子供たちと夕食前にゆっくり風呂にでも入ろうと温泉エリアに戻った。

 転移陣の上で俺の周りを包んだ光が消えたところで黄皓四人組の姿が目に入る。

 作業を終えて解散したところだったのだろう。

「タナカ王様、タナカ王様。このような事をお耳に入れるのは心苦しいのですが、馬謖殿にはお気をつけますように。謀反の恐れありですぞ」

 あ~黄皓の讒言ざんげんが始まっちゃったよ。

「馬謖殿にはお気をつけますように」

「馬謖殿にはお気をつけますように」

「馬謖殿にはお気をつけますように」

 四人も居るからウザさ四倍だ。

「王のことを、馬鹿と言っておりましたぞ」×4

 知ってる。知力80オーバーの彼からすれば馬鹿だから腹は立たない。

「王のことを、オニと言っておりましたぞ」×4

 面倒な仕事ばっか押し付けるから仕方ないよね~。

「王のことを、こともあろうにハゲと言っておりましたぞ」×4

 14歳だし、全くハゲてないから気にならない。

「馬謖殿といえばいわば宰相、その重鎮に叛意はんいありとはゆゆしき事態ですぞ」

 あおってくる、あおってくる。

 けれどそれは無いから。

 馬謖くんが最近の俺の仕打ちに、少しムッとしたのは事実だけど、孔明の入れ知恵で、このまま俺に反抗的な態度をとらせようって事になってるんだわ。君主と宰相が日頃から反目しあっている状況をあらかじめ作っておけば、叛意を持った者はいずれ甘言かんげんを持って宰相に近寄って行くと。

 いずれ人が多くなった時に備えて、不穏分子をあぶり出すために、これから事につけて俺と馬謖くんは対立していくことになってるんだけど、さっそく黄皓はこっちに来ちゃったのね。ただ俺への讒言ざんげん叛意はんいじゃないし、黄皓が佞臣ねいしんたる所以ゆえんの行動だからね、裁くに裁けない。

 困った困った。

「政務の事はジョン殿か、不肖わたくしめにお任せくだされば…」×4

 それは絶対無い。黄皓は有能だけど絶対私腹を肥やすし。

「粉骨砕身、必ずやご期待に添えますよう結果を出すと誓いますぞ」

 アハハハハと笑って胡麻化ごまかしていると、

 

「うっほ♪ うっほ♪ やらないか~♫

  うっほ♪ うっほ♪ やらないか~♫」


 アベタカが現れた。また変な歌をご機嫌で歌っている。

「おお、DOUSHI。いいところで会ったZE。見せたいものがある」

 アベタカの誘いに普通ならホイホイ付いていく俺ではないが、この時ばかりはありがたいと思ったね。うっとおしい黄皓の包囲網を突破するためだ。

 ついでにと内政部の執務小屋で残業している馬謖くんも誘った。なんでも見せる物が大きいらしく、未だ開発の手の入っていない空き地へと向かった。


 先ずアベタカはアイテムボックスから巨大な城の模型を出した。

 直径1mの円柱状の石垣の上を城壁が囲む。

 その台座の上に今度は立方体の石垣がのっていて、その上に城壁と精密な『姫路城』の模型。

 高さ60cmくらい。160分の1スケール。なぜに姫路城?

 昨日神様に出会ったときに手渡されたのだそうだ。

「これはすごいですね。中まできっちり作り込んであるじゃないですか」

 馬謖くんは建築のレベルが4だからね、こういった物には興味があるんだろう。姫路城の各階層をカパカパ開けながら中を確認している。台座の石垣の中も階層と部屋に分かれているようだ。

 姫路城内部は和風。

 二段ある石垣の土台の中は洋風の間取り。

「この模型のすごいところは、実はこれ自体が魔道具だということなんだZE」

 そう言ってアベタカが左手で魔力を集め、右手で模型に魔力を注ぎ込む。

 姫路城がぼんやりと光だす。

「展開」

 アベタカがそう命令すると姫路城を覆った光が空中に広がり、実寸大の巨大な光の城が目の前にそびえ立った。

「これが立体の設計図になるんだZE」

 すげー!光っているだけの幻の城だけど、デカくて綺麗だ。

 馬謖くんも目をキラキラさせながら姫路城に見入っている。

「そしてこの設計図をなぞって立方晶ジルコニアを結晶化させていくと、宝石の城ができるんだ。人手もかからない、魔法で作る堅牢けんろうな城だZE」

 マジですか!

 硬そうだ。材料費もほとんどかからないっていうし、安くて簡単、硬い城。理想的じゃないか。

 けどダイヤモンドって確か火に弱くなかったっけ?

「CZダイアモンドだっけ?火で簡単に燃えるんじゃないのか?」

「ジルコニアは炭素じゃないし、酸化してるから火では燃えないZE。しかも融点が2750℃なんで耐熱性能も超優秀だZE」

 2750℃というのが実際どんな温度なのかは分からないが、そのくらいの温度になっちゃってたら城がどうのこうの以前に人間の方が焼け死んじゃってるよな。

 硬くて燃えない城。すばらしい!

「たしかダイヤモンドって割れやすいんじゃなかったか?」

「ジルコニアはダイヤモンドとは違うんだZE。靭性じんせいはダイヤより上、割れにくいZE。ただ硬度は8から8.5、ダイヤの10よりかは劣るんだが、ダイヤが硬すぎるだけなんだ。そのへんの石や金属よりも遥かに硬いZE」

 靭性と硬度がどう違うのかは分からんが、いいじゃないか。

 硬度は下がっても、火に強く割れにくい。欠点を補って余りある性能の高さだ。

 あとは完成させるのにどのくらいコストがかかるかだな。

「材料費は?」

「鉱山エリアでいくらでも採れるからほとんどタダだZE」

 たしか魔素の消費が激しいって言ってたっけ。

「完成までに使用する魔素の量は?」

「四千万魔素だZE」

 ぐはっ!

 朝の時点で所有魔素量は二百三十万、十七倍以上か。

 前回のログイン時の採取ペースだと七日間近く接続しなけりゃ溜まらない量なわけで、今の戦力では怖くてそんな無理はできない。

 買うか……買えば四億ゴルド……高い……高い買い物だけど、普通に石や木で同じ城を造ったとしたらその何十倍、何百倍の費用はかかる。それに普通の方法だと人手もかかるし、完成までに何年もかかるのだ。

 ここは清水の舞台から飛び降りる覚悟で魔素の購入に踏み切るか。

 外の世界に出ていくのに、いつまでもプレハブの本拠地なのは怖すぎる。

 堅牢な城あってこその兵だろうし、防衛戦が格段に有利になるじゃないか。

「ま……ま……魔素は用意しよう」

「さすがはDOUSHIだ。きっとそう言ってくれると思ってたZE。いやぁ、ここは温泉があって快適なんだが、コンテナハウスだけは狭くていただけなかった。俺の居城にはこのくらいのスケールが必要だ。これで毎晩アクロバティックな技も使い放題だZE」

 ん?なんか話が噛み合ってないんじゃないのか?

 この城って防衛戦用に表層に置くんじゃないのか?

「誰の城だって?」

「もちろん俺の城だZE」

 はぁ?なんで居候いそうろうが人の領地内に居城を建てようとしてんだ?

 君主が木造のプレハブ住まいだっていうのに。

 しかも俺が費用を出すとか、ありえん。

「魔素が心許こころもとなかったんで今日はここまでしか造れなかったZE」

 アベタカが手をかざすとアイテムボックスから巨大な塊が現れた。

 光の設計図にすっぽりとはまる。下段の円柱状の石垣の半分くらいまでの高さの、中心核九十度の扇形の宝石の柱だ。

 夕日を反射して琥珀こはく色に輝いている。

 露出した内部構造も、まぶしくて直視できない。

 な˝ぁ?

「魔素さえあれば、明日中に完成だ。テンション上がるZE」

 勝手にテンション上げてるけど、これどうやって造ったの?

「これを造るのに使った魔素は一体どこから?」

「もちろん浮島の魔素を使ったZE」

 さも当然というようなアベタカ。

 おまっ、なに勝手に魔素使っちゃってんの!

 人に全く相談もなく、なに突っ走っちゃってんの!

 俺は慌ててシステムメニューを開いた。

 一体どんだけ魔素を使ったのかの確認だ。

 嫌な予感がする。そして、


 魔素残量 271K


 ぬうぅぅぅぅぅぅぅがぁぁぁぁぁぁぁっああ!

 230万、朝には230万あったんだぜ。それが、残り27万て……

 知らずにいたら3,4日で尽きる魔素の量じゃねえか!

 人が爪に火をともす思いで、大切に使ってきたものを……

 2千万ゴルド分の魔素が消えちゃってるじゃないか。

 

「てめぇぇえ、こら、アベタカ!居候のお前が何んで城造ろうとしてんだよ。しかも勝手に魔素使い込んで、先に相談しろよ」

「俺とDOUSHIの間でこまかいこと言うのはなしだZE」

 ガチ切れた。

 俺とお前にどんな間があるっていうんだ!

 俺はこれまでイラッときて不機嫌になったことはあっても、なんとか感情をコントロールしてきたつもりだ。けれど今回はムリ。許せるかこんなの。

「細かいだと!」

 アベタカに飛び掛かろうとした俺を馬謖くんが後ろから羽交い絞めにして止めていた。

「放せ馬謖、このドアホには、言ってもわからんだろうが!」

 アベタカは俺がなんで怒っているのか全くわかっていない様子だ。

 それがさらにムカツク。

 馬謖くんは俺にしがみついて、『殿中でござる。殿中でござる』みたいな感じ。

「主様、主様、落ち着いてください」

 落ち着けるか!

 ああ、俺が馬鹿だった。こんなヤツに魔素の使用権限を渡すなんて。

「気を確かにお持ちください」

「没収だ、没収。その城は没収だ!」

「そりゃないZE、DOUSHI」

 何が同志だ!

「DOUSHIは心が狭いZE」

 どれだけ心が広かったら、この馬鹿を許せるのだろう。

 そんな心の広い男に、俺は別になりたくもないし、なれるか馬鹿野郎!






  18日目  未明 白い空間


 人口が254人になった。

 Cランク以上確定ガチャを1度引くことができる。

 けれどここでガチャを引いてしまうと、次にサーニアに会うのにまた100人増やさなきゃならなくなるんだよね。

 ここはもう一度だけ我慢して300人を越えたところでCランクガチャを引く。そうすれば50人刻みでサーニアに会えるのだ。『アトちゃんズ』を1組でも多く増やし、アドバイスを貰う回数も増やしていく。セコいけれども、こういった細かいことの積み重ねで国を強くしていくほかない。

 だから今日も我慢だ。



「アイやータナカさん、一昨日ぶりアル~。Cランク以上確定ガチャ引くアルか?」

「今回もパスだ」

「分かったアル~。Bランク以上確定ガチャは400人になったときアル」

 う~む、それは流石さすがに遠いな。やっぱ300人で引こう。

「今日は先発組が1か月目を終えたアルから、順位発表があるアル~」

 おお、そういや杉原たちは俺より2週間くらい早くこちらに召喚されたんだったよな。俺が17日目を終えたところだから、昨日か今日に先発組は1ヶ月目を終えたわけだ。

「トルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ジャ~ジャ~ン。タナカさんの今月の獲得ポイントは249ポイント、順位は43人中22位アル~」

 ポイントの方はおそらく人口だな。昨日の人口が確かそうだった。

 43人中22位て、真ん中だ真ん中、けど43人て少なくないか?確か神の数は100人だったはず。

「神様の数は100人だったよな。眷属43人中って、眷属の数が少なくねえ?」

「まだ眷属を選んでいない神が20人ほどいるアル」

 つうことは80人がこちらに召喚されたわけだろ。それが43人て、あとの37人は杉原たちみたいに国を滅ぼしちゃったわけだ。

 過酷だ。

 既に半数近くがリタイヤとか。

 つうか人口2人で始めるところがハードモードだろ。

「ちなみに1位は11545ポイントある」

 おおおお、一万人越えとかすげー。奴隷を買ってるだけじゃそこまで行くのはムリだな。

「そいつって戦争で何度か勝ってるよな?」

「詳しくは教えられないアルけど、意欲的に弱小勢力を取り込んでいるところアル」

 兵数がいくらかは分からんが、そのくらいの規模の国になっているとちゃんとSLGできるよな。まだまだ油断はできないだろうが、上手く歯車が廻り始めているわけだ。うらやましいぜ。

「ちなみに最下位は2ポイントある」

 そっちはここ最近召喚されたか、アベタカみたいに二進にっち三進さっちも行かなくなったパターンだな。

 俺より後ろに21人も居るんじゃなくて、21人しか居ないんだ。

 気を引き締めていかなきゃだ。

 

 その後お決まりの『劉禅クエスト』のキャンセルをやって、サーニアは光に包まれた。

「最後にこれだけは言わないといけないアル。大事なことだからよく聞くアル」

 サーニアを包む光が強くなっていく。

 よし、今日はどんなのだ?

「最近、模型作りに凝ってるアル」

 お前もか!

「作品を1つあげるアルから部屋にでも飾っておくアル。使い方はマニュアルに書いてあるからよく目を通すアル。忘れないで」

 ひときわ強く光ったあとサーニアは消えた。


 白い空間には円形の大きな模型が残された。

 街並みだ。おそらく居住区エリアの完成品。

 中央に大きな塔があり大通りが八方に放射線状に伸びている。

 巨大な石の建造物が街路に沿ってぎっしりと軒を連ねている。

 立派な都市の完成模型。

 これを俺に作れと……いったいどれだけ魔素が必要なんだ?

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