第26話 内政チート③ 発明編



  16日目 7:30 温泉エリア 朝食前




 昨夜サーニアから借りた戯曲を野口たちに見せてみた。


「これは有難いですね。きのう映画を撮ろうなんて言いましたが、いざ昔見たものを脚本にしてみようとしましても、これがなかなか難しかしい。有名なセリフや名シーンだけなら思い出すのは簡単なんですが、それまでの些細な繋ぎが出てこない。書けなくて焦っていましたよ」


「おやおや野口さんもですか。私も同じですね。何度も見たはずの映画なのに細かいセリフなんかは忘れてしまっているものですね。ならば歌ぐらいは覚えているだろうといくつか口ずさんでもみましたが、カラオケで歌詞をなぞる癖がついちゃってたせいでしょうか、サビくらいしか覚えていない。二番の出だしからして怪しくなってましたよ」


「台本とは助かるね。シェークスピアか、こういう古典の方がこっちではいいのかも知れない。……


 『私にとってかたきなのは貴方の名前だけ。たとえモンタギュー家の人でいらっしゃらなくても貴方は貴方のままよ。モンタギュー、それがどうしたというの?ロミオ様、何か他の名前をお付けになって。名前にどんな意味があるというの?薔薇ばらという花にどんな名前をつけたとしても、甘い香りに変わりはないはず』


 ……か。これは僕たちにはぜったい再現できないね。それにしても凄い量だ。何年分もストックができたじゃないか」


 そうなんだよね。

 これで『KDA様スター化計画』が現実味を帯びたわけだ。

 けれど量が量なんで、書き写すだけでも一仕事だ。


「次にサーニアに会ったときに返すことになっているから、ここは人海戦術で夜までに書き写すしかないかな。人を集めないとだ。場合によっちゃ今日は人口を増やすのをやめて、250人のラインを超えるのを明日以降にすることも考えてる」

「はわわわわ、そのことですが、なにも今日一日で全部書き写さなくてもいいのです。映像水晶に記録しておいて、書き起こすのは後でもいいのです」

 おお、なるほど。

「なら、その本は夜までこちらで預かろうか。コピーしておくよ」

 台本の保管の方は杉原たちに任せるとしよう。



「ところで、俺は毎回サーニアからアドバイスなんかを貰ってるわけだけど、みなも自分の神様に会ったときに、何か教えてもらってたのか?」

 そこまで気になっているわけでもないが、なんか俺だけズルをしているみたいな気になってたんで聞いてみた。


 たまたま近くにいた孔明と目が合った。

「はわわわわ、セクハラなのです」

 はぁ?

 意味わからんし。

 つうか、おまえからそのセリフが出るとは思わんかったわ!


「ああ、あったね。僕は二回ガチャを引いたけど、実際に神様に会ったのは一度きりなんだ。一度に子供の数を増やしたからね。そのときに忠告は受けたよ」

「私も一度受けましたね」

「おやおやみなさんもですか。私も受けましたよ」

 そかそか。右も左も分からない物騒な世界に投げ出されたんだ、そのへんのアフターサービスはしっかりしてたんだね。


「で、どんな忠告だったんだ?」

「僕は、こちらの世界での正しい避妊の方法だったね」

「私もですよ」

「おやおや、みなさんもですか。私もですよ。開幕早々に最高戦力が戦線離脱しないようにと神様の心遣いだったんでしょうね」

 聞いた俺が馬鹿だった。

 コイツらってば色に溺れて国滅ぼしちゃったんだった。

 にしてもコイツらを担当した神様には同情するよ。他人の睦事むつみごとにまで気を使わなければならなかったんだからな。


「ようDOUSHI、俺もそろそろガチャを回したいZE」

 そういやコイツの国はまだかろうじて残っていたか。

 豚肉の直営店を持って資金に余裕がでてきたところだからな、百人手前で据え置いていた人口を増やしたいと欲が出たのだろう。

 まあ、杉原たちとは違って、アベタカが戦力を増強することには全く脅威を感じない。快諾することにした。

「ありがたいZE。これでまた資金が増えるZE」

 杉原たちの後押しでAランクPTを1つ雇い入れているけれど、他のメンバーがせいぜいCランクPT2つにDランク1つってところだ。狩の効率を上げるにも、防衛戦時に連携をとるにも、まだまだ火力が足りていない。

 アベタカの予算に応じてそこそこの人員を見繕みつくろうとしよう。



 


 16日目 9:00 温泉エリア 朝の会議



「タナカ王様にはこちらを買い取っていただきたいのですよ」


 朝の会議が始まって、冒頭に孔明が6つほど革袋を取り出した。

 石のような物がぎっしり詰まっている革袋の1つを紐を解く。

 赤い大粒の宝石が会議室の机の上にパッと広がっていった。


「おお、これは美しいですね」

 みなが口々に感嘆の声を漏らす。


 透明、青、緑、黄、紫

 残りの革袋にも色とりどりの宝石が詰まっていた。


「鑑定できる方は、鑑定してみていただけますか」


   名称:立方晶ジルコニア(赤)

   状態:瘴気(神気)封印 レベル0

   効果:武力+0


「たとえばこちらの宝石はレッドスライム1匹分の瘴気を封印しているです」

「レベル0って、効果ぜんぜん無いじゃないか」

「そしてこちらの石はスライム100匹分の瘴気を、こちらの石は豚鬼10匹分の瘴気を封印しているです。どちらもレベル1、武力+1になっているです」

 おおおお、宝石にレベリングができるってわけか。

 モンスターの強さによって獲得経験値も変わってくるわけね。


「最初に倒したモンスターによって能力の方向性が決まり、後は経験値のように瘴気を蓄積していく事ができるのです。色は混ぜ合わせる金属によって付けることができるのです。赤は武力、紫は魔力というように、6色に6つの能力を対応させているのです」


 孔明が言うには、もともと金属と瘴気(神気)との相性は悪いのだそうだ。

 封印アクセを金属で作っているのは、封印の為の魔方陣が刻めるから。

 ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネと希少性の高い金属を使うことによって高レベルの瘴気を封印していくのだが、オリハルコンまではなんとか手に入れることはできるにしても、そもそもアダマンタイトやヒヒイロカネは流通すらしていない。たとえ偶々たまたま売りに出ていたとしても金額的に手が出せるものではないのだそうだ。


 明日から始まるBOSS攻略には、是非とも高レベルの封印アクセを用意したい。

 何か代用の効くものは無いかと考えたとき、瘴気の封印と相性のいい宝石を使うのはどうかと考えた。

 こちらは直接には魔方陣が刻めない。

 ならば金属の指輪の魔方陣に工夫をして、指輪自体に瘴気を封印するのではなく、台座に嵌め込んだ宝石で瘴気を取り込むようにすればいい。

 宝石も高価だがアダマンタイトやヒヒイロカネよりは現実味がある。

 その方向で開発を進めようとした矢先にCZダイアモンドの話が出たのだ。


「この人工宝石を1つ作るのにいくらかかると思うです?」

 うーん、話の流れからすると安くはなるんだろうが、そもそも宝石の値段なんてこっちは端から知らないことだ。

「ほとんどタダなのです」

 マジですか。

「素材は通常ダンジョンでも採れますし、量産するのでしたら鉱山エリアを開放していただければいくらでも作れるのです。加工するのに2750℃に熱する必要がありますから魔素は少し消費するですが、それを考慮に入れても1ゴルドで数個作れるのです」

「安いのはいいことだ。鉱山エリアは開放するよ」

「昨日試しにBOSS以外のモンスターで封印をしてみましたら、面白い結果が出たのです。経験値のように石を育てることができるのです。高ランクにまで育てるのはおそらく途方もない数を倒さなければいけないでしょうが、これからいくらでもモンスターは狩るのです、持っていて損は無いのです。安価で生産できますから、兵士全員に配ることができるのです」


 こちらの世界って才能というか持って生まれた能力値で優劣が決まっちゃうからね。対応するスキルで+1から+10の上下はあるけれども、それだけじゃチト寂しいって思っていたんだ。石を育てる事でのレベリング。スキルと合わせて最高で20の能力値の底上げが目指せるっていうのは大きいよ。

 俺は君主だからそこまで熱心に剣術を鍛える気はないけれど、それでもいずれレベル2くらいまでは上げておいてレベル10の宝石を身に着ける。それで戦闘力が64になるのかな。そこそこ優秀だ。護身くらいはできるようになる。

 胸熱じゃないか!


「あとはこの宝石をどこまで流通させるかだよね。後々のことを考えると、武力や魔力を封じた石は我が国だけに留めておいたほうがいいだろうけど、これだけ綺麗なんだ。素の石くらいは売りに出してもいいじゃないかな。そのへんの価値はどうなの?」

 と杉原。

「元の世界ですと、天然の石では無いということで価値は全然無かったのです。いくらでも作れますし。けれどこちでは存在しないものですから、作り方を公表しなければ、そこそこの値で売れると思うのです。素材自体のポテンシャルはかなりの物ですから」

 孔明の言葉に野口が反応して、

「少しいいですか?素で売るよりは+1から+3までの効果を乗せた運の宝石だけを外に流すというのはどうでしょうかね。こちらの世界にはまだ無い物ということでしたら、発掘したときに元々運の補正効果が付いている石という事にして。『幸運を呼ぶ石』として売りに出せばかなりの高値がつくのではないでしょうか。運の封印アクセは確か30階層のBOSS、地竜を倒さなければ手に入らないということになっていますし。その大半がランク3からランク4、極まれにランク5が出来ると聞きます。+3の宝石ともなりますと宝石としてよりも付与効果の価値で一財産できるのでは?」

「そういうことも含めて、大事なのは明日のBOSS攻略と中層・下層探検だよね。レベル2や3に石を育てるのにどのくらいモンスターを倒さないとならないかも調べるとしよう。とにかく明日の攻略に間に合うように数を揃えてもらわないとだね」

「というわけですので、タナカ王様には鉱山エリアの開放と素の宝石の買い取りをお願いするです」

 富を生むかも知れない研究に資金を援助するってことだし、そこは受ける事にした。




  現状の確認



 16日目 



 人口 タナカ王国 242(177)  

    アベタカ王国 76 (69)

    冒険者    27 


 魔素残量 約2.4M(-51K)     

 瘴気残量 約1.2M(-135K)  

 残金    約26Mゴルド   

 借金    100Mゴルド

 ガンシップ  5機(修理中2機)   

 兵力 転生者     5 

    エインヘリアル21   

    タナカ王国  79(31) 

    アベタカ王国 17    

    赤薔薇傭兵団 61(59)

    冒険者(私兵)27  


 戦闘可能な人員が196人になった。

 明日のBOSS攻略には全員参加してもらうことになる。

 ここでBOSSについてだが


 10Fミノタウロスキング8PT以上 (50)

 20Fヒュドラレルネ  20PT以上(120)

 30Fアースドラゴン  50PT以上(300)


 というのが攻略の目安になる。その他5階層ごとに、


 5F  ソウルコレクター 2~3PT

 15F ビーストロード  3~4PT

 25F フェアリークィーン5~6PT


 などという中ボスもいるが、特に5Fのソールコレクターなどはアンデッドなので魔石以外に手に入る素材も無いと放置されたままなのが普通である。削るのに苦労する割に稼ぎにならない。

 今回は石を育てる目的もあるし、ウチのダンジョンは素材のしょっぱいモンスターにこそ変な気合が入っているので、途中討伐していくことになっている。

 30Fの地竜は人数的に無理そうなので、今回は29Fまでの調査を許可した。



  本日の予定



 (俺班)  ……周倉班を護衛にしてアベタカ王国の人材登用と本日オープンのチョコレート店への視察。リカリスの商店街で生活物資の購入。予備武器の購入。


 (馬謖班) ……温泉エリアの整備。居住区エリア開放のための準備。


 (アンダ班)……ゴブリンによる石の成長の調査のため3Fにて狩。


 (鬼武蔵班)……オークによる石の成長の調査のため4Fにて狩。


 (リカリス兵班)…4PTは偽城壁の制作の手伝い。4PTはリカリスの冒険者ギルドにて活動。


 (エルマ班)……5人増員し、黄皓たちが背負っているアトちゃんの世話とアベタカの作業の手伝い。


 (シオン班)……25人増員し、チョコレートの製造。


 (野口班) ……アベタカ領民を使って農地エリアの開発。


 (アベタカ班)…魔道具の作成。宝石の研究。明日の遠征の準備。


 (杉原班) ……ダンジョン業務全般と商会業務全般



 アベタカには研究費として30Mゴルド渡しておいた。足りなくなったら明確な理由を添えて請求するように言っておいたがアバウトな性格の漢だ。そのへんはナアナアでやってしまおうとするだろうから、請求関連は孔明に相談してからという事にした。

 

 マチルダが昨日に引き続き冒険者ギルドを周ってくれるらしい。傭兵団の火力が低いPTへの人員の補充と明日の遠征に参加する冒険者の募集だ。地竜の討伐に必要な人員は最低で300と言われている。普通は500人近い大所帯になるものだ。せっかくの遠征なので地竜にも挑んでみたいと考えているのだろう。


 リカリスに留め置いてある8PTは今日から半数ずつ冒険者ギルドでも活動してもらう。これは資金調達というよりは嫁探しが主な目的だ。稼ぎの方は二の次にしてピンクの掲示板を利用して冒険者から嫁を引っ張ってこいと言ってある。見事相手を見つけた者にはボーナスとホテルでの個室を約束してある。皆やる気を出していた。



 

 16日目 15:00 リカリス武防具屋


 

 

 アベタカから預かった予算内で3PTほどそれなりの兵力を増員し、装備を揃えた。

 100人の大台にのせるため残りは知力の高めの子供たちを選んで工房の手伝いをさせることとした。

 午後の作業に間に合うように一度浮島に戻ってからリカリスの高級食材を扱うフロアへと向かった。

 本日オープンした俺の店の様子見である。

 朝一からここに顔を出さなかったのには理由がある。

 客が来なかったらどうしようかと不安だったのだ。

 やきもきしながら重たい時間を過ごすのには耐えられそうにないので、店は従業員任せにしてアベタカに頼まれたお使いで時間を埋めていたのだ。

 

 店に着いたのが13時を少しまわったあたり。

 うん、俺の不安は全くの杞憂だった。

 店の前には長蛇の列ができ、まったく前に進んでいない。入り口に『入荷待ち』の張り紙が出され、扉が閉ざされていた。

 店内に入ると従業員たちがぐったりとしていた。

 先ほどまで店内は戦場のような慌ただしさだったのだそうだ。

 一昨日と昨日につくられたチョコレート、ゴブリン約1700匹分。買占めを防ぐために1人100個の購入制限をかけていたが、くる客くる客、100個100個とあっという間にハケてしまったのだそうだ。

 店の前に並んでいる商人やその奴隷たちを眺めながら、明日の朝の開店までまだずいぶん時間はあるのだから整理券でも配ってみたらと提案してみたが、何度も同じ人間が並びなおして収集が付かなくなりますよと言われた。なるほど、あちらさんたちも転売で儲けようと覚悟を決めているのだ。待つのなら待たせていてもいいということになった。

 この店の税金やら支払いやらは杉原たちに丸投げなので売り上げは全て内政資金に回していいことになっている。売上金の端数を残し170Mゴルドを今日の資金に加えた。


 残金196Mゴルド。

 馬謖くんに頼まれた生活物資を購入し、残金184Mゴルド。

 明日の遠征のための予備武器を購入し、残金164Mゴルド。

 時間は15時。

 もう一度奴隷商を周って兵力を増やしたいところだが、ここのところ急ぎで人を増やしたために預ける手が足りていない。

 アンダくんの装備をいい物にしてやるか。

 明日からの遠征、俺はアンダくんの参加に反対をしたのだが、杉原たちは「是非に」と言うし、本人も「問題ない」というものだから、押し切られてしまった。

 アンダくんは猟師としての腕は確かだが、戦闘力は極めて低いのだ。せめて武器だけでもいい物持たせてあげたいと思う。

 武防具屋の店員に店で一番いい弓を出してもらった。


 Aランク 地竜骨の弓

 Bランク オリハルコン製弓

 Bランク 世界樹の枝製弓 


 地竜骨の弓はどちらも弦に竜髭を使っているとのこと。色も白でアンダくんに似合いそうだ。値段は短弓・長弓ともに120Mゴルド。

 オリハルコン製の弓は、ないな。キンキラキンに輝いている。アンダくんには似合わない。値は10~50Mゴルド。

 世界樹の枝製の弓は、見た目は貧相だ。今アンダくんが持っている初期装備の弓よりもチャッチイ気がする。威力は雲泥の差があるのだろうが。値は30~50Mゴルド。


 さて、どうしたものか。

 使用頻度は圧倒的に短弓だから、地竜骨の短弓に世界樹の長弓の組み合わせで予算内に収めるか。けれど一発の殺傷力は長弓なんだ。ここぞというときの為に逆の組み合わせにするか。

 悩む。


 今の時間なら杉原か田原のどちらかは店に出ているハズだと、足の速い周倉くんを走らせた。

 事情を話して借金を申し込もう。後悔するよりはどちらも最高級で揃えた方がいい。


 商会から100Mゴルドを前借りし地竜骨の弓を揃えた。

 残金24Mゴルド。

 なんのかんの言っても、一番の稼ぎ頭はアンダくんなんだ。能力は低くても真面目だし、3Fのゴブリン相手なら殲滅速度は無双である。このくらいの贅沢は許されるだろう。

 12Mゴルドを払い店で一番いい矢筒も買った。Bランクの魔石が付いている物だ。Aランクの魔石が付いた物は無いのかと問うと、Bランクでも十分すぎますよと言われた。三日三晩寝ずに最高出力の矢を撃ち続けても魔力は枯れないのだそうだ。予備の魔石など必要ないですがねと言いながらオマケにBランクの魔石を1つ付けてくれた。

 残金12Mゴルド。


                                    

 19:30 温泉エリア 夕食後                  

                                    

 マチルダが補充人員3名の勧誘に成功した。 

 4組目の『アトちゃんズ』と合わせて人口が249人となった。サーニアに会うのは明日になる。

 更に明日の討伐にだけだが参加を約束してくれたPTが11組。討伐隊は総勢で289名。30Fの地竜をどうするか悩みどころだが、そこは杉原に任せることにした。20Fのヒュドラを討伐してみた感触で決めるという事になった。


 夕食後、宝石の育ち具合についての報告があった。

 まずゴブリンを担当したアンダ班、最初にスライムを1匹狩った状態から、


 ランク1 ゴブリン33匹

 ランク2 ゴブリン100匹

 ランク3 ゴブリン300匹

 ランク4 ゴブリン900匹

 ランク5 ゴブリン2700匹

 ランク6 ?(約11000匹で終了)


「おそらくランク6にするには8100匹のゴブリンが必要だったと思います。残念です。もう少しのところまでは狩ったのですが、時間が足りませんでした」

 従士役のニルくんがアンダくんに代わって報告してくれた。

 計11000匹て……アンダくん、あんた一体どんだけ狩るんだよ。

 真面目すぎるんだよね。やれって言ったらひたすら一つのことをやり続ける。明日の討伐で強いモンスターに挑んでいかないか心配だよ。引くことも知らないと。

「スライムを1EXPとしますですと、ランク10の宝石に必要なEXPはおよそ295万。ゴブリンですと98万匹なのです。途方もない数なのです」

 と、孔明。

 うん、途方もない数だけどね。アンダくんを毎日狩に行かせると3ヶ月程で達成しちゃうんだよね。そんな無理は絶対にさせないけど。

「明日無理だけはしないでくれよ」

「やるべきことをやるだけだ」

 くれぐれも無理はさせないように杉原にきっちり言い含めておかないとな。


 続いて鬼武蔵班の報告


 ランク1 オーク10匹

 ランク2 オーク30匹

 ランク3 オーク90匹

 ランク4 ?(145匹で終了)

 

「ケケケケケケケケケケッ、った。った」

 1PTでオーク150匹近く狩るっていうのは凄いことなんだろうけど、アンダくんの報告の後じゃかすんでしまうよね。短弓の連射速度は異常だ。熟練者なら1分間に30発だそうだが、アンダくんは更にスキルの速射まで持っている。倍とまではいかなくてもそれに近い連射はしているよね。

「オークのEXPは10とみていいのです」

 鬼武蔵くんの労をねぎらうために頭を「よしよし」と撫でておいた。

「ケケケケケケケケケケッ、くぅ~ん、くぅ~ん」

 ご満悦の様子だ。


 最後に孔明の報告

 結局5Fのソウルコレクターは今日の内に狩ってしまったらしい。

 明日の討伐で5Fに立ち寄らず、輸送機を使って一気に10Fまで進軍するためだそうだ。

 夕方、各フロアで狩をしていたPTに声をかけ、人数を集めての討伐となった。

「アンダさん、鬼武蔵さんにも手伝ってもらったのです」 

 瞬殺だったそうだ。

 2~3PTで1~2時間かけてやっと倒す中BOSSを瞬殺。

 さすがは神級の魔法使い。

 50人以上が決死の覚悟で挑むミノタウロスの護衛隊を1発の範囲攻撃で首チョンパする化物である。日頃はポンコツな姿しか見せないが、やるときはやるみたいだ。

「ソウルコレクターからはランク5の宝石が作れましたです。死体の方は『腐ったなめらかプリン味』でした」

 腐ってたらダメじゃん!

 まあ、何か処理をすれば食べれるようにはなるんだろうけど、そこは開発組に頑張ってもらおう。

 食べれるようになったら子供たちに振舞ってもいいし、田原の店で出すかもしれない。カフェが出来たら個数限定で出すのもいい。

 『なめらかプリン』か、俺は「プチッ」とする安っぽいのをほおばって食べるのが好きなんだけれど、なめらかなのも悪くない。子供たちも喜ぶだろう。もともとは『腐ってた』と知っているだけに俺は絶対食べないだろうけど、プリンが手に入るのは嬉しい。


 今日だけでランク5の宝石が2つにランク3の宝石が1つ。ランク1~2の宝石が相当数手に入った。能力の方向性は1Fのスライムを使って宝石の色に合わせて割り振るようにすればいいので、今日は獲得経験値の調査だけにして戦闘力を上げる赤石だけを育てた。

 ランク5の2つは周倉くんとアンダくんに渡そう。ランク3は鬼武蔵くんかな。

 これで周倉くんの戦闘力が92、化物級だ。アンダくんが戦闘力50で普通になる。鬼武蔵くんが戦闘力88でもうすぐ化物の仲間入りだ。

 本当なら鬼武蔵くんにランク5を渡すのが効率的なんだろうが、明日の討伐が心配なので保険をうたさせてもらうことにした。



 16日目 深夜 本拠地



 寝る前に本拠地でアンダくんに弓を渡した。

 表情に出さないので喜んだかどうかは分からないが、小一時間程外で弓の試し撃ちをしてきたようだ。

 その後部屋の隅で一心に弓や弦に塗料を塗っている。

「明日は大変だから早く寝ろよ」

 寝床の中から声をかけると

「問題ない」

 と一言返して作業に没頭している。

 白に白を重ね塗りしているけどなんでだ?

 更に時間をかけているので、もう一度声をかけた。

「なんで白い弓に白を塗るんだ?」

「光沢を消す」

 光沢?

「光ってると駄目なんか?」

 アンダくんは一度頷いて、また真剣な目を弓に落とした。

「敵に見つかる」

 そかそか、そういうものなのか。

 けれど早く寝なよと思っている内に、俺は意識を手放した。

 今日もよく働いたからな。        

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