第25話 内政チート② スター誕生編



  15日目 7:30 温泉エリア 朝食前



「CZダイアモンドですか?宝石関係は疎くて、私には分かりませんねえ」

「おやおや、野口さんもですか?私も門外漢でして、お役には立てもそうもないです」

「ネットで見たこととがあるかな。たしか『最高級CZダイヤモンドが84円で売られてる』とかなんとか。『偽物をプレゼントに買って1万もボッタくられた俺、オワタ』みたいな。そのくらいかな、知ってるのは。こっちでは見かけようにも、そもそもどんなのかさえ知らないよね」

 ふむ、3人ともCZダイヤモンドについては心当たりが無いようだ。

 けれど、

「はわわわわ、キュービックジルコニア!その手があったのです」

 孔明がアベタカの方に振り向く、

「立方晶ジルコニアか……いけるZE」

 アベタカの眼が輝く。

 二人は手をがっしり固く握りあってから、頷きあい、魔道具工房へと駆け出して行った。

 お~い、なにしてんだ~。もうすぐ朝食だぞ~。




  15日目 8:00 温泉エリア 朝食後


 朝食後、尻出し女ことマチルダが話しかけてきた。

 今朝は普通のビキニアーマー。

 けしかん。

 それでも動きに双丘がプルンプルンしている。

「外交官殿が言った通り、ここの食事は本当に旨いな。外ではいくら金を出してもここまでの物はまず食べられないよ」

 外交官?

 あぁ、松葉杖くんね。

 まあ、なんにせよ食事が口に合ってなによりだ。

「そこで、タナカ王にお願いがあるんだが、チョコレートと酒を少し用意してもらえないだろうか?」

「チョコは好きなだけ持っていけばいいが、酒は朝からは駄目だぞ。夜なら止めないけど」

「いや、私が飲み食いするのではなくてだな。昨日PTを再編成したところ、必要職が4人ほど足りないんだよ。今日冒険者ギルドに行って、不足人員を勧誘してこようと思うのだが、やはりここの売りは稼ぎが申し分の無いことと食事が旨いことだ。声をかけた者たちに試してもらおうと思ってだな」


 ふむふむ。

 稼ぎの方は買い取り額をリカリスの商人たちの相場に合わせているから、ギルドでの買取額の5割増しといったところだし、税の方も向こうの流浪の民の税率よりは少し優遇しているので、まだ10Fまでの下層しか開放していないとはいえ、そこそこ満足してもらえるだろう。

 まだ弱小国だから、売りが他には食べ物だけというのは寂しい話だが、ゆくゆくは流浪の民からの移民を受け入れて国を大きくしていきたい。このままでは国民の殆どが奴隷といういびつな国家が出来上がってしまう。


「不足人員の補充もだが、できればウチのダンジョンを拠点にしてくれそうなPTにも声をかけて欲しいかな。冒険者だけといわず、一般の流浪の民だって大歓迎だ」

「了解した。ただ稼げるということで冒険者には話が通し易いが、他の職の者たちは自信が無いな、正直なところ。技能を持っている者はリカリスでもそれなりの職に就いているわけだし」

 

 まあそうだろうね。

 流民になってるってことは、一度祖国が滅んでるわけだし、移住先や滞在先には慎重になるよね。ただこちらとしては小さなことからコツコツとしていくしかないからね。

 マチルダに十分な量のチョコを渡し、酒の方は野口に直接話をもっていくよう伝えた。




  15日目 9:00 朝の会議



「君たちはKDA様こと、何もわかっちゃいないんだよ。KDA様の素晴らしさはね、勝利にあるわけじゃない、勝利じゃないんだよ。絶対に勝てない敵にも立ち向かっていく、そしてキラキラと吹っ飛ばされていく姿。決して弱音を吐かず、最後にカッコよく捨て台詞をキメる。その不屈の魂。そう、敗北、敗北にこそKDA様の本当の素晴らしさがあるんだ。それを何だい、『牛王殺しの英雄』?ふざけんなっ!KDA様に勝利を期待する?そんなの本当のKDA様どうじゃないね!」

「主様、今はそんなこと論じているのではありません」

 いかんいかん。KDA様のこととなるとつい熱くなってしまった。

 それにしても昨日から馬謖くんの俺に対する態度が冷たい。心当たりは大いにあるが。


「先にも申しました通り、先日の『牛王殺し』の一件により、各所よりKDAさんにオファーが殺到しております。冒険者ギルドからは連日のBOSS攻略への参加依頼。有名商会からは店内で放送するCMへの出演依頼や看板やポスター等の制作の許可。我が国といたしましてはそれらのオファーに対してどう対応するか。その点だけ論じていただきたいのです」

 俺が熱くKDA様を語ること封じてきやがった。

 すると杉原が、

「ちょっといいかな」

 手を挙げた。

 馬謖くんがそちらに目を向け、頷く。


「僕としては、冒険者ギルドの方は断ったほうがいいと思うね。いくら多めにギャラを出すと言ってきているとは言っても、ヤツらの狙いは高ランクの封印アクセなんだろうし、他を利するために付き合ってやる義理もない。幸いウチには自前のダンジョンがあるんだし、定期的にBOSSは攻略するとして、そこで作った封印アクセは外に流さずに我が国の戦力増強にだけ役立てるべきだよ」

 杉原が周りを見渡すと、みなが頷く。

 理にかなっているので俺も頷いておいた。


「あとCMの出演の方は受けることに賛成だ。KDAさんには是非、この機会に我が国の顔になって貰いたい。なんでも冒険者ギルドが今纏めている資料映像の予約注文が殺到しているそうじゃないか。僕たちも明後日からBOSS討伐に向かうんだし、KDAさんの活躍の映像を売り出すのもいいんじゃないかな?冒険者ギルドの作るものよりも、もっと面白い冒険活劇が撮れると思うよ」

「私からもいいですか?」

 次に野口が手をあげた。

「このさいKDAさんには芸能活動に専念してもらうっていうのはどうですかね?冒険者としてダンジョンに籠るよりはよっぽど彼に合っている気がしますよ。先ほど杉原さんが冒険活劇とおっしゃいましたが、映画を撮るなんてどうでしょうか?脚本なんかは、アチラの世界で流行った物をコチラの世界で通じるように少し手直しすればいいんですよ。誰も知らないわけですし。こちらの娯楽産業に『牛王殺しの英雄』を引っ提げて殴り込みといきませんか?」


「おやおや、チートですな、銀幕のスター・チート。劇場を借りますか。もしくは映画館を作ってもいい。それならば、映画だけじゃなく演歌からヒップホップまで、歌って踊れるKDAさんなんてどうです?もちろん少し手直しして。ネタならいくらでもありますよ。KDAさんには是非、大スターになってもらって、商会から関連グッズを売り出しましょう」

 三人の商魂に火が付いたみたいだ。

 『牛王殺し』をきっかけにKDA様がスターダムにのし上がっていく……

 胸熱じゃないか。

 KDA様の知名度を使って、我が国の知名度を上げていく。いずれ多くの領民を集めるために。


 俺が大きく頷いていると、馬謖くんが

「その方針でよろしいみたいですね。それではKDAさんのマネージメントについて、私から一つ提案があります。外交力、知力等を考慮に入れまして黄皓さんの一人をマネージャーに推薦したいと思います」

 な・ん・だ・と!

 それはいかん。

 たしかに黄皓の能力は高い、しかし奴は絶対に私腹を肥やす。キラキラしたKDA様のイメージに陰鬱な影を落としてしまうじゃないか。

 馬謖くんに指名された黄皓たちは二人で頷きあって喜んでいる。既に頭の中で悪巧みをしているのかも知れない。


「それは駄目だ」

「何故でございますか?」

 馬謖くんの狙いは読める。これまでも多くの仕事を割り振られてきたんだ。これ以上仕事を増やされる前に、魔道具開発組の黄皓に仕事を押し付けてしまう腹だ。


「職種的に不向きなんじゃ……」

「職種的と言われましても……」

 さすがに本人を前にして『汚職』とか『裏金』とか『賄賂』といった言葉は使えない。まだ何も悪いことはしていなのだし。


「俺は内政部の松葉杖をついた……彼がいいと思うな。前の国では外交官をしていたそうじゃないか。適任だ」

「それは無理です。彼には今も沢山の仕事があります。主様に任された沢山の仕事が」

 大事なことなので二回言いやがった。

 冷たい馬謖くんの眼に不退転の覚悟が伺える。

 しかし、俺も引けない。KDA様に関することなんだ。

「今日七人も優秀な内政部員を増員するわけだし、KDA様のマネージメントとする部署を内政部の中に……」

「わかりました。彼を差し上げましょう」

 馬謖くんがあっさり折れた。

 これ以上仕事を増やされるよりはと、部下を一人切り捨てた。

 交渉力30しかない俺だが、KDA様への情熱のおかげで強敵を退けたのだ。

 

「ではKDAさんは商会の方で預かるとしますかね~。芸能プロダクションを立ち上げて、スタッフを揃えなければなりませんし」

 こうして『牛王殺しの英雄』KDA様の芸能活動が始まった。




 

  現状の確認



 人口 タナカ王国  176(139)

    アベタカ王国  76(69)

    冒険者     27 


 魔素残量  約2.4M(-50K)     

 瘴気残量  約1.3M(-94K)   

 残金     約237Mゴルド   

 借金      100Mゴルド

 ガンシップ   5機(修理中2機)

 兵力  転生者     5 

     エインヘリアル17

     タナカ王国  51(31)

     アベタカ王国 17

     赤薔薇傭兵団 57(55)

     冒険者(私兵)27 



 魔素の消費量が若干増えているのはアベタカに任せている魔道具の制作に魔素を消費しているためである。

 アベタカたちは結局、朝食もとらず消えたまま帰ってこない。昨日頼んでおいたLv0とLv1のマジックバッグや杉原たちが頼んだ物は納品されているので問題は無いが、作業に没頭して会議をすっぽかすのはいかがなものか。


 赤薔薇傭兵団がダンジョンでの狩に参加したため瘴気の消費量は随分と増えた。今日からは杉原たちの私兵の冒険者たちも狩に加わる。当初の予定より随分と早くログインしなくてはいけなくなりそうだ。

 現在戦闘可能な人員は163名。目標の300は無理としても、なるべくそれに近い数の兵は揃えたい。


 手持ちの資金が大幅に増えたのは無限収納内の豚肉や素材を全て商会に買い取ってもらったからだ。

 昨日よりアベタカ担当の高級豚肉店がオープンした。これからはダンジョン4Fと豚肉は完全に俺の手から離れることになる。

 俺の担当は2Fの狂狼と3Fの小鬼。チョコレート店の方は杉原たちの尽力により明日オープンの予定だ。カフェは内装を急がせるとの事だが、オープンまでにはまだ時間がかかりそうだ。




 本日の予定


 (俺班)……周倉班を護衛に付けて店舗の開店準備の視察。人材の登用。武防具の購入。


 (馬謖班)…温泉エリアの整備。居住区エリア開放に向けての準備。


 (アンダ班)…チョコレート作りの手伝い。


 (シオン班)…チョコレートの生産。


 (野口班)…アベタカ領民を使って農地エリアの開発。


 (アベタカ班)…魔道具の制作と開発。


 (杉原班)…ダンジョンでの業務全般・商会の業務全般。


 



 明後日のBOSS攻略までにリカリスに滞在させている兵たちの装備を揃える必要がある。前衛ばかりの20名なので、今後PTとしても動けるように後衛職の補充も必要だ。

 前衛の8名をタンカーにして、ヒーラー・バッファーともに8名ずつの増員。12名の遠距離アタッカーを加え8PTを編成した。彼らは全員リカリスに留め置く。購入資金41Mゴルド。宿泊費用と残金の清算約26Mゴルド。

 48名分の装備および内政官たちの簡易な武防具を揃えて約150Mゴルドの出費。

 豚肉の販売が自分の手から離れたため、明日からは直轄のチョコレートの販売から資金を得るほかない。手持ち資金が少ない為、少し勿体ない気もするがレンタルで子供たちを雇う。30名の雇用で14Mゴルドの支出。残金6Mゴルド。




  16日目 未明 白い空間


 3組目の『アトちゃんズ』とマチルダ勧誘の補充人員を加え人口が242人となった。

 いくつかの冒険者PTが活動拠点にすることを前向きに検討してくれているらしい。


「昨日ぶりアル」

 夢の中の白い空間で光に包まれながらサーニアが現れた。

「ノーマルガチャが2回引けるアルがどうするアル?」

 俺は首を横に振った。

「CZダイアモンドの事について質問なんだが……」

「CZダイアモンド?それは何アルか?」

 ん?

「サーニアがきのう最後に言っていたCZ…」

「言ってないアル」

「いやいや、サーニアが……」

「知らないアル」

 すっとぼけるつもりだな。最後のアドバイスは何らかの理由でなかったことに。

 まあ、そっちのは孔明とアベタカが工房に籠って何やらやってるようだから明日にでも確認すればいいか。

「それじゃアトちゃんについてなんだが」

「劉禅クエスト受けるアルか?」

 お決まりのやり取り。

「あれ、劉禅が居ないアル」

 はいはい。

「まあいいアル。コピーするアル」

 相変わらず軽いな。

「それじゃクエスト始めるアルよ」

「やっぱやめておくよ」

「がーんアル。今日はそろそろ時間だから帰るアル」

 サーニアの体が光りだした。

「次会えるのは領民が250人になったときだな」

「そうアル。Cランク以上確定ガチャの確認のときアル」

 今夜にでも会えるか。

 けど、そこでガチャを引いてしまうとその次会うのに100人増やさなきゃならなくなるんだよね。50人刻みでサーニアに会ってクエストをキャンセルするには領民300人にしたときにCランク以上確定ガチャを引くべきなんだ。『アトちゃんズ』を1回トクするためにも今夜も我慢だな。


「最後にこれだけは言わないといけないアル。大事なことだからよく聞くアル」

 サーニアを包む光が強くなっていく。

 さっき最後の忠告についてはすっとぼけていたが、今日も何か教えてくれるらしい。

「これはいい話アル。きっとニブルヘイムでも流行るアル」

 そう言って手にしていた本をポロリと落とした。

『ロミオとジュリエット』と表紙に書いてある。シェークスピアか!

 あらすじなら常識程度に知っているが、ちゃんと観たこと無いな。

「ああ、本棚を倒してしまったアル」

 本がバサバサ音を立てて床に落ちてくる。

『ハムレット』……これもシェークスピア。「生きるべきか死ぬべきか」なんて有名なセリフがあったやつかな。

「今日は消えるアルから、次に会うときに返すアル。忘れないで」


 サーニアが消えた白い空間の床には多くの本が散乱していた。

『オセロー』『マクベス』『リア王』……さっきのハムレットと合わせて四台悲劇ってやつだな。

『ベニスの商人』『から騒ぎ』『夏の夜の夢』……聞いたことがあるようなないような。

 他にもある多くの本の中に……ん?薄い本?

 

 こっちの『ハムレト』は総受けか……レアーティーズ×ハムレット、ホレイシオ×ハムレットひたすら受け、究極の受け。「ほう、レアーティーズは両刀使いか」と見開きのセリフ。

 薄い方の『ロミオとジュリエット』……ティボルト×ロミオ、マキューシオ×ロミオ。へたれのロミオと伊達男のティボルト、ロミオを守ろうとして死んでしまうマキューシオが萌えなのだそうだ。 


 なんだかなぁ~。

「そっちは今返すアル」

 虚空からサーニアの手が伸びてきて薄い本を回収していった。

 サーニアは腐った方の駄女神だった。

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