第24話 内政チート① 武将編


  14日目 9:00 朝の会議



「10F・BOSSの定期的な攻略に関しては賛成だよ」

 杉原がそう言ってくれるとは意外だった。

 10F護衛の無限狩で荒稼ぎをしているわけだから、BOSSを狩ってしまえば丸一日狩ができなくなる。俺はてっきり反対されるものとして聞いてみたのだ。


「これまでは戦力的に10Fで足止めを食ってたわけだし、それが先に進めるとなると、進んでみたいよ。やっぱ中層の方が魅力的だしね。商会全体の稼ぎとしては下層に留まるよりよっぽど美味しハズだ。そこで俺からもタナカさんに話があるんだけど、、いいかな?」

「はわわわわわ、ハイなのです。ダンジョンを効率的に運用する為の改造計画を提案するのです」


 孔明からの提案は次の3つ。

 先ず第一に人員や物資の輸送の効率化。各階層に輸送機を複数配置し、転移陣どうしを結ぶ。また、現在2F~4Fにだけある貯蔵庫を各階層にも設置する。

 次に簡易キャンプの設置。いずれはシフトを組み24時間体制でダンジョンを稼働させるため、各PTが数日籠れるようにしておく。

 そして最後に、杉原たちの私兵団設立の許可。


 杉原たちが使いやすいようにダンジョンに手を加えるのは賛成である。彼ら自身が身銭を切ってくれるのなら猶更だ。ただ3つ目の私兵を持つことには些かの不安を感じる。

 赤薔薇傭兵団が参入してくれてやっと杉原たちとのパワーバランスがとれたところである。彼らが今すぐに謀反を起こすとは考えられないが、力を持たせすぎるのも考え物だ。

 締め付けを厳しくしない限りは対立することもないのだろうが……

 国家運営等には直接手を貸してはくれないのだから、金儲けに専念させるしかない。

 俺は腹をくくった。

 信頼ではなく、あくまでWin-Winな関係であり続けるために、通常ダンジョンの事は彼らに任せてみることにした。

 10F・BOSSへの1STアタックは3日後ということになった。準備を整え、杉原主導で中層の探査を試みる。


 

   現状の確認

 

 人口  タナカ  149(112)

     アベタカ  76(69)

 魔素残量 約2.5M (-48K)  

 瘴気残量 約1.4M (-49K)   

 残金   約121Mゴルド  

 借金    100Mゴルド

 ガンシップ  5機(修理中2機)

 兵力 転生者     5 

    エインヘリアル13

    タナカ王国  33(13)

    アベタカ王国 17

    赤薔薇傭兵団 57(55)


 戦闘可能な人員が116人となった。瘴気が尽きる前に300人集めるという当初の目標が現実味を帯びてきたんじゃないかなと思っている。兵は順調に増えてきている。


 シオンちゃんの報告から。

 増員および工場の設置により昨日は600匹分のチョコレートの生産に成功。問題点の洗い出しにより更なる増産を目指すとのこと。


 次に野口からの報告。

 現在開放してある農地エリアは全て酒米作りに使用する予定。アベタカ領民への給与、土地の使用料などの詳細は近日中に書類に纏めて提出するとのこと。その辺の細々した事は馬謖くんに丸投げだな。ブチ切れられるだろうが。


 


 本日の予定



 (俺班)  …周倉くんを護衛につけ豚肉・チョコレートの販売と奴隷商での人材の補充。


 (馬謖班) …KDA様をサポートにつけ住環境の整備


 (アンダ班)…解体および男の子くんたちの弓の練習

 

 (シオン班)…チョコレートの生産


 (野口班) …アベタカ領民をつかって農地エリアの開発


 (アベタカ班)…孔明にサポートしてもらって魔道具の開発


 (赤薔薇班) …鬼武蔵くんたちとダンジョンへ。指示は杉原。


 (杉原班)  …ダンジョンの改造。




「タナカさんに使ってもらおうと思ってね、豚肉の解体所と店舗を用意したんだが、そっちの方はアベタカさんに任せてみない?」

「そこまでしてやる義理もないだろ」

「う~ん、アベタカさんにはそこで稼いでもらって、得意の魔道具の制作に専念してもらったほうがいいんじゃないかな。にもサポートさせてね。ゆくゆくは武器なんかも作ってもらうとして、そちらは利益を生むだろうけど、外には流さない。他国を強くするのも考え物だからね。代わりに4Fで稼いで貰おうと思うんだ。タナカさんには急ぎ別の店舗を用意するからさ。そこでチョコレートの販売するのはどうかな?」

 アベタカに魔道具の作成を勧めるというのは俺の方でも考えていたことだ。ダンジョン関連の事は全て杉原に任せるとなった以上、彼に丸投げでいいかな。赤薔薇傭兵団やアベタカの私兵たちからのMOBの買取や税の徴収といった細かい事も彼に押し付けよう。

 彼の意見を取り入れることにした。





  14日目 15:00 リカリス


 今日ここまでの収支


 豚肉の販売 300匹  約+24Mゴルド

 チョコレートの販売   約+32Mゴルド

 内政部への委託金    -30Mゴルド

 赤薔薇傭兵団へ助成金  -30Mゴルド

 コンテナの追加と製作費 -30Mゴルド    

 戦闘用奴隷購入費18人 -31Mゴルド   

 内政用奴隷購入費 5人 -6Mゴルド     

 武防具の購入      -43Mゴルド  


 残金           約5Mゴルド 



 周倉くん、鬼武蔵くん、KDA様にそれぞれ1PTずつの兵を預ける事にした。今回は戦闘力だけを重視するのではなく、職への適性も考慮に入れた。PTとして単独でダンジョン内に入ることができる編成だ。タンカー、ヒーラー、バッファーと近接火力・魔法火力の組み合わせで6人1組にしてある。

 武防具まで揃えると財布の中身が軽くなった。

 泣けた。


 


  14日目 15:00 リカリス杉原の店



 うん、杉原たちをめていた。

 奴らはマックロン商会への報復が終わるまで、奴隷商街をうろつくことを控えているので、いったいどこから人を集めて私兵団をつくるのか見物みものだと思っていた。商会の人材の登用は、キートンさんに任せているみたいだが、いくらキートンさんの交渉力が優秀とはいっても、限界はある。人物鑑定もできないし。

 

 しかし、本気になった金持ちというのは恐ろしい。

 現役のSランクPTをそっくりそのまま雇い入れてしまったのだ。

 杉原、田原、野口ともにSランクPTを1つずつ。アベタカの狩の補助にAランクPTを1つ。

 いったいどんだけ契約金払ったんだよって話だ。


 予想の遥か斜め上をいかれた。

 4PT27名。厳つい、威圧感がハンパねえ。

 杉原たち自身がチートなのに部下まで超一流とか……

 みな得意分野ではスキル込みで70台後半から80台前半の能力値。

 一人一人ならウチのNo.1、周倉くんにまだ分があるが、PTで連携されると簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。

 パワーバランスが無茶苦茶になってしまうじゃないか。

 

 私兵たちの顔見世が終わって、俺たちは高級食材等を取り扱う商業区へと向かった。

 俺のチョコレート店を開くために、テナントの下見に出たのだ。

 仕立てのいい服を着た商人たちや、品のいい奥様がた、貴族に仕えるメイドや執事といった種類の人たちとすれ違いながら目抜き通りを歩いていると、

「はわわわわわ、あそこにチョコレートが売っているです。タナカ王様、見に行きましょう」

 と孔明が駆けだした。

 ワザとらしい。科白セリフが棒読みだった。

 何か思惑があるのだろうと、仕方なくついていく。

 

 ブロックタイプの方の食品サンプルがショーウィンドウに飾ってあった。

 宝石箱のような豪華な入れ物の中央に蝋細工の茶色い塊が一粒鎮座している。

 黒い金属のプレートの上に『ムスペル産 高級菓子 チョコレート』と銀文字で書いてある。

「はわわわわわ、今話題になってまして、予約して手に入るまでに半年待ちだそうなのです」

 うん、だから科白セリフが棒だって、孔明おまえ演技下手だな。


 値段は…………

 一、十、百、千、万……

 はぁ?

 200Kゴルド?

 一粒で二十万だと……

 元々20ゴルドで売るつもりだったものが10倍の200ゴルドで引き取ってもらって喜んでいたんだ。それが商人たちの間をどう巡っていったのかは知らないが千倍の値がついている。

 ボッタクリにも程があるわ!


「タナカさん、驚いてますね」

 野口がニヤニヤしながら俺の横に立った。

「私の日本酒が店頭で売られているのを初めてみた時のことを思い出しますね」

「いくらだったんですか?」

「百二十万ゴルドでした。私は買い取り商人に一本五千ゴルドで引き取ってもらえて大満足だったんですよ。四合瓶一本で店頭に並んで一万ゴルド前後で出して貰うぐらいの物だと思ってましたからね」

「百二十万……狂ってますよね」

「そうとも言えませんよ。私の日本酒にせよタナカさんのチョコレートにせよ、もともとこちらには無かった物です。それにまだまだ供給量は少ない。ましてやチョコレートの方は南国の物、ニブルヘイムでは作れないムスペル産の触れ込みまでついている。貴族や富裕層ブルジョワはこぞって手に入れようとしますよ」

「俺は三つで100ゴルドくらいのつもりでした。スーパーやコンビニで売ってるヤツみたいな」

「それはないですね。タナカさんは自分で食べていないようですが、アレは専門店やデパートで売られてるような部類の物ですよ」

「それにしたって一粒二十万はないでしょう」

「はははは。あとはタナカさんが自分の店でいくらの値をつけるのかですね」

「ちなみに野口さんの日本酒はいくらで売ってるんですか?」

「二万ですね。こちらではウチでしか造れない。その分を含めて、私が思う適正価格の倍でおろさせて貰ってますよ。転売で今、50万くらいで出回ってますが、そちらは勝手にやってくださいと思っています」

 

 店でいくらの値をつけるかか……もともと三粒150gで100ゴルドのつもりで作った。その値にすることは今更ムリだよなぁ……人間は欲深い。600ゴルドの買取で慣れてしまった今では、それ以下の値にすることはできない。かといって六十万ゴルドとか頭の可笑しい値で売るのはもっと無理だ。さて、どうしたものか。


「庶民でもちょっと贅沢をしたいと思ったときに手が出せるくらいにしたいですね。千ゴルド。うん、三粒150gで千ゴルドでいいです。ただ店売りだけだと転売で高値がついてしまいそうなんで、店の横にカフェをつけて、そこで店売り値と同じ額で、誰でもチョコレートが楽しめるなんていうのがいいです」

 

 今はまだ供給量が圧倒的に少ないので転売で可笑しな値がついてしまう。けれどこれからは人員を増やしたり、アベタカや孔明に力を貸してもらって生産効率を上げる魔道具なんかも作ってもらうつもりだ。供給量が増えたときにも、値を下げなくていいくらいの料金設定でいいや。


「ならばそういうテナントを探しましょうか」

「はわわわわわ、カフェの方は内装に時間が少しかかってしまうですが、ちょうど良い物件に心当たりがあるのです。そちらから見に行きましょう。店舗の方はすぐにでも使えるようになると思います」

 商会の事も基本杉原たちに丸投げなんで、俺がすることは人材を増やして増産に励むことかな。





 15日目 未明 白い空間



 人口が176人になった。

 杉原たちの私兵27名に関しては、契約期間中の1年間、領内に滞在するとはいってもウチの領民になることを希望しているわけではない。だから人口にはカウントされていない。


「アイやー、タナカさん昨日ぶりアル。Dランク以上確定ガチャ引くアルか?それともノーマルガチャ引くアルか?」

「いや、Cランクまで待つよ。それとアトちゃんのことなんだが……」

「クエスト受けるアルか?……」

 サーニアはニコニコしながら虚空のどこかをゴソゴソとし始めた。

 そしてサーニアの笑顔がしだいに引きつっていく。

 仕舞った物の管理が杜撰ずさんな駄女神だ。

 残念ながらそこに昨日コピーしたアトちゃんは居ないよ。

 二人目も俺が拾った。



―――――――――――


 杉原たちとテナントを見て回った帰り道、リカリスの井戸に突進するアトちゃんを俺が無事に保護していたのだ。

『アトちゃんが2人とか、どんな罰ゲームだよ。絶対今夜付き返してやる』と浮島に帰り、森林エリアに向かうと、アトちゃんたちの様子が変わっていた。

 氏真、ジョン、黄皓の三人が覚醒していたのだ。

 キラキラしている。

 麻呂が、バカ王が、嫌味な告げ口魔が、キラキラしている。

 クエストを受けたつもりはないが、何故だ?

 たしか覚醒すると得意分野の能力値が80、その他が50になるんだったよな。

 三人のバカ面からは到底信じられないので、とりあえず氏真と周倉くんで模擬戦をさせてみた。


 戦闘力87の周倉くん VS 戦闘力80?の氏真


 氏真がどこまで粘るか見物だった。

 迫力のある周倉くんの猛攻をアホ面の氏真が器用にかわしていく。

 ボールをドリブルしながら、大鍘刀の斬撃をヒョイヒョイとすり抜けていくのだ。

 氏真もなかなかやるもんだねぇと見ていると、

「ここで決めるでおじゃる」

 氏真がシュート。

 ボールが周倉くんの顔面に直撃する。

 なぬっ!

 仰け反った周倉くんの一瞬の隙に、氏真の槍が綺麗に入る。

 周倉くんが負けただと!

 スキル:ファンタジスタLvMaxか!

 ボールを与えておくと氏真の戦闘力は90になるようだ。

 白塗りの顔は間抜けなのに、ウチで一番の使い手とは……麻呂は化物級だった。


 他の二人についても、能力は化物級になっていた。

 民主主義を認めたつもりは無いのに、ジョンはマグナ・カルタを発動させていたし、寵臣扱いをしているわけでも無いのに、黄皓は佞臣ねいしん讒言ざんげんを同時に発動させていた。


 杉原たちの戦力に脅威を感じているので強い武将は欲しい。有能な内政官もだ。黄皓はいくら交渉力があるといっても、そっちで使うと賄賂塗わいろまみれになっちゃうだろうから使えないが、知力を生かしてアベタカの助手にするにはもってこいだ。魔道具の作成の手伝いに使おう。

 この三人が各分野のエースになってしまうのは何だか釈然としないが、覚醒後の能力は侮れない。サーニアに付き返すのは保留だな。

 さて二人目のアトちゃんはどうしたものかと、とりあえず試しに本拠地に簀巻きにして放置してみたところ、Fランク武将の増殖はいくらでもデキるらしい。

 二組目の三人組が現れ、机の上に置いてあったコーラとミントタブレットで盛大に間欠泉ガイザーしてピクピクしていた。

 捕獲して森林エリアに放置すると、勝手に覚醒してくれた。

 化物級の戦闘員二人。おじゃる、おじゃる煩いが頼りになる。

 化物級の内政官二人。英語まじりの片言カタコトがうっとおしいが今の領地には必要だ。

 化物級の軍師二人。他の部下の悪口を耳元で囁かれるのは面倒くさいが我慢はできる。


 ゲームにAIの不備を突いた無限増殖なんて裏技はよくある話だが、これは駄女神の不備を突いたエインヘリアルの無限増殖だ。このくらいのチート技は使わないとこのさき生き残れないだろうし、国内に変なのが増えることにだけ我慢すればいいのだ。

 サーニアに会うたびにアトちゃんクエストをキャンセルしまくって『アトちゃんズ』を増やしていくことにするか。


―――――――――――


「あれ、おかしいアル。ちゃんと昨日仕舞ったのに居ないアル」

 焦りながらサーニアが虚空を探る。

「まあいいアル。またコピーすればいいだけアル」

 サーニアの手が光り、空中に赤ん坊の形をした白い光が集まる。

 相変わらずFランクの命が軽いな。扱いが雑すぎる。

 三人目の、おそらく今日リカリスのどこかの井戸で保護することになるアトちゃんが宙に浮いている。

「劉禅クエスト受けるアルか?」

「いや、やっぱいいわ」

「がーんアル。今日はそろそろ時間だから帰るアル」

 サーニアの体が光りだした。

「次会えるのは領民が250人になった時かな?」

「200人アル。ノーマルガチャ2回引くかどうかの確認のときアル」

 明日か明後日にもクエストをキャンセルできるのか。

「最後にこれだけは言わないといけないアル。大事なことだからよく聞くアル」

 サーニアを包む光が強くなっていく。

 間欠泉ガイザーのときみたいな忠告か?

「CZダイヤモンドはダイヤモンドじゃないアル。プレゼントに買うと馬鹿にされるアル。忘れないで」

 CZダイヤモンドが何なのかは分からないが、いちおう心に留めておこう。

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