第21話 牛王殺しの英雄

  

  13日目 11:40 某王国 通常ダンジョン


 ビキニアーマー、ビキニアーマーって一体なんなんだろう。


 マチルダさんの後に続いてダンジョンを奥へと進んでいく。

 自然に視線は彼女の褐色の臀部でんぶ、鍛え抜かれた戦士のしなやかな体のラインから流れる妖艶ようえんなプリケツをガン見してしまう。


 ビキニアーマー……防具なのだから何かを守っているのだろうが、マチルダさんの尻に食い込むたったあれだけの皮布じゃ、何が守れるというのだろうか。


 マチルダさんが走る。尻がふるふる揺れる。

 マチルダさんが止まる。尻がふるふる揺れる。


「あまりジロジロ見ないでくれ」

 マチルダさんが顔を赤くさせながらモジモジとしている。


 見るなと言ってもアンタが見せてんだから見ちゃうでしょ、普通。 


 今日のBOSS戦の為にアーマーを新調し、防具屋で「いちばん破壊力のあるのを頼む」と言ったら、こんな格好なってしまったのだそうだ。馴染みの防具屋の婆さんが親指を立てて送り出してくれたのだと。


 マチルダさんは全体に命令を出すときは勇ましいが、男と話をするのは慣れていない。

「こんなオバサンの尻など……」

 モジモジとしている。格好と表情のギャップが堪らない。

 彼女は24歳。見た目は14歳でも中身は29歳の俺からすると24歳でも、まだまだ若い。いや、女の色気はそのあたりからだと思っている。


「君からしたら見苦しい物だろうが」

 何か気の利いた返しができればいいのだが、交渉力30の俺にはハードルが高すぎる。マチルダさんの言葉に首を縦か横に振るかしかできないのがもどかしい。

 どこかできっかけを掴んで、会話を弾ませなければ。

 あれやこれや必死で考えながら、目は自然と前を行く彼女の尻に吸い込まれてしまう。



 今回のBOSS攻略戦に作戦名をつけるとしたら、

『女だらけのダンジョン攻略 ポロリもあるよ』

しかないだろう。

 本当にポロリもあるのだ。いや、ポロリだらけだ。

 これはビキニアーマー等に付与されている『タイマーパージ』機能のせいだ。

 指定した時間がくるとビキニがパージされ、なものがポロリする。

 一瞬遅れて、

「きゃ~っ」

黄色い悲鳴があがる。

 あざとい。

 だが、それがいい。

 パージから悲鳴までの一瞬、姿を現すを目視するために、男たちは周囲に全神経を張り巡らせている。

 サービス特盛の婚活PT。

 パージを推奨した冒険者ギルドの本気がうかがえる作戦である。


 しかし、そんな幸せな集団にあっても、罠は確実に存在する。

 あのピンクのフリフリ集団のドレスまで、豪快にパージされてしまうのだ。

 見たくはない。見たくはないが、男というのは悲しい生き物。

 女の服が脱げればどうしても反応してしまう。

「ぐをぉぉぉぉ」

 ジャンボな妹が悲鳴とも雄叫びともつかない大声を上げる。

 ……また見たくもない物を見てしまった。


「マチルダさんの防具にはタイマーパージは付いていないんですか?」

 話題をあれこれ考えた割にセクハラな事を聞いてしまった。

「ついている。ついているが、そこまでしなきゃ駄目なのか?」

 恥ずかしがりながらも、真剣に考えてくれている。

 その初々ういういしさが堪らない。

「いえ」

 俺は首を横に振る。

 見たいです。見たいですが、他の奴らには見せたくないです。是非二人きりの時にお願いします。

 後ろを振り向いたマチルダさんの見事なが、勢いにぷるんぷるん揺れている。しか隠していない見事なだ。

 いかん、ガン見していたら、会話が止まってしまった。


 俺たちはダンジョン4Fにさしかかった。

 先頭を進むのはマチルダさん率いるAランクPT『赤い薔薇薔薇』の美女たち。

 この集団に同行するのは、俺、松葉杖くん、一般参加者某Aくんの3名。

 男性参加者31名の中で最も幸運な3名だ。

 松葉杖くんなんかはダンジョンに入った直後から、美人のお姉さんにお姫様抱っこしてもらっている。4Fともなるともうラブラブ。ベロちゅーしたり生を揉んだりと好き放題している。

 内政官の補充は当分無しだな。明日からアイツには死ぬほど働いてもらおう。


 一定の間隔を空けて今回参加の10PTがボス部屋へと向かう。

 冒険者でない一般の参加者の何人かは、松葉杖くんのようにお姫様抱っこしてもらって、イチャラブ中だ。

 

 全体の中央にはBランクPT『URHS』……アルティメット・ロード・なんちゃら、かんちゃら……ピンクのフリフリ集団だ。会議室での男性陣振り分けで、不幸にも抽選されてしまったのは、馬謖くん、一般参加者某Bくん、某Cくん。冒険者ギルドと縁の深い商会の従業員で、社長命令で無理やり参加させられた可哀そうな人たちだ。


 ピンクのフリフリ女たちは、なぜか金色の巨大な神輿みこしを担いでいる。

 担ぎ手が揺らすより大きく神輿みこしが揺れている。

「あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝」

 神輿みこしの中から馬謖くんの悲鳴があがった。

 肌をツヤツヤさせてアントニーオが降りてくる。

 入れ替わりにジャンボな妹が入っていく。

 ゆっさゆっさと神輿が揺れる。

 誠に遺憾ではあるが、馬謖くんにはこのまま男性陣の最後の砦になっていてもらおう。

 君の死は無駄にはしない。

 

「タナカ殿のところは、腕の確かな冒険者が揃っているのだな」

 マチルダさんがハニカミながら話しかけてきた。

「あの槍の二人は相当な使い手だし」


 周倉くんは豚鬼オークを次々に吹き飛ばしている。

 どっちが化け物かわからんぞ。


 鬼武蔵くんも「ケケケケケケケケケケッ、SATUGAI、SATUGAI」といつもの奇声を発しながら、豚鬼オークを血祭にあげて大はしゃぎだ。


 KDA様は……ん、相変わらずキラキラしてるな。豚鬼オークと互角に戦っている。


「特にあの白い弓はすごい」

 うん、アンダくんは4Fくらいまでなら無敵だ。俺たちの後ろのPTにいて、現れる敵、現れる敵、見事に処理してくれている。おかげで先頭を行くマチルダさんがここまで一度もモンスターと切り結んでいない。


 いかん、何か言葉を返さなくては、会話のキャッチボールが終わってしまう。

「ケワタガモと死闘を繰り広げたくらいですからね」

「ケワタガモ?ケワタガモとは……知らないモンスターだが……」

 うん、も知らないです。

「あれほどの手練てだれが死闘だったとは、とんでもない化け物だったのだろう。後学の為にどんな化け物か詳しく教えてもらえないだろうか?」

 困ったな。せっかく話題に食いついてきたチャンスなのに。

「今は、まだ無理ですね」

「そうか……」

 マチルダさんの表情がくもった。褐色のがぷるんと揺れた。

「もしかしたら辛いことを思い出させてしまったか。すまない、謝る」

 回答を渋った訳を、何か勝手に誤解してくれている。

 マチルダさんは真面目なんだ。格好は痴女だけど。


 俺たちは下の階層までの最短距離を進んだ。

 各階層の所要時間は5分~10分。

 5Fの墓地のアンデッド、6Fの湿地のジャイアント・トード等を蹴散らした。

 5F以上は初めての俺が聞けば、マチルダさんは丁寧に各階層のモンスターについて教えてくれた。専門分野についての会話なら、彼女は饒舌じょうぜつになってくれる。トードの胃袋を傷つけないように倒す方法などレクチャーを受けながら、7F山岳地帯へ入った。


 

 大鬼オーガも周倉くんに吹き飛ばされている。

 周倉くんが肩に担いでいる女冒険者は……さらったのか?……いや、本人も喜んでいるようなので一先ひとまずは安心だ。


 鬼武蔵くんも恍惚こうこつの表情でSATUGAIを楽しんでいるようだ。

 キャーキャーと嬌声に近い声があがる。ギャルに大人気だな、鬼武蔵くん。ヤンキーとかDQNとか生き急いでる系はくっつくの早いしな。さっき冒険者ギルドでGETしたミー子とハー子も入れればハーレム一番乗りだ。うらやましくはないけれど。


 KDA様は……あっ、大鬼の金棒でカッ飛ばされた。

 空中で綺麗な放物線を描きながら、

「今日はこのへんで許してやろう。あばよ(キラリ)」

 捨て台詞を吐くKDA様もカッコいいっす。キラキラしてるっす。


「あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝」

 馬謖くん、今日は山に登れなくて無念だよね。こんどゆっくり登らせてあげるから、あと少しだけたちを守っておくれ。


 アンダくんの弓は……ここでも通用するみたいだね。

 大鬼オーガにも大丈夫と確認できただけでも収穫は大きい。

 

 山の斜面を登り始めたころ、「もう足が辛いでしょう。抱っこしましょうか?」とPTの女冒険者が申し出てくれたが、下から見上げるマチルダさんの見事な尻があるのだ。息が切れても我慢できるさ。俺の人生で初めての女性からのエロい申し出ではあったけれど、丁重にお断りさせていただいた。


大鬼オーガはどこをぎ取れば、売れるんですか?」

 肉質は小鬼ゴブとそうかわらないハズの大鬼オーガについてマチルダさんに聞いてみた。

「角と、そのアレだ……」

 マチルダさんの声が尻すぼみに小さくなった。

「アレ?」

「その、睾丸こうがんだ。強い精力剤になる。若い君には必要ないだろうが」

 はい、必要ありません。さっきからもうハチキレんばかりですから。

 真面目な痴女に『睾丸きゃんたま』と言わせて喜んでいるセクハラ親爺な俺だった。


 8Fの海岸を抜け、9Fの密林を抜けた。

 そして10Fの神殿エリア。

 転移陣を抜けた場所は広間となっていてセーフゾーンである。

 奥の大きな扉の向こうに階層BOSS、ミノタウロスキングとその護衛達が待ち構えている。

 俺たちの今日の予定だが、


11:00 会議室集合 班分け

11:15 移動開始

12:30 神殿にて昼食

15:00 BOSS戦開始

18:00 豪華ディナー

20:00 告白タイム


 と、なっている。

 昼食時間がやけに長い気がするが、食後すぐに戦闘をしてはいけない何らかの理由でもあるのかも知れない。


 BOSSの討伐時間は順調にいって90分~120分くらい。BOSSはとにかく堅く、精神力、集中力、魔力をすべて削り切ってしまわないとダメージが通らないとのことだ。最初はBOSSの防御陣の上を叩いていくことになる。たまたまBOSSの油断した場所に魔法などが直接被弾することもあるが、魔力が残っているうちはすぐに回復されてしまう。途中何度か湧く護衛達に気を付けながら根気強く削っていくほかないとのことだ。


「今回はタナカ殿のところの多くの猛者もさたちが参戦してくれているのだからな。もしかしたら1時間をきることができるかもしれない。BOSS封印アクセのランク5が狙えるかも知れないな」

 周倉くんや鬼武蔵くん、アンダくんを見渡しながら真面目な痴女さんは言った。


 ここでBOSS攻略の報酬と旨味についてだ。

 まずBOSSの素材自体が高値で取引される。ミノタウロスキングは一番弱いBOSSなので討伐機会も多く、そこまで高値はつかないが、それでも10Mゴルド前後の買値はつく。今回の参加者は女性冒険者65、男性ゲスト31の計96名。100名で概算し、およそ1人あたり100Kゴルドの報酬となる。

 

 次にこちらが本命となるのだが、BOSS封印アクセサリーの制作である。BOSS討伐は封印アクセサリーを起動し投げ込んだ時から始まる。討伐時間が早ければ早いほど、高ランクのアクセサリーが作られる。

 アクセサリーのランクがそのまま装着時の補正値となる。ミノタウロスキングのアクセは武力補正なので近接職なら是非とも欲しい装備だ。

 ぐだぐだの討伐で、2時間以上かかってもランク1やランク2のアクセサリーになる。もちろんこれらは安い。ランク1で1Mゴルド、ランク2で2Mゴルド、ランク3で6Mゴルド、ランク4で24Mゴルドと希少性が上がれば値はどんどん上がっていく。

 ランク3とランク4の分水嶺は90分を切るかどうか。

 ランク4とランク5の分水嶺は60分を切るかどうか。

 今回用意されているのは素材がミスリルのリングなのでランク5までしか封印できない。

 封印上限はミスリルリングで5、ネックレスで6、バングルで7

 オリハルコンリングで6、ネックレスで7、バングルで8

 素材と形状(金属の使用量)で封印上限は決まる。

 ミスリル以上の素材、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネは素材自体が希少すぎて、リングをつくるのでさえとんでもない金額となる。少人数の討伐で用意する物ではない。


「今回は我々AランクPTの赤い薔薇薔薇が討伐を指揮するからな。あと火力だけならAランク相当のURHSなんかもいる。90分は切れると見込んで保険でミスリルリングを用意しておいたんだ。男性参加者がここまで強いというのは嬉しい誤算だ。これならランク4ではなくランク5を狙えるかも知れない。白金でなくミスリルで用意しておいてよかったよ」

 白金とミスリルでは素材の価格はたいして変わらない。ミスリルの方がやや高いくらいのものだ。

 ランク5で120Mゴルドくらいの取引価格。

 狙えるなら狙ってみたいところである。


 ちなみにこれまで確認されている最高のランクは7である。これは30FのBOSSを討伐するための500人編成のPTが途中10Fを通った時に手に入れたものだ。討伐時間14分。人数が多くなってもBOSSを取り囲める者の数は変わらない。多くの近接職があぶれてしまう感じかな。後衛の魔法職、弓職などの火力で押し切る攻略となった。

 ランク7のミスリルバングルはオークションで約5Gゴルドの値が付いたということだ。


 同じく500人編成のPTが20分前後で討伐することはよくあることで、ランクは6、これは720Mゴルド前後で取引されるらしい。

 まとめると


ランク 価格(単位M) 討伐時間


R1:1 150min R2:2 120min

R3:6 90min  R4:24 60min

R5:120 30min R6:720 15min

R7:5040 


 金属の希少性と封印上限


銅(1)<<銀(2)<<金(3)

<白金(4)<ミスリル(5)<<

オリハルコン(6)<<<アダマンタイト(7)

<<<<ヒヒイロカネ(8)


 アクセサリーの形状と封印上限補正

  

リング(0)ネックレス(+1)バングル(+2)





   13日目 13:30 ダンジョン10F神殿



 あ~幸せだ。

 俺は今、マチルダさんに膝枕をしてもらって、うとうととしている。

 昼食の時間が2時間30分も用意されていたのはなんのことはない。親睦を深める時間をたっぷりとっていただけのことだ。

 12時半に神殿に到着して、マチルダさんの指示のもとテキパキとバーベキューの準備をした。女冒険者が65人もいたんだから、鉄板の設置から、道中狩ってきた材料の解体、そして調理などはあっという間に終わった。

 食事を終え、それぞれが今回の遠征の本来の目的、婚活を始めたってわけだ。

 

 俺はマチルダさんの太ももに頭を預けながら、ぼんやり神殿の中を眺めている。


 周倉くんは相手を1人に決めたようだね。

 肩に担いで神殿の奥に消えていった。


 鬼武蔵くんはギャルたちにモテモテだ。

「ケケケケケケケケケケッ、殺す、殺す」

 と言いながら、こちらもまた神殿の奥に消えていった。


 KDA様はみんなのアイドルだ。

「俺に惚れたら、火傷するぜ」

 ファンの女たちにキャーキャー言われながら神殿内を走り回っている。


 馬謖くんは、……さっきまでピンクのフリフリ軍団にかしずかれて、うつろな目をしながら食事を食べさせてもらっていたが、また金の神輿みこしに引きり込まれちゃったね。

「あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝ あ˝」

 第二ラウンドが始まったようだ。


 他の参加者たちもそれぞれ、意中の相手とお近づきになろうと、そこら中で集団を作っている。

 松葉杖くんもさっきの美女と神殿の奥へ消えていった。さっきは腹が立ったけどね。今は皆の幸せを、ただ祝福してあげたい気分だ。

 マチルダさんの膝枕で、俺はいま世界一の幸せ者なんだから。


 アンダくんは俺の傍に控えている。

 アンダくんもモテモテだ。美少年にしてあげたからね。

 自分が元々いたPTから3人と、そして赤い薔薇薔薇のまだ相手が決まっていないお姉さま方に囲まれて、いろいろ質問を受けている。

 アンダくんは無口だからね、一言も喋らないけれど、質問には頷いたり首を振ったりしている。


 ときおり目の前の女性冒険者のビキニアーマーがパージする。

 俺の視力は瞬時に3倍に跳ね上がるけれど、アンダくんは物静に、平常運転のアンダくんだ。

「わ、わ、私も、パ、パ、パ、パージさせるべきかな?」

 マチルダさんが恥じらいながら聞いて来る。

 いえ、いえ結構です。膝の上から眺め上げる立派な下乳だけで俺は満足ですよ。山頂はいずれ二人きりの時に、たっぷりお願いしますね。


 10Fまで走りきった疲れと、満腹のせいで少し眠いや。

 マチルダさんの膝の上で、俺はうとうとと微睡まどろんでいる。

 幸福に包まれながら。




   13日目 15:00 ミノタウロスキング前


 

「てめえら、タイマーパージは解除したか?」

 マチルダさんの問いかけに、女兵士たちはみな無言で頷く。

 戦闘中にポロリなんてしたら、集中力を欠いて危ないもんね。

 俺たちは今、神殿の扉を抜けて、ミノタウロスキングの玉座の間にいる。

 ここは岩石がむき出しの広い空間だ。

 大鬼以上の巨体、4m近い筋肉ムキムキの牛男の衛兵ミノタウロス30体の向こうに、さらに大きな、6mを超える牛王ミノキンが鎮座している。

 デカい、ヤバい、怖い。

 すごい迫力だ。


 今回参加の10PTは中央に『赤い薔薇薔薇』と『URHS』、その両翼に4PTずつ、牛男ミノの衛兵とにらみ合うように展開している。

 各PTの隙間に周倉くんや鬼武蔵くん、KDA様やの馬謖くん、俺の国の13人の屈強な兵たちが槍を構えて臨戦態勢に入っている。

 俺と文官たちは『赤い薔薇薔薇』の最後尾、他の一般の参加者も各PTの後ろにくっついている。

 アンダくんは俺の後ろで弓を構え、静かにしている。


 あと数歩まえに進めば、衛兵たちが襲い掛かってくる。

 衛兵を速やかに排除し、封印のリングを牛王に投げ込んで牛王の削りに入る流れだ。

 

「10……9……8……7……」

 マチルダさんがカウントダウンを始めた。

 戦闘に参加しないとはいえ、心臓がドキドキとし始めた。


「6……5……4……」

 口の中が乾く。


「3……2……1……0、いけぇぇぇ!」


 突撃の合図に全軍が一気に動き出す。

 詠唱を終わらせて待機してあった魔方陣が一斉に火をふく。

 多くの矢が放たれる。

 反応した牛男たちの眼がギロリと光る。

 手にした大斧バトルアックスを振りかぶり、こちらに駆けだそうとしている。

 

 激しい衝突を覚悟し、奥歯を強く噛み締めた。

 が、はいぃ?

 

 なんかパタパタと牛男たちが倒れていくんですけど……

 魔法でであろうか、それとも弓矢でであろうか。

 とにかく呆気なく、こちらの前衛と接触することなく、

 全滅しちゃったんですけど……


 そういやここって杉原と孔明の二人だけで範囲狩してたとこだよな。

 こんな大人数要らなかったんじゃ……

 なんか拍子抜けしちゃったよ。


 辺りは変な静寂に包まれていた。

 先陣を切って駆け込んでいったマチルダさんが振り向いて口をパクパクさせている。

 振り向いた勢いで、がプルンプルンしている。

 いつのまにパージしたのか全裸のアントニーオが口をポカンと開けている。

 参加している65名の女冒険者たち全員が同じだ。

 みな何が起こったのか理解が追い付かないようだ。

 ただ辺りをキョロキョロしている。


 BOSSは?手早くBOSS攻略しなくていいの?

 疑問には思ったが聞ける雰囲気でもない。

 皆が皆、頭の上に「?」を浮かべている状態だったのだ。


「やいてめえ、デケえツラしてんなぁ?何ちゅう出身ようぉ?」

 あ、KDA様が牛王キングと一騎打ち始めちゃった。まあ即死しないし、いいか。キラキラと吹っ飛ばされるところ見たいし。

「俺様はタナカ王国にその人ありと言われた万夫不当の荒武者、ニゴウ・モブオ様よぉ!主からはKDAの名を戴いた。いざ、尋常に勝負しやがれっ!」

 KDA様が牛王に向かって一騎駆けしていく。キラキラしている。


 茫然としていたマチルダさんが、慌てて封印のリングを牛王に向かって投げる。

 牛王は左手を地面につき、のぞき込むような格好で右手に持つ大斧バトルアックスを振りかぶってKDA様を迎え撃つ。


 KDA様が牛王の頭に向かって大きくジャンプする。

 そのとき俺は右頬をかすめる疾風のようなものを感じた。

 振り向くとアンダくんが静かにたたずんでいる。


 アンダくん、そこに居たんだね。危ないから後ろにいようね。


 あっ、マズい。KDA様がカッ飛ばされてキラキラする瞬間を見逃しちゃうところだった。

 前を向きなおすと、今まさに決定的瞬間。

 ジャンプしたKDA様が大斧バトルアックスを力いっぱい振りぬいた。


 スコッ!


 当然届くわけもなく空振りだよね。でもKDA様の空振りはキラキラしている。

 今度は振りかぶった牛王がKDA様をカッ飛ばそうと大斧バトルアックスを繰り出す。


 ポロリ……


 なぜか牛王が大斧を手から落としてしまった。

 白目をむいて、魂が抜けたように牛王が崩れ落ちていく。


 はぁ?


 放物線を描いて落下していくKDA様が、前に倒れ込んでくる牛王の肩に着地する。

 空振りだよね、さっきのKDA様の攻撃、空振りだよね?

 なんで牛王の眉間に風穴が開いてるの?

 大斧振りぬいたのになんで穴が開くの?

 何が起こっているのか誰も理解が追い付いていない。

 封印のリングとKDA様だけがキラキラしていた。



「万夫不当の荒武者が、ミノタウロスキング打ち取ったりぃぃぃ!」

 KDA様が勝鬨かちどきをあげる。


 一瞬だけ間が空いて、「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」皆が口々に歓声をあげた。


「牛王殺し」

「牛王殺しだ」

「牛王殺しの英雄だ」

「キャー、KDAさま~こっちむいて~」

「万夫不当の荒武者さま~」

「ニゴウさま、かっこいいぃぃぃ」

「KDAさま抱いてぇ~」

「馬謖さま大好きじゃぁぁ~ふぁっく、ふぁっく」

 辺りを熱狂が支配した。


 みながキラキラ光るKDA様を称える中、マチルダさんだけが

「開始数秒で討伐だと!ランク7、いや、前人未到のランク10だっていけたんじゃ……、ミスリルリングだぞ。ランク5、ランク5までしか……なぜこんな時に瞬殺なんだぁぁぁ……」

 頭を抱えしゃがみ込んでしまった。

 連合指揮官さんも大変だね。


 こうして俺の初BOSS攻略戦は呆気あっけなく終わったんだ。

 『牛王殺しの英雄』KDA様の名をニブルヘイムの歴史に刻んで。

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