第20話 冒険者ギルド



 馬謖くん曰く、

「女ですか?……女なんて……ふっ」

おーい馬謖くーん、過去に何があったー。なぜ遠い目をしているー?


 周倉くん曰く、

「女ですか?必要なら今すぐさらってきますぜ」

周倉くん、君は忠義者だけど、ときどき発想が山賊だから……


 鬼武蔵くん曰く、

「ケケケケケケケケケケケッ、殺すやる犯すやる?」

やめてね、どっちもダメだからね。


 KDA様曰く、

「女か、一度れてみたいものだ。いつも先に惚れられちまう」

カッコいいっす!キラキラしてるっす。


 アンダくん曰く、

「まだ早い」

うん、そうだね。まだ早いね。



 なぜこんな会話を部下たちとしたかというと、いまウチの領民の男女比がエライことになろうとしている。男女比3:1で、しかも大人の女性が1人もいないのだ。

 戦争奴隷を集めて兵団を作ろうって言うのだから男にかたよっちゃうのは仕方がない。

 孤児奴隷の方はチョコレートの製造なんかもあるので女の子を多めにとっているけど、成人の15歳になるまで、まだ何年もかかる。

 美女といえば、前世がおとこだが、孔明、関羽、張飛。しかしコイツらは主人といつもイチャイチャ、イチャイチャ。人目も全く気にしない。おまけに昨日からアベタカ王国なんていう夜な夜な怪しい儀式をする色ボケ集団まで抱え込んでしまったんだ。

 マズい。非常にマズい。

 問題がおこってからでは遅すぎるのだ。

 そこで俺は孔明先生に相談し、策を1つ授けてもらった。

 名付けて『冒険者ギルドで女冒険者を狩るぜナンパ』作戦である。

 アドバイザーはこの道の先人、耳デカ美少年こと劉備玄徳である。

 決戦の刻は来た。




  13日目 9:00 朝の会議


 現状の確認


 人口 タナカ王国  89(52)

    アベタカ王国 69

 魔素残量 約2.5M(-43K)

 瘴気残量 約1.4M(-171K)

 残金   約 61Mゴルド

 借金    100Mゴルド 

 ガンシップ 5機(修理中2機)

 兵力  転生者      5 

     エインヘリアル 10

      タナカ王国  33(13)

      アベタカ王国 17


 コンテナ使用状況 

   加工済み     33

   未加工      30

   住居       27   

   内政執務室     1

   チョコレート工場  2

   脱衣所       3 


 

 馬謖くんの報告から。

 昨日受け入れた兵20名と内政官3名は1泊20Kゴルドの宿(朝夕食付き)に1か月滞在させることになった。冒険者用の安宿なら大部屋素泊まりで1泊2Kゴルドくらいからある。1泊20Kゴルドといえば最高級とまではいかなくても、上質な生活環境は提供できるとのことだ。宿と交渉し昼食の簡単な弁当を付けてもらうことになっている。各人には日に4Kゴルドの手当てを与え、問題を起こさない限りは飲酒の許可も与えている。1日の経費552Kゴルド。1か月で16.56Mゴルドの支出予定である。手付に1週間分は支払い済み。

 温泉エリアの開発の方は、コンテナ3つを使いチョコレート工場と内政執務室を完成させた。

 昨夜、断崖絶壁を登りながら、「タナカ王のオニ、アホ、ハゲ」と馬謖くんが泣き叫んでいたことは見なかったことにしておこう。何もかも馬謖くんに丸投げの俺が悪いのだ。今後も彼だけは俺の陰口を言っていても気にするなと領民には伝えておいた。


 次にアンダくんに代わりニルくんからの報告。

 マジックバックと貯蔵庫の相乗効果で昨日の狩はサクサク進んだとのこと。

 4つある貯蔵庫の全てを満タンまでモンスターを狩ったと誇らしげであった。

 なめていた。アンダくんの殲滅力をなめていた。俺と二人きりで回収を待ちながらでもあれだけ豚鬼を狩った彼である。ましてや今回は多くのポーターを連れ、鬼武蔵くんなんていう殲滅者まで同行していたのだ。この調子で狩を続けられても処理しきれないし、瘴気があっという間に枯渇してしまう。ちなみに昨日は杉原たちはダンジョンに入っていない。アンダくんたちだけで171Kの瘴気の消費だ。低レベルのモンスター限定ならばアンダくんは無敵だ。

 

 続いてシオンちゃんからの報告。

 ようやくチョコレート作りのコツもわかり、昨日はゴブリン95匹分のチョコレートを生産してくれたとのこと。材料が切れなければもっと作れたと残念がっていた。工場もできたし、人員も今日から5人増える。材料も昨日の狩で貯蔵庫にあふれている。さらなる増産が期待できる。


 最後に杉原からの報告。

 昨日捕らえた盗賊ギルドの職員は、空間収納の中に分解した発信器を持っていたとのこと。分解されていては安物のセンサーには引っかからないわけだ。

 マックロン商会に引導を渡すため、キートン先生に動いてもらっているそうだ。役人に根回しをし外堀から埋めていく。最後に一芝居打つときの手伝いをお願いされた。

 


  本日の行動予定


 (俺班)…アンダくん、馬謖くん、周倉くん、鬼武蔵くん、KAD様そして13名の従士と2名の内政官を連れて決戦の地へ。


 (エルマ班)…アトちゃんの子守(2人)、家事諸々

 

 (シオン班)…本格的なチョコレートの生産(13人)

 

 (ニル班)…解体作業とシオン班の手伝い(8人) 

 

 (アベ領民)…新たに増設する農業エリアで農作業

 

 (杉原班)…狩およびリカリスの店舗仕事(25人)


 アベタカと劉備、そして17人の兵士たちは4Fでの狩を希望してきた。それはいい、それはいいのだが、問題は50人もいる領民の方だ。チョコレート作りには参加させたくないし、温泉エリアを開発させようにも、今日は馬謖くんたち内政官が全員狩りに出払ってしまう。いろいろ考えた挙句、いつか開放しなくちゃと思っていた農業エリアを開放することにした。農業の適性を持つ者も混ざっているし。

 何を作るかを皆に相談すると、野口から米を作ってほしいと要望があった。

「淡麗辛口な酒も造ってみたいんですよ。四百九十九万石を栽培させてもらいたい」

 野口が協力してくれるのなら任せてみようと思う。開放だけして丸投げでいい。




   13日目 9:30 リカリス冒険者ギルド

 

 冒険者ギルドの扉をくぐると、中の酒場から好奇の目が一斉に俺に注がれた。

 ……見ない顔だな

 ……新人か?

 続いてアンダくんが扉をくぐる。

 ……まだガキじゃねえか。

 ……あぁら、可愛い僕ちゃんじゃない。

 荒くれ者たちが互いに目配せをする。無言の会話。

 ……おい、誰が行く。

 ……おまえ行けよ。

 優男やさおとこの馬謖くんが扉をくぐる。

 一人の荒くれ者が立ち上がり、動こうとした他の者たちの動きをおさえる。

 ……ここの流儀は、俺がきっちり教えてやるよ

 ……あまり僕ちゃんたちをイジメないでね

 ……まぁ、ほどほどにな

 値踏みするような目でうかがいながらこちらにゆっくり歩いて来る男。

 巨漢の周倉くんが扉をくぐる。

 ……な?

 ニヤニヤしていた男の笑いが凍る。

 「ケケケケケケケケケケケッ、殺す、殺す」

 異様な殺気を放って鬼武蔵くんが扉をくぐる。

 男の足がすくむ。

 「死にたい奴から前に出てこい」

 KDA様がキラキラしながら登場する。

 男の動きが完全にとまった。

 その後に続く屈強なつわもの、兵、兵、兵……兵が13人。

 腰を抜かした男が顔を引きつらせながら後ずさっていく。

 最後に包帯で腕をった文官と松葉杖の文官がおまけで扉をくぐる。

 

 うん、このメンツだとお決まりテンプレ展開は絶対無いよな。

 俺とアンダくんだけなら絡まれてただろうけど。


 受付でお姉さんの胸の谷間をチラチラ見ながら登録を済ませると、

「もうすぐBランクの僕がわざわざ試験官をしてあげるんだ。あまりお粗末な腕で、僕を失望させないでくれたまえ」

 両手に頭の温そうな女たちを抱きながらパツ金の剣士くんが現れた。

 武力63、剣術レベル4で戦闘力67。

 惜しい、ウチではギリギリ雇わないレベルだ。

 試験は馬謖くん戦闘力74からでいいかな。


 地下の練習場での実技試験が始まった。

 もうすぐBランクくんは、めてかかった馬謖くんに返り討ちにされ、戦闘力87の周倉くんに軽くブン投げられ、戦闘力85の鬼武蔵くんに地面に大の字に転がされて、手を広げてナイフで突くアレみたいに、手足の隙間を槍で滅多刺しされていた。

 Bくん、ここで戦意喪失。

 股間をぐっしょり濡らしている。

 「ケケケケケケケケケケケッ、百回殺した、百回殺した」

 うん、エライ、エライ。言いつけを守って、本当には殺さなかったんだね。

 「おまえ、どこ中出身よぉ?」

 キラキラ輝くKDA様にBくんは土下座、

 続く兵たちにもひたすら土下座、

 俺やアンダくん、怪我人の文官たちにも土下座、土下座で試験は終わった。

 かくして完全勝利の俺たちはFランクではなくEランクからの登録となった。

 さて本命の狩りにナンパ出かけますか。

 

 「ケケケケケケケケケケケッ、今から殺してくる、殺してくる」

 鬼武蔵くんが何処かにしけこもうとしている。

 さっきのBくんの女たちを両手に抱いて、もう既に任務完了ミッションコンプリートしてる。

 だが、俺たちの本当の戦いはこれからなのだ。



 13日目 10:45 リカリス冒険者ギルド受付



「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 胸の谷間をチラチラ盗み見ながら、俺はピンクの掲示板を指さした。

 

 クエストを張り出したいくつかの掲示板の中で、ひときわ目を引くピンクの掲示板。

 通称:ダンコンPT掲示板


 耳デカ美少年情報では、冒険者なんてやくざな仕事は、流れ者、流浪の民の仕事だそうだ。

 で、男の冒険者はまだいい。いっぱし稼げるようになったら、よそ者だろうと引く手は数多あまたある。この世界は戦争続きで男の数が少ない。だから稼ぎさえあれば家庭は持てる。

 けれど、悲惨なのは女の冒険者である。生きていくために冒険者になって、いっぱし稼げるようになった時には行き遅れ。こっちの結婚適齢期って15歳とかだから、一人前の冒険者になったころには、立派なオバサンだ。

 冒険者ギルドの方も、そこんとこ何とかしたいって力入れてるらしい。戦うことしか知らない女冒険者たちに、出会いの場を提供したいのだそうだ。そこで生まれたのがピンクの掲示板。女冒険者がクエストを選択し、男性参加者を募集する。ぶっちゃけ男の方は戦えなくてもいいのだ。冒険者ですらなくてもいい。一緒の時間をすごしてお互いの親睦を深めあうためのクエスト。ダンジョンを舞台にした一種の合コンみたいなものだ。


 耳デカ美少年はそこで女冒険者をスカウトしてきた。だから俺たちもってわけだ。まあ、さっき冒険者に登録したのは、せっかく冒険者ギルドに来たんだからって記念にと登録してみただけなんだ。



「女性PTにゲスト参加希望ですね。あの、皆さまですか?」

俺たち21人は希望に胸を膨らませながら頷いた。

「人数はこちらで割り振りますから、オススメをいくつか紹介してください」

受付嬢は、時計をチラチラ見ながら、

「ご協力ありがとうございます。あの、それでしたら、本日11時集合の婚活BOSS攻略クエストなどいかがでしょう?少々危険ではございますが」

気になることをいった。

「婚活BOSS攻略クエストとは?」

「本日我がリカリス冒険者ギルドと提携をむすんでおります、とある王国で、10階BOSS、ミノタウロスキングの討伐がございます」

 200年以上夜の世界に居座ってるリカリスには瘴気なんてものは無い。リカリスのダンジョン自体は枯れている。で、自力でダンジョンを攻略できない小国のダンジョン掃除に冒険者を派遣しているわけだ。

 今日は10階BOSSの攻略を女性PTだけで予定していた。そこに男性(冒険者でなくてもよい)をゲスト参加させて、親睦を深めようというのだ。豪華ディナーの打ち上げまで付いて来る。報酬均等割、打ち上げ費用女性持ちで、男性参加費無料のお見合いパーティーみたいな企画だ。

 

 俺は後ろを振り返る。

 皆が力強く頷く。

「ケケケケケケケケケケケッ、牛殺す、牛殺す」

 鬼武蔵くんも頷く。両手に抱えた女たちの肌がツヤツヤしている。さっきトイレにしけこんだ時だな。

 

 受付嬢に説明を受けてから、録画用の水晶と警報ブザーの魔道具を渡された。危機を回避するための物なのだが、なんでもモンスターからの危機というよりも女性冒険者からの危機を周りに知らせるための物らしい。

 ん?

「蜜蜂の巣に手を突っ込むような真似はしないようにお願いします。心に大きな傷をうけますよ。自分を守るのは最後は自分です。人目のないところに一人で居るような迂闊うかつな真似はしないようお願いします。くれぐれも、引きり込まれないように」

 なんか必死に訴えかけてくるんですけど。

 とにかく時間も差し迫っていることだし、集合場所の会議室へと俺たちは急いだ。


   13日目 冒険者ギルド会議室


 2Fの会議場へと向かう階段をのぼっていると、

「戦争奴隷になったときは、もう人生を諦めていましたからね。まさかこんな日がくるとは思っておりませんでした」

 感無量という感じで松葉杖の方の内政官が話しかけてきた。

 今朝、さすがにその足では参加は無理だろうと、一人だけお留守番を言い渡そうとしたら、必死の形相で訴えかけてきた。今日連れて行ってくれるなら、明日からのどんな激務にだって耐え抜いてみせると。

 馬謖くんはじめ内政官の人たちには、奥向きの細々ほそぼそしたことやなんかも全部丸投げにしてるからね。負担をいている。申し訳ないことだし、明日にでも人員を増やすか。

「魔神様には本当に感謝しております。生涯の忠誠を誓います」

 ナンパに連れてったくらいで誓われる生涯の忠誠っていうのも安っぽいけどね。


 会議室の扉をあけると、そこは女たちの戦場だった。

 一言でいうと、エロい。

 極めて、エロい。

 室内にいるおよそ60名の女たちはみな、戦闘服を身につけている。モンスターと戦うためのではない。女どうしの戦いに勝ち抜くためのだ。

 近接物理職のお姉さま方は、ギリギリのビキニアーマー。半乳、半ケツ当たり前。

 盗賊だろうか、軽装の女たちは、パンツ丸出しの超ミニミニ、レザーのスカート。ギャルだ、ギャル。パンツに気合が入ってる。勝負パンツだ。

 神官職はどこでどうやって手に入れたのか、スケスケの聖法衣。雨に濡らしてみてぇ~。

 魔法職は極限までスリットの入った、えろえろローブ。

 PT毎にであろう、6~8人ずつ固まっている。そんな集団が9つ。

 1つの集団には1人2人、華やかな美女がいて、あとは普通、もしくは残念。

 みんな仲間内で和やかに談笑しているが、意識は明らかにこちらに向いている。

 ロックオンされている。

 狩りに来たつもりが、俺たちは狩られる側だったのだ。


 会議室中央にヤバい奴らがいる。

 あのPTは危険だ。

 PTのリーダーだろう。何かの道を極めた学校の生徒会役員のような、アントニーオな巨大な女。

「ふぁっく、ふぁっく」

と呟いている。スキル込みで戦闘力74。

 サブリーダーだろう。リーダの横に控えているのは、歌の下手な番長の妹みたいなジャンボな女。スキル込みで戦闘力71。

 他のメンバーも軒並み戦闘力が高い謎のクリーチャーだ。

 それがみな、ピンクのフリフリのドレスアーマー、ドレスローブを着ている。

 怖い。

 非常に怖い。

 ロックオンされている。身動きがとれない。

 あの集団には引き摺り込まれないように注意しなくては。


 俺たち21人が会議室に入ると、部屋の隅に固まって震えていた他の男性参加者たち10人がこちらに近づいてきた。安堵の表情を浮かべている。

 嫁を連れて帰って来いと親に無理やり参加させられた小太りの青年が、

「10FのBOSS戦はまだ日帰りですから、夜襲われることはありません。けれど、中にはもう結婚は諦めて、子種だけ奪っていこうと行動に出る怖い集団もいると聞きます。とにかく、男性どうしは協力しあって、互いを守りましょう。生きて帰りましょう」

と提案してきた。

 うん、生きて帰ろうね。アントニーオ怖いし。


 会議室の奥の扉が勢いよく開いて、ひときわ華やかな美女の一団が室内に入ってきた。

「今回この作戦の指揮をとる、AランクPT『赤い薔薇薔薇バラバラ』のマチルダだ。低層とはいえこれからBOSS戦なんだ。てめえら、あんま浮かれすぎて、命落とすんじゃねぞ」

 褐色の引き締まった体に、ぷるんぷるんの双丘。

 スキル込みで戦闘力79。

 もう局部しか隠していないTバックのビキニアーマー。

 PTの名前通り、言動がバラバラだ。

 一番浮かれちゃっているエロエロ美女が、そこにいた。 

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