第10話 集う英雄たち


  8日目 21:00 本拠地前



「いや~、タナカさん、助かりました~」


 キラキラ眩しい白い歯をみせて笑っているのが、杉原さん。こちらでの名前もあるんだけど、同じ元日本人同士でそれを使うのは恥ずかしいとのことで、俺たちの間では田中・杉原で呼び合うことになった。ボーナスポイント武力全振り。物理戦闘系のチート持ち。今朝、私掠空賊団に滅ぼされホヤホヤの元君主である。


「はわわわわわ、あのままでしたら食料が尽きて、ご主人様と一緒に天に召されるところでした。ガンシップの魔素も残り僅かで、身動きとれなかったです。本当にありがとうございました」

 この、はわわ、はわわ言ってるのが、ヘスティアタマキ・ポプラチサ・ミクルヒマワリ・リセアイリ。

 寿限無みたいな名前だが、杉原さんのような男たちの夢が詰まった名前なのだそうだ。

 元天才軍師のなれの果てだ。

「いや~、といちゃいちゃしてたら、危うく死ぬところでした~」

 死ねばよかったのに。



 さて、この無駄にスペックだけ高い残念な人たちをどうしたものか。

 元孔明先生の知略、杉原さんの物理攻撃力は魅力だ。

 だが俺とアンダくんで御しきれるのか?

 謀反とか起こされたら絶対負ける。

 明日どこかの交易都市に出向くから、そこで別れるか?

 無難といえば、それが無難だ。

 でもせっかくの有為の人材をみすみす手放すのか…………

 こんなとき、俺とアンダくんのコミュ力のなさが悔やまれる。



 けっきょく何も決められないまま、俺はアンダくんを本拠地に戻し、操舵を任せた。

 もう少し話をしてみてからでいいだろう。

「これまで何してきたんですか?」

「これまでしてきました~」

 黙れ!そして死ね。


「はわわわわ、ご主人様はずかしいです~」

 お前、もとおとこだろ!孔明。


「いや、国の運営とかですね」

「ああ、なんだそんなことか~」

 そんなことって、お前いつもどんなこと考えてんだよ。



 俺は杉原さんが君主としてなにをし、何を間違ったか知りたかった。だから、ともすれば下ネタに走ってしまう彼に、根気強く質問を続けた。

 彼の話はこうだ。


 杉原さんは俺よりも2週間前に召喚された。

 サーニアとは別の、サーニアと志を同じくする神によって祝福を受ける。

 この世界に来て数日で杉原さんと孔明は効率の良い稼ぎ方に気付く。ここは何をしたかは具体的には教えてくれなかったが、彼らはそこで得た資金で交易都市リカリスに自分たちの店を構えた。

  彼らは商売で上げた利益によって、奴隷を200人を買い。祝福ガチャによって更に2人の新たな部下を得た。全てが順調にまわり始めたと思ったとき、ロエト帝国の私掠海賊団と遭遇し、本拠地を占拠されてしまったというのである。



「204人ですか……全部で……204人いても戦闘には勝てないものですか?」

「実際戦えたのは4人だけでね。奴隷の200人は数を揃えるための子供だったんだよ」


 奴隷は基本、人口の流出を避けるため、他国へ売り出すことは禁止されている。しかし何事にも例外はあって、市民でない奴隷の売り出しは可能であるということだ。


 戦争奴隷や犯罪奴隷といった使いつぶしを前提とした奴隷。

 奴隷商が引き取っている孤児。


 杉原さんが選んだのは孤児たちだった。それも買取ではなく1年間の借り受け。使ってみて使える人材は買い取ればいいと考えた。借り受けで人数を確保し部下を増やすことにしたのだ。

「守るのは4人、浮島には城壁も対空砲もない。これじゃどうあっても数で押し切られるね。それに部下の1人は勝手に飛び出して山を登り始めるし」

 馬謖か!

「もう一人も勝手に一騎打ちを挑んでね。死ななかったようだけど逃亡したよね」

 HIPのYOUだと!俺そういうヤツ好きかも。


と二人じゃ何をどう頑張っても無理だからね、ガンシップに飛び乗って逃げてきたんだ」



杉原家             

100m級超大型浮島 丸裸      

ガンシップ      1機              

兵力         4人          

       VS

私掠空賊団

30m級小型浮島 要塞

ガンシップ    約20機

兵力      約300人



 といったところか。


 戦闘はまず空戦、ガンシップや戦艦による制空権の確保から始まる。

 ガンシップは2人乗りで、前方にガンナー、後方にシールダーが搭乗する。

 ガンナーは操縦とガンシップ前方についている魔導砲での射撃を担当し、シールダーは通信とレーダー探知による指揮、そして簡易結界による防御を担当する。

 普通はガンシップで浮島を直接攻撃することはない。ガンシップの火力では浮島の結界を削り切るまえに浮島の対空砲火で撃ち落とされてしまう。だが今回の杉原の浮島は丸裸だった。空戦だけで一方的にタコ殴りにされ、破られた結界から敵の侵入を許した。


 普通の戦闘は空戦であるていど制空権を確保してから、相手の浮島の結界の浸食に入る。

 これが陸戦。こちらの浮島からバトルフィールドを発生させ、相手の浮島を包囲していく。相手もバトルフィールドを発生させ、2つの浮島の結界の陸地が繋がったとき、陸戦がはじまる。

 陸戦は結界内部での戦であるためガンシップは使えない。

 こちらは軍対軍のガチ殴り。

 自陣の地形効果を利用し戦闘を有利に運ぶため、自陣を広げながら相手を撃破していく。敵の撃破が終われば攻城戦が始まり、相手の本拠地の宝玉を奪えば戦闘終了である。


 丸裸の浮島でどう戦うか。

 空戦ではまず勝ち目がない。

 唯一勝機のある陸戦に持ち込むしかない。

 制空権は諦め、接敵したら即座にバトルフィールドを張る。制空権をとられている分相手の陣に囲まれてしまうが、それを押し上げて逆転するより仕様がない。

 敵300を不利な状況から打ち破る。こちらも300、いや俺もアンダくんも戦闘向きではない。最低300、そしてそれ以上の戦力は必要だ。


「あと……商売のことですが」

「そのことで僕もタナカさんに相談があってね。僕をここの住人にして欲しいんだ」

「俺の部下になると?」

「いや、僕はもう加護をくれる神様がいないからね。自由になったんだ。だから領地経営とか戦争とかは興味ない。ヘスと二人、冒険と商売でもやってこうかと思ってる。だからここを拠点にしたいんだ。稼ぎの半分を税で払ってもいい。それでも十分稼げると思うからね。あと住むところがなくなるのは嫌だから、防衛戦のときヘスと二人で協力するよ。悪い話じゃないと思うんだ」


 うーん。そんな稼ぐ自信があるなら、こんな何もないところに住む必要はないんじゃないのか。それともここでしかできない何かなのだろうか。


「長くいい付き合いがしたいからね。あした公証人に契約書をかいてもらってもいい」

 即答はできんなぁと考えていると、本拠地からアンダくんが出てきた。



「主」

 アンダくんに呼ばれたのをきっかけに俺はその場を離れた。


 本拠地に戻る。

 アンダくんが指さす方向をみるとスクリーンに拡大された映像が映っていた。


 谷底の雪に突っ込んでいったかのように投げ出された2機のガンシップ。どちらも黒い煙を出している。

 その近くで野性的な巨乳の美女と黒髪の美しい綺麗系のお姉さんが抱き合っている。


「兄者~」

「張飛~」


 その横では二人の男が、お互いペコペコとお辞儀をしながら、「いや~まいった。まいった」みたいなリアクションをとっている。日本人的な、まことに日本人的な、初対面の挨拶風景である。顔は西洋風の美形なのに。


「凍死する」

 うん、そうだね。

 あんなとこいたら凍え死ぬね。


 俺は杉原さんたちと輸送船に乗って4人の救出に向かった。


 もと張飛?ワイルドな巨乳さんの主が野口さん、魔法全振り魔攻系チート。

 もと関羽?お姉さん系巨乳さんの主が田原さん、物魔両振り支援系チート。



「いや~いちゃいちゃしてたら私掠空賊団に攻め滅ぼされちゃいました」

 野口、お前もか!


「おやおや、野口さんもですか~私もいちゃついてたら私掠空賊ですし~」

 田原、お前ら何やってんだ!



「はわわわわ、みなさん、怪我されてるじゃないですか。私少しなら回復魔法が使えますので、順番に直していきますね」

 ん?孔明先生、回復魔法って使えましたっけ?


「おやおや、ヘスティアタマキさんは神官様でしたか」

「いえいえ、ご主人様の怪我を直してあげたくて最近練習している程度です」

 ほおほお、ポンコツになってしまったかと思っていたが、孔明先生はやはり孔明先生ってことか。


「さすがはヘスティアタマキさんですね」

 と俺が感心していると、孔明先生は頬を染めながら、

「私がつけたですから……(ポッ)」

 帰れっ!そして喋るな!

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